記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

理想的な物理理論としての電磁気学(1)

物理学の様々な分野を勉強する上で,電磁気学は理論のお手本として提示されることが多い.つまり,成功した理論である電磁気学との類推で新しい理論の方針を決めるという場面が非常に多い.そのため,電磁気学のどこを見て成功している理論と呼んでいるのかを理解していなければ,その他の分野を勉強する上で指針がなくなってしまう.そこで,他の分野へのお手本として電磁気学を捉えるという目標で,電磁気学を整理していく.

以下の内容は牟田泰三『電磁気学』(岩波書店)を参考にした。

マクスウェル方程式

電磁気学で扱われるすべての現象は以下のマクスウェル方程式から導くことができる.本記事ではマクスウェル方程式の物理的な意味の説明は省略し,この方程式自体を考察するところから始めていく.

マクスウェル方程式だけでは,条件は不十分で,適切な問題設定を与えなければならない.特に, \mathbb{E}\mathbb{D} および  \mathbb{H} \mathbb{B} の関係を表す条件が与えられなければ,方程式は解きようがない.状況の一つとして,例えば等方一様媒質においては以下の関係が成り立つのであった.

等方一様媒質において,
 \displaystyle
\qquad \begin{align}
&\mathbb{D} = \epsilon \mathbb{E} \\
&\mathbb{H} = \frac{1}{\mu} \mathbb{B}
\end{align}

このような条件があれば,あとは  \rho, \mathbb{j} および境界条件を与えることで方程式の解を考えることができる.

ポテンシャル

マクスウェル方程式は4つの変数  \mathbb{E}, \mathbb{D},  \mathbb{H}, \mathbb{B} に関する方程式であるが,ポテンシャルと呼ばれる変数を用いれば便利である.これを導入するために以下のベクトル解析の定理を用いる.

ポアンカレ補題

 \mathrm{rot} \mathbb{V} = 0\, \Leftrightarrow \, ある関数  \phi が存在して  \mathbb{V} = \mathrm{grad} \phi と書ける.

 \mathrm{div} \mathbb{V} = 0\, \Leftrightarrow \, あるベクトル  \mathbb{A} が存在して  \mathbb{V} = \mathrm{rot} \mathbb{A} と書ける.

このポアンカレ補題を用いよう.
マクスウェル方程式(2)  \mathrm{div} \mathbb{B} = 0 より、 \mathbb{B} = \mathrm{rot} \mathbb{A} となる  \mathbb{A} が取れる.さらにこの式とマクスウェル方程式 (4) により
 \displaystyle
\qquad \mathrm{rot} \left(\mathbb{E} + \frac{\partial \mathbb{A}}{\partial t} \right) = 0
なので,ポアンカレ補題により
 \displaystyle
\qquad \mathbb{E} + \frac{\partial \mathbb{A}}{\partial t} = - \mathrm{\phi}
となる  \phi が取れる.つまり, \phi, \mathbb{A} を用いて
 \displaystyle
\qquad 
\begin{align}
&\mathbb{B} = \mathrm{rot} \,\mathbb{A}\\
&\mathbb{E} = -\mathrm{grad} \, {\phi} - \frac{\partial \mathbb{A} }{\partial t}
\end{align}
と表すことができる.この  \mathbb{A} を磁束密度 \mathbb{B} に対するベクトルポテンシャル \phiスカラーポテンシャルと呼ぶ.

(定義) ポテンシャル
 \phi, \mathbb{A} がポテンシャルであるとは,
 \displaystyle
\qquad 
\begin{align}
&\mathbb{B} = \mathrm{rot} \,\mathbb{A}\\
&\mathbb{E} = -\mathrm{grad} \, {\phi} - \frac{\partial \mathbb{A} }{\partial t}
\end{align}
を満たすことをいう.

ゲージ変換

ポテンシャル  \phi, \mathbb{A} を導入したが,ここで,
 \displaystyle
\qquad 
\begin{align}
& \mathrm{rot} \, \mathbb{A}_{\chi} = 0 \\
& \mathrm{grad} \, \phi_{\chi} +  \frac{\partial \mathbb{A}_{\chi}}{\partial t} = 0
\end{align}
となる  \phi_{\chi}, \mathbb{A}_{\chi} を取ると,
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\mathbb{B} = \mathrm{rot} \,\mathbb{A} = \mathrm{rot}\,  ( \mathbb{A} + \mathbb{A}_{\chi}) \\
&\mathbb{E} = -\mathrm{grad} \, {\phi} - \frac{\partial \mathbb{A} }{\partial t} = -\mathrm{grad} \, ({\phi + \phi_{\chi} }) - \frac{\partial (\mathbb{A} +\mathbb{A}_{\chi}) }{\partial t}
\end{align}
となる.つまり, \phi + \phi_{\chi},  \mathbb{A} + \mathbb{A}_{\chi} もポテンシャルになるのである.あるいはポテンシャルには   \phi_{\chi}, \mathbb{A}_{\chi} 分の不定性があると言ってもいい.


このように, \phi ,  \mathbb{A} \phi + \phi_{\chi},  \mathbb{A} + \mathbb{A}_{\chi} に変化させることをゲージ変換といい,この変換で  \mathbb{B}, \mathbb{E} が変わらないことはゲージ不変性と呼ばれる.


ところで,
 \displaystyle
\qquad \mathrm{rot} \mathbb{A}_{\chi} = 0
なので, \mathbb{A}_{\chi} = -\mathrm{grad} \chi となる関数  \chi が存在する.さらに
 \displaystyle
\qquad \mathrm{grad} \left( \phi_{\chi} - \frac{\partial \chi}{\partial t} \right) = 0
なので, t にのみ依存する関数  C(t)
 \displaystyle
\qquad   \phi_{\chi} - \frac{\partial \chi}{\partial t} = C(t)
と書ける.ここで, \chi + \int^t C(t') dt' を改めて  \chi と書くことにすると
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\mathbb{A}_{\chi} = -\mathrm{grad}\, \chi \\
&\phi_{\chi} = \frac{\partial \chi}{\partial t}
\end{align}
が成り立つ.つまり,ゲージ変換とはある関数  \chi を用いて
 \displaystyle
\qquad (\phi, \mathbb{A}) \rightarrow (\phi + \frac{\partial \chi}{\partial t}, \mathbb{A} - \mathrm{grad} \chi )
と変換することに他ならないことがわかった.

(定義) ゲージ変換
ある関数  \chi を用いて
 \displaystyle
\qquad (\phi, \mathbb{A}) \rightarrow (\phi + \frac{\partial \chi}{\partial t}, \mathbb{A} - \mathrm{grad} \chi )
とポテンシャルを変換すること.

ゲージ変換によりポテンシャルが良い性質を満たすように変換することができるが,そのようにしてポテンシャルを一つの形に決めることをゲージを固定するという.

ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式

最後にゲージ変換の応用を述べる.マクスウェル方程式 (1) と (3) をまだ使っていなかった.等方一様媒質と仮定すれば
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\mathbb{D} = \epsilon \mathbb{E} \\
&\mathbb{H} = \frac{1}{\mu} \mathbb{B}
\end{align}
なので,これとポテンシャルを用いてマクスウェル方程式を書き換える.
それにはベクトル解析の公式を用いる.

(公式)
 \qquad \displaystyle \mathrm{div}\, \mathrm{grad} = \Delta
 \qquad \displaystyle \mathrm{rot}\, \mathrm{rot} = \mathrm{grad}\, \mathrm{div} - \Delta

さて,この公式とポテンシャルを用いれば,ちょっと計算すれば,マクスウェル方程式(1)は
 \displaystyle
\qquad \Delta \phi + \frac{\partial \, \mathrm{ div} \mathbb{A} }{\partial t} = - \frac{1}{\epsilon} \rho
となる.また,マクスウェル方程式(3)は
 \displaystyle 
\qquad
\begin{align}
\Delta \mathbb{A} - \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} - \mathrm{grad} \left( \epsilon \mu \frac{\partial \phi}{\partial t} + \mathrm{div} \mathbb{A} \right) = 0
\end{align}
となる.

マクスウェル方程式(2)と(4)はポテンシャルの定義から自動的に成立するので,ポテンシャル  \phi, \mathbb{A} を用いればマクスウェル方程式
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\Delta \phi + \frac{\partial \, \mathrm{ div} \mathbb{A} }{\partial t} = - \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\Delta \mathbb{A} - \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} - \mathrm{grad} \left( \epsilon \mu \frac{\partial \phi}{\partial t} + \mathrm{div} \mathbb{A} \right) = - \mu \mathbb{j}
\end{align}
となる.

ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\Delta \phi + \frac{\partial \, \mathrm{ div} \mathbb{A} }{\partial t} = - \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\Delta \mathbb{A} - \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} - \mathrm{grad} \left( \epsilon \mu \frac{\partial \phi}{\partial t} + \mathrm{div} \mathbb{A} \right) = - \mu \mathbb{j}
\end{align}

最後にゲージ変換により,ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式を簡単化することを考えよう.

ローレンツゲージ

まず,
 \displaystyle
 \qquad \epsilon \mu \frac{\partial \phi}{\partial t} + \mathrm{div} \mathbb{A} = 0
となるように  \phi, \mathbb{A} をとる.この条件をローレンツ条件という.この条件の下ではマクスウェル方程式
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\epsilon \mu \frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2} -\Delta \phi =  \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\displaystyle  \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} - \Delta \mathbb{A} =  \mu \mathbb{j}
\end{align}
となることが簡単にわかる. \phi \mathbb{A} の方程式はほぼ同じになっている.

ここでローレンツ条件を満たすようにゲージ変換することができるかを考えよう.ポテンシャル  (\phi + \frac{\partial \chi}{\partial t}, \mathbb{A} - \mathrm{grad} \chi )ローレンツ条件を満たすための条件は
 \displaystyle
\qquad \epsilon \mu \frac{\partial^2 \chi}{\partial t^2}  - \Delta \chi = \mathrm{div} \mathbb{A} - \frac{\partial \phi}{\partial t}
となることが分かる.適当なポテンシャル  \phi, \mathbb{A} に対してこの方程式を解けば,ローレンツ条件を満たすようにゲージ変換することができる.

クーロンゲージ

次に
 \displaystyle
\qquad \mathrm{div} \mathbb{A} = 0
となるように  \phi, \mathbb{A} をとる.この条件をクーロン条件という.この条件の下ではマクスウェル方程式が,
 \displaystyle
\qquad 
\begin{align}
&\Delta \phi = - \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\Delta \mathbb{A} - \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} -  \epsilon \mu \mathrm{grad}  \frac{\partial \phi}{\partial t} = - \mu \mathbb{j}
\end{align}
となることが簡単にわかる. \phiポアソン方程式を満たすことになり,しかも,これはクーロンポテンシャルを求めるときにも現れた方程式そのままである.

クーロン条件の下でのマクスウェル方程式
クーロン条件
 \displaystyle
\qquad \mathrm{div} \mathbb{A} = 0
の下で
 \displaystyle
\qquad 
\begin{align}
&\Delta \phi = - \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\Delta \mathbb{A} - \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} -  \epsilon \mu \mathrm{grad}  \frac{\partial \phi}{\partial t} = - \mu \mathbb{j}
\end{align}

最後に

本記事ではポテンシャル  \phi, \mathbb{A} を導入した.特に,ローレンツ条件の下でのマクスウェル方程式
 \displaystyle
\qquad
\begin{align}
&\epsilon \mu \frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2} -\Delta \phi =  \frac{1}{\epsilon} \rho \\
&\displaystyle  \epsilon \mu \frac{\partial^2 \mathbb{A} }{\partial t^2} - \Delta \mathbb{A} =  \mu \mathbb{j}
\end{align}
となることが非常に重要である.

次回は特殊相対論を使って考察していくが,マクスウェル方程式に現れる
 
\qquad \displaystyle \epsilon \mu \frac{\partial^2}{\partial t^2} -\Delta
という作用素が特殊相対論の観点から重要になってくる.よく見れば,ローレンツ条件にもこの作用素が現れていることにも注意しておきたい.

オイラー・ポアソン方程式とリー・ポアソン構造

(この記事は数理物理 Advent Calendar 2018 - Adventar 4日目の記事です。)

固定点を持つ剛体の運動を表す方程式(つまり,コマの方程式)はオイラーポアソン方程式と呼ばれ*1,以下のように書ける.
 \displaystyle
\qquad \dot{\Gamma} = \Gamma \times \Omega \\
\qquad \dot{M} = M \times \Omega + \Gamma \times L,

本記事の目標はこの方程式がラックス形式で書けることを確認することである.それを通して,リー・ポアソン構造の有用さが分かると思う.

この問題に対する私のモチベーションを少し書く.オイラーポアソン方程式の可積分性というのは面白い問題であるが,本来,可積分性はシンプレクティック形式から定まるポアソン括弧で書けるハミルトン系に対する概念である.そこで,オイラーポアソン方程式が今のべた意味でのハミルトン系で書けるかというのを調べたいのが私のモチベーションである.

準備

少し長いので簡単な流れを述べておく.
(1)リー代数  V があるとき, V^* 上の関数にポアソン構造を入れることができる.これにより  V^*上のハミルトン系が定義できる.
(2)リー代数に非退化な対称双線形形式があるとき, V上の関数にポアソン構造を入れることができる.これにより  V上のハミルトン系ができる.
(3)さらに,双線形形式がアジョイント不変であれば, V上のハミルトン系はラックス形式で書ける.

ポアソン構造

まずリー代数の定義を復習する.係数体を  \mathbb{R}とするベクトル空間  Vを考える. このベクトル空間に対し演算  [\cdot ,\, \cdot] \colon V\times V \to Vが存在し, 以下の性質を満たす.

(1)双線型である.つまり, [a v_1+bv_2, w ] = a [ v_1, w ]+ b [v_2, w] かつ  [v, aw_1 + bw_2 ] = a[v, w_1 ]+ b[v, w_2] ;

(2)反対称である.つまり,  [v, w] = - [w, v] ;

(3)ヤコビ恒等式が成り立つ.つまり, [v_1, [v_2 , v_3 ] ] + [ v_2, [v_3, v_1 ] ] + [ v_3, [v_1 , v_2 ] ] =0
このとき, Vリー代数という.演算  [ \cdot, \cdot] はリー括弧と呼ばれる.


次に,ポアソン構造を定義する. \mathrm{C}^{\infty} 級の実多様体  Mを考える.多様体上の  \mathrm{C}^{\infty}級の関数の集合  \mathrm{C}^{\infty} (M)に対して,演算  \{ \cdot , \cdot \} \colon \mathrm{C}^{\infty} (M) \times \mathrm{C}^{\infty} (M) \rightarrow \mathrm{C}^{\infty} (M)があり, リー括弧の性質(1),(2),(3)に加えて,

(4)ライプニッツ則,つまり, \{F, GH \} = \{F, G\} H + G \{F, H\}

を満たすとき, Mポアソン多様体と呼ばれる. 演算  \{\cdot , \cdot \}ポアソン括弧と呼ばれる.
ライプニッツ則は  \{ f, \cdot\}ないし \{ \cdot ,\, f\}微分であることを表す(微分代数の考え方).

 Mポアソン多様体とし,関数  H \in \mathrm{C}^{\infty} (M)を定めると, X_{H} = \{H , \cdot\}M上のベクトル場になっている. これをハミルトンベクトル場という. これにより定まる微分方程式
\displaystyle
\qquad \dot{x} = X_H (x)
をハミルトン系という. Hをハミルトン系のハミルトン関数という. 多様体で定義したため若干説明不足な部分があるが  M = \mathbb{R}^nのケースだと単に n次元微分方程式
\displaystyle
\qquad \dot{x_i} = \{H , x_i\}, \quad i = 1,\, \dots n
である. ハミルトン関数  Hのハミルトン系に対して,  F \in \mathrm{C}^{\infty} (M) が保存量であることは  \{H, F\} = 0と同値である. それは  X_H (F) = \{ H, F\}から自明である. 微分形式に慣れていれば,
\displaystyle
\qquad \frac{d}{dt} F(x) = dF (\dot{x}) = dF(X_H) = X_H (F)  = \{ H, F\}
からもよくわかる.
特に,ハミルトン関数自身は常に保存量である.また,ヤコビ恒等式より2つの保存量  F, G に対し, \{ F, G \} も保存量となる.任意の関数  H \in \mathrm{C}^{\infty} (M) に対して  \{H , C\} = 0 となる関数  C \in \mathrm{C}^{\infty} (M)カシミール(Casimir)関数という.つまり,カシミール関数はポアソン括弧によりできる任意のハミルトンベクトル場の保存量である.言い換えると,カシミール関数  Cに対してハミルトンベクトル場は  X_C = 0 であるとも言える.

リー・ポアソン構造

リー・ポアソン構造を説明するために,まずリー代数  Vの双対空間 V^*ポアソン構造が入ることを見る.まず,わかりやすさのために  v \in V,\, \mu \in V^*に対し, \langle \mu , v\rangle := \mu (v)と書くことにする. V^* 上の関数  F \in \mathrm{C}^{\infty} (V^*)に対して, \nu \in V^* での勾配  D_{\nu}F V^*から \mathbb{R}への線形写像になっているため, D_{\nu} F\in V^{**}であり, Vとの同一視,つまり,
\displaystyle
\qquad D_{\nu}F (\mu) = \left\langle \mu , \frac{\delta F}{\delta \nu} \right\rangle
となる元  \frac{\delta F}{\delta \nu} \in V が存在する.ここで, V^* 上のポアソン括弧を
 \displaystyle
\qquad \{F , G\} (\mu) = \left\langle \mu , \left[ \frac{\delta F}{\delta \mu}, \frac{\delta G}{\delta \mu} \right] \right\rangle
と定めることができる. このようにできたポアソン括弧をリー・ポアソン括弧という.

 V 上にポアソン構造を定めるためには Vの非退化な対称双線形形式  \eta ( \cdot , \cdot )が必要である. \etaがあれば,  F \in \mathrm{C}^{\infty} (V), v \in Vに対して, D_{v} F \in V^*なので
 \displaystyle
\qquad \left\langle D_v F, w\right\rangle = \eta(\nabla_v F , w ) ,\quad  ^{\forall} w \in V
となる  \nabla_v F \in Vが(非退化な条件より)一意に定まる.これにより, V上にもポアソン構造が
 \displaystyle
\qquad \{F, G\} (v) = \eta( v ,\, [ \nabla_v F ,\, \nabla_v G])
\
で定まる.

ラックス形式

ここで, \muが特殊な場合にはハミルトン系がいわゆるラックス形式でかけることを見る. ここで仮定するのは  \muのアジョイント不変性, つまり,
 \displaystyle
\qquad \eta(v_1 , [v_2 ,\, v_3] ) = \eta ( [v_1 , v_2] ,\, v_3) ,\quad  ^{\forall}v_1, v_2 , v_3 \in V
である.このとき, V上の関数  G, H v \in Vに対し,
 \displaystyle
\qquad \{ H, G \} (v) = \eta(v , [\nabla_v H , \nabla_v G] )\\
\;\;\quad \qquad \qquad = \eta( [v , \nabla_v H ] , \nabla_v G)\\
\;\;\quad \qquad \qquad = \eta( \nabla_v G, [v, \nabla_v H] )\\
最後に  \nabla_v G の定義より,
\displaystyle
\qquad \eta( \nabla_v G , [v, \nabla_v H ]) =\left\langle D_v G, [v, \nabla_v H]\right\rangle
となる.そのそもハミルトンベクトル場  X_Hは任意の関数  Gと点  v\in Vに対し  X_H (G) (v) = \{H, G\} (v) = \left\langle D_vG , X_H(v) \right\rangleとなるものだったので, X_H(v) = [v , \nabla_v H ] であることがわかる.よって,ハミルトン系も
 \displaystyle
\qquad \frac{dv}{dt} = [v , \nabla_v H ]
と書ける. これをラックス形式という.

オイラーポアソン方程式

以上の準備の下,オイラーポアソン方程式ポアソン構造と見る方法を述べる.まず線形空間  V = \mathbb{R}^6を考え,元を  v = (\Gamma , M)^t \in \mathbb{R}^3 \times \mathbb{R}^3 = Vと書く. \GammaMも縦ベクトルと見たいので,少し書き方が変であるが,伝わると思うので縦ベクトルと横ベクトルの区別はおおらかにする.

リー括弧を  v = (\Gamma , M)^t, \bar{v} = (\bar{\Gamma} , \bar{M})^tに対して,
 \displaystyle
\qquad [v ,\, \bar{v} ] = (\Gamma \times \bar{\Gamma}, \Gamma \times \bar{M} + M \times \bar{\Gamma} )^t
で定める.次に非退化な対称双線形形式  \eta
 \displaystyle
\qquad \eta (v, \bar{v}) = \Gamma \cdot \bar{M} + M \cdot \bar{\Gamma}
と定める. \etaを行列  Nで表現すると
 \displaystyle
\qquad N = \left(\begin{matrix}
0 & E_3 \\
E_3 & 0
\end{matrix}\right)
であり(つまり, \mu(v, \bar{v}) = v^t N \bar{v})非退化で対称なことがすぐに分かる. V上の関数を  Fとし, Fに対して \nabla_v F = (\tilde{\Gamma}, \tilde{M} )^t \in V が定まる.計算すると
 \displaystyle
\qquad \left\langle D_v F , \bar{v} \right\rangle = \sum_{i=1}^3 \frac{\partial F}{\partial \Gamma_i}(v) \bar{\Gamma_i} + \sum_{i=1}^3 \frac{\partial F}{\partial M_i}(v)\bar{M_i}
であり,
 \displaystyle
\qquad \eta(\nabla_v F , \bar{v}) = \sum_{i=1} \tilde{\Gamma}_i \bar{M}_i + \sum_{i=1}^3 \tilde{M}_i \bar{\Gamma}_i
なので,任意の  \bar{v}
 \displaystyle
\qquad \left\langle D_v F , \bar{v} \right\rangle =\eta(\nabla_v F ,\, \bar{v})
が成り立つことから,両辺を比較すると,
 \displaystyle
\qquad \nabla_v F = \left(\frac{\partial F}{\partial M}(v) , \frac{\partial F}{\partial \Gamma_i}(v) \right)^t
であることが分かる.具体的には
 \displaystyle
\qquad \nabla_v H = (\Omega , L)^t , \quad \nabla_v H_2 = (\Gamma , M)^t ,\quad \nabla_v H_3 = (0 , 2\Gamma)^t
であることが分かる.

ポアソン括弧からもハミルトンベクトル場を計算できるが,すでにラックス形式で計算できることが分かっているので,
 \displaystyle
\qquad \dot{v} = [v, \nabla_v H]\\
\quad \quad \;\,=[ (\Gamma , M)^t , (\Omega , L)^t ] \\
\quad \quad \;\,=( \Gamma \times \Omega , M \times \Omega + \Gamma \times L)^t
となる.つまり,通常のオイラーポアソン方程式
 \displaystyle
\qquad \dot{\Gamma} = \Gamma \times \Omega \\
\qquad \dot{M} = M \times \Omega + \Gamma \times L

に一致した.

*1:吉田春生先生の用語に従っているが,この方程式をオイラーポアソン方程式と呼んでいいものか分からない.

Kovacicのアルゴリズム

Kovacic(コバシック)のアルゴリズムとは,2階の線形微分方程式を解くアルゴリズムです.もちろん,解けない微分方程式もあるのですが,解ける時は解を求め,解けない時は求まらないことを教えてくれます.このアルゴリズムMapleMathematicaでも使われています.

このアルゴリズムについて解説したpdfを書いたのでここにリンクを貼っておきます.現段階では完成しているわけではないですが,アルゴリズムを理解する上で十分なことは書いてあるはずです.

kovacic.pdf - Google ドライブ

発散級数とBorel-Laplace総和

この記事では,収束するとは限らない級数に関数を対応させる方法である,ボレル変換とラプラス変換を説明します.例として,ときどき紹介される謎の式
 \displaystyle
\qquad 1 - 1 + 2 - 6 + 24 - 120 + \dots  = 0.59634732...
についても説明します.

前提知識がある人のために注意しておくと,本記事では原点が特異点の場合を考えている.よって,ラプラス変換の定義や形式ボレル変換は,無限遠点を特異点と考えるときと違う.また,ジュブレー位数が  1 の場合だけを考えていく.さらに,基本的に角領域が  \arg s = 0 で二等分されている状況を考える.

収束級数と形式的ベキ級数

収束ベキ級数があったとき,それを関数と同一視してしまいがちであるが,厳密には区別すべきである.収束するとは限らないベキ級数はハットの記号を使って  \hat{f} (z) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n のように表す.形式ベキ級数の集まりを  \mathbb{C} [ [ z ] ] と表す.

形式ボレル変換

さて,収束しないベキ級数があったとき,無理やり係数を小さくして収束級数に変換するのはそれほど不自然ではないだろう.そこで以下の変換を考える.

定義(形式ボレル変換)
形式ベキ級数  \hat{f} (z) = \sum_{n = 0}^{\infty} a_n z^nボレル変換
 \displaystyle
\qquad \hat{\mathcal{B}} (f) (s) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{a_n}{n!} s^n
と定義する.

ここで,変換前と変換後が分かりやすいように変数も  z から  s に変えている.
ボレル変換の逆写像
 \displaystyle
\qquad \sum_{n=0}^{\infty} a_n s^n \mapsto \sum_{n=0}^{\infty} n! a_n z^n
を考えたいが、単に、ボレル変換にこれを作用しても元に戻るだけである。なので、この変換を意味のある別の形にしなければいけない。実はこの変換はラプラス変換である。

定義 (ラプラス変換と逆ラプラス変換
 g(s)ラプラス変換
\displaystyle
\qquad L(g) (z) := \int_0^{\infty} e^{-sz} g(s) ds

 f(z) の逆ラプラス変換
\displaystyle
L^{-1} (f) (s) := \int_{C} e^{zs} f(z) d z
積分路の詳細は省略)

ベキ関数のラプラス変換を考えよう.

命題
 \displaystyle
\qquad L(s^n) (z) = \int_0^{\infty} e^{-sz} s^n ds = \frac{n!}{z^{n+1}}
特に,適当な仮定の下
 \displaystyle
\qquad L \left( \sum_{n=0}^{\infty} a_n s^n \right) (s) = \sum_{n=0}^{\infty} n! a_n \frac{1}{z^{n+1}}

(証明)数学的帰納法で示す. n = 0 のとき、
 \displaystyle
\qquad \int_0^{\infty} e^{-sz} ds = \left[ - \frac{e^{-sz}}{z} \right]_0^{\infty} = \frac{1}{z}
であり, n=k-1 で成り立つとすれば,
 \displaystyle
\qquad \int_0^{\infty} e^{-sz} s^k ds = \left[ - \frac{e^{-sz}}{z} s^k \right]_0^{\infty} +  \frac{k}{z} \int_0^{\infty}  e^{-sz} s^{k-1} ds\\
\displaystyle \qquad \qquad \qquad \quad = \frac{k}{z} \frac{(k-1)!}{z^{k}}\\
\displaystyle \qquad \qquad \qquad \quad = \frac{k!}{z^{k+1}}
となるので,数学的帰納法により成立. \square

この命題で残念なところが二つあります.まず,ラプラス変換後は  z多項式ではなく, 1/z多項式になっている.また,n! がかかる項が  1/z^{n+1} の係数なので、一つ期待とはずれています.そこでうまくいくようにラプラス変換を少し変えましょう.

定義
 g(s) に対して
 \displaystyle
\qquad \mathcal{L} (g) (z) = z^{-1} \int_0^{\infty} \exp \left(-\frac{s}{z} \right) g(s) ds
と定める.以下では  \mathcal{L} (g) gラプラス変換という*1

命題
 \displaystyle
\qquad \mathcal{L} (s^n) (z) = z^{-1} \int_0^{\infty} \exp \left(-\frac{s}{z} \right) s^n ds = n! z^n
特に,適当な仮定の下,
 \displaystyle
\qquad L \left( \sum_{n=0}^{\infty} a_n s^n \right) (s) = \sum_{n=0}^{\infty} n! a_n z^n

証明は普通のラプラス変換と同じである.

さて,積分
 \displaystyle
\qquad  \int_0^{\infty} \exp \left( -\frac{s}{z} \right) g(s) ds
 |g(s)| \leq e^{c |s|} と指数的に抑えられるとすると,
 \displaystyle
 \qquad  \left| \int_0^{\infty} \exp \left(-\frac{s}{z} \right) g(s) ds \right| \leq \int_0^{\infty} \exp \left(-\mathrm{Re} \left( \frac{s}{z} \right) \right) |g(s)| ds \leq \int_0^{\infty} \exp \left( - \frac{s}{|z|} \cos ( \arg z ) + c s \right) ds
より,
 \displaystyle
\qquad \cos (\arg z) > c |z|
となる  z では積分が収束する.よって,特に, - \frac{\pi}{2} < \arg z < \frac{\pi}{2} かつ十分絶対値が小さい  z f(z) = \mathcal{L} (f) (z) はちゃんと定義される.

これが非常に面白いことになっていることに気づいてください.形式ボレル変換にその逆変換を行ったら元に戻って何も変わらないはずです.しかし,ラプラス変換は関数から(定義域が全体とは限らない)関数への写像となっています.特に,もともと形式ベキ級数で関数が定まらないものであっても,ラプラス変換で戻した時はあくまで  - \frac{\pi}{2} < \arg z < \frac{\pi}{2} と定義域を制限しているため矛盾は起こっていないのです.

さて,本当にもとの関数に戻るのでしょうか?厳密にいうともとは形式ベキ級数  \hat{f} であり,ボレル変換とラプラス変換後の  f は関数なので比較しようがありません.そこで,べき級数と関数を比較する方法を考えましょう.

漸近展開

まず角領域を定義する.

(定義)
実数  \theta_1 < \theta_2 に対して,
 \displaystyle
\qquad S(\theta_1, \theta_2) := \{z \mid \theta_1 < \arg z < \theta_2 \}
とする.

複素平面では  \arg z = \arg (z + 2\pi) なので, \theta_2 - \theta_1 > 2\pi のときに  S(\theta_1, \theta_2) が意味がないように思うかもしれないがそうではない.曖昧に書いてしまったが,例えば  \log z のような多価関数は  \arg z' =  \arg z + 2 \pi のとき  \log z' = \log z + 2 \pi i となる.このように,多価関数を1価関数と見るために, 0 の角度と  2\pi の角度を区別する必要がある.(曖昧な書き方だが分かる人には分かるだろうから細部にこだわらない.)

また, r > 0 に対して, S(\theta_1, \theta_2, r) = S(\theta_1, \theta_2) \cap \{ z \mid | z | < r \} とおく. S(\theta_1, \theta_2) S(\theta_1, \theta_2, r)開角領域という.また,開各領域の閉包から原点を除いたものを閉角領域という.また, \theta_2 - \theta_1角領域の角度と呼ぶことにする.

(定義)
開角領域 S S で解析的な関数  f を考える.
 f が形式ベキ級数  \hat{f} (z)= \sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n位数  1 で漸近的に等しい,あるいは,  \hat{f} に位数  1 で漸近展開可能であるとは, S に含まれる任意の閉角領域  S_1 に対して,ある定数  C,K>0 が存在し,任意の自然数  N z \in S_1 に対して,
 \displaystyle
\qquad \left| f(z) - \sum_{n=0}^{N-1} a_n z^n \right| \leq C K^N N! |z|^N
が成り立つことをいう.

位数  1 である  \hat{f} に漸近展開可能な  f のなす集合を  \mathcal{A}_1 (S) と表す.

簡単に意味を説明すると,漸近展開可能であるとは,形式ベキ級数を有限項で打ち切るとそれは関数になるが,それとの差が(打ち切った次数以上の位数の)多項式で抑えられることを意味する.ただし,この誤差の項の係数の  N に関する依存性に制限を設けている.

ここで, f\in \mathcal{A}_1 (S) に対して,ある形式ベキ級数  \hat{f} \in \mathbb{C} [ [z ] ] が定まるのでそれを  Jf と表すことにする.このときの  Jf の性質を考えてみよう.

 Jf (z) = \sum_{n =0}^{\infty} a_n z^n としたとき,
 \displaystyle
\qquad |a_N| = |a_N z^N| \cdot \frac{1}{|z|^N}
 \displaystyle
\qquad \qquad= \left|\sum_{n=0}^N a_n z^n - \sum_{n=0}^{N-1} a_n z^n \right|   \cdot \frac{1}{|z|^N}
 \displaystyle
\qquad \qquad \leq \left|f(z) - \sum_{n=0}^N a_n z^N \right|  \cdot \frac{1}{|z|^N} + \left| f(z) - \sum_{n=0}^{N-1} a_n z^n \right|  \cdot \frac{1}{|z|^N}
 \displaystyle
\qquad \qquad = C K^{N+1} (N+1)! |z| + C K^N N!

よって,十分原点に近い  z を考えることで,
 \displaystyle
\qquad |a_N| \leq C K^N N!
が成り立つことが分かる.このような級数に名前をつけておこう.

(定義)
形式ベキ級数  \hat{f} = \sum_{n=0}^{\infty} a_n z^nジュブレー位数 1 であるとは,
定数  C,K>0 が存在して,
 \displaystyle
\qquad |a_N| \leq C K^N N!
が成り立つことをいう.
ジュブレー位数  1 の形式ベキ級数のなす集合を  \mathbb{C} [ [ z ] ]_1 と表す.

以上の考察により,漸近展開可能な関数からジュブレー位数  1 の形式ベキ級数への関数  J \colon \mathcal{A}_1 (S) \to \mathbb{C} [ [z ] ]_1 が定まったことになる.

証明は省略するが,この写像  J には様々な綺麗な定理が成り立つのでそれを紹介する.まずはRittの定理と呼ばれるもののジュブレー位数  1 のときのバージョン.

(定理)

角領域の角度が  \pi 以下ならば, J \colon \mathcal{A}_1 (S) \to \mathbb{C} [ [z ] ]_1全射である.つまり,ジュブレー位数  1 の形式ベキ級数  \hat{f} に対して, S で解析的な関数  f が存在し, f \hat{f} に位数  1 で漸近展開可能である.

この定理の証明には,形式ボレル変換とラプラス変換を用いる.ただし,本記事ではラプラス変換積分路を  \arg z = 0 に沿ったものにしていたがそれを変更する必要があり,また,有限の点までの積分に修正する必要がある.

元のモチベーションに戻ると,この定理は角領域をある程度小さくすることで(ジュブレー位数  1 の)形式ベキ級数はそれと漸近的に近いある解析関数を必ず得ることを主張している.しかし,残念ながら一意性は必ず成り立たない.なぜなら, e^{-z} S (-\pi, \pi) において(形式ベキ級数の) 0 \in \mathbb{C} [ [z ] ]_1 に漸近展開可能なので,この分の誤差をいつでも入れることができるからである.

一意性を得るためには角領域を大きくする必要がある.

(定理)

角領域  S の角度が  \pi より大きいならば, J \colon \mathcal{A}_1 (S) \to \mathbb{C} [ [z ] ]_1単射である.つまり,任意のジュブレー位数  1 の形式ベキ級数  \hat{f} に対して, \hat{f} に位数  1 で漸近展開可能な関数  f\in \mathcal{A}_1 (S) は一意である.

証明にはやはりBorel変換とLaplace変換を用いる.

ジュブレー位数 1 の形式ベキ級数  \hat{f} は小さな角領域では漸近的に等しい解析関数を持つ.角領域を大きくすることで,この関数が一意である,つまり,形式ベキ級数に対し,関数が一つになる条件を考えたい.実はこれは簡単で,まず,\hat{f} をボレル変換し  \mathcal{B}(\hat{f}) が(ある方向に)Laplace変換できることが必要である.さらに,少し積分路の角度を少しを変えてもラプラス変換が可能なら,それは大きな角領域で漸近展開可能な解析関数を得たことになる.つまり,一意に関数が定まる.

最後に,以上のことを具体例で見ていこう.

オイラー級数

オイラー級数
 \displaystyle
\qquad \hat{\phi} (z) = \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n n! z^n = 1 - z + 2 z^2 - 6 z^3 + \dots
を考えよう.これは明らかに発散級数である.これを形式ボレル変換すると,
 \displaystyle 
\qquad \hat{\mathcal{B}} (\hat{\phi}) (s) =  \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n s^n = \frac{1}{s+1}
となり, s = -1特異点を持つ簡単な有理関数になる.これはラプラス変換可能なので実行すると,
 \displaystyle
\qquad \phi(z) := \mathcal{L} (\hat{\mathcal{B}}(\hat{\phi})) (z) =  z^{-1} \int_0^{\infty} \frac{e^{-z/s}}{s+1} ds
 \hat{\phi} を漸近展開に持つ関数  \phi を得る. \phi積分が計算できず初等関数で書くことができない.
ラプラス変換積分路は  \arg s = 0 としたが,特異点 s = -1 なので  \arg s = -1 を除く任意の方向にラプラス変換できる.よって,この漸近展開は広い角領域で成り立つ.つまり,  \hat{\phi} \phi に一意に漸近展開可能である.

さて,この意味で形式ベキ級数  \hat{\phi} に対して関数  \phi が一意に定まるが,これに  z = 1 を代入することで

\qquad 1 - 1 + 2 - 6 +  \dots + (-1)^n n! + \dots

 \displaystyle
\qquad  \int_0^{\infty} \frac{e^{-s}}{s+1} ds = 0.59634732...
に等しいと書いてあることがある.もちろんナイーブには正しくないが,ある意味でこの発散級数にこの数字を対応させるのにはある程度の正当性がある.

参考文献

基本的には
Balser, "From Divergent Power Series to Analytic Functions"
を参考にした.
複素領域の常微分方程式を扱った本にはほぼ必ず漸近展開を書いている.
他には
Sauzin, "Introduction to 1-summability and resurgence"
が分かりやすく最新の結果も書かれていてオススメである.(arXivにもある.)

*1:この  \mathcal{L}ラプラス変換というのが嫌ならば, \hat{\mathcal{B}} の方を変更する流儀もある

フィルターの収束の意味

以前、位相空間におけるフィルターの収束やそれを一般化した収束空間についていくつかの記事を書きました.フィルターの収束は位相空間論で非常に便利な道具ですが,そのイメージが湧きにくいことから,フィルターを使った議論を毛嫌いする人が多いと感じます.そこで,今回はフィルターの収束が非常に直感的で簡単であることを説明します.

フィルターの収束は集合の収束

実数直線  \mathbb{R} を考えましょう. \mathbb{R} の部分集合の集まりがある点に収束するとはどういうことかを考えます.

例として,部分集合の集まり  \mathcal{B} = \{ [ -1/n, 1/n ] \mid n \in \mathbb{N} \} を考えましょう.これはなんとなく  0 に収束していると見ることが出来そうです.その定式化は色々あるかもしれませんが,ひとまず次のように定義するといいでしょう.

定義1(集合族の収束)

位相空間  X とその部分集合の族  \mathcal{B} に対して, \mathcal{B} a \in X に収束するとは,
 a の任意の近傍  V \in \mathcal{V} (a) に対して,ある集合  A \in \mathcal{B} が存在して, A \subset V が成り立つことを言う.

イプシロン-デルタ論法の類似なので,イメージしやすいと思います.

さて,数列には点の順番がありますが,集合族には集合間に順番はありません.なので,単に一般に集合族を考えても数列と同じ意味合いを持たせることができません.そこで,以下の性質を満たす集合族を考えます:
 
\quad A, B \in \mathcal{B} ならば  A\cap B \in \mathcal{B}
つまり,集合族から二つの集合をとってきたとき,その二つより小さいものも集合族に入っているということです.数列のように一列になっているわけではありませんが,二つの集合をとってきたときそれより小さいものをとることができると言う意味で,小さい集合を生成していけると言うイメージで順番が定まっている感じです.このような集合族をフィルター基と言います.

定義2(フィルター基)

集合  X のその集合族  \mathcal{B}フィルター基であるとは,
 
\quad A, B \in \mathcal{B} ならば  A\cap B \in \mathcal{B}
が成り立つことを言う.

さて,集合族の収束はその定義を見れば分かるように小さい集合のみが本質的です.なので,大きい集合を加えても収束は変わらないことが分かります.

例えば,  \mathcal{B} = \{ [ -1/n, 1/n ] \mid n \in \mathbb{N} \}  [-2, 2] を加えて, \mathcal{B}' = \mathcal{B} \cup [-2.2] を考えても, \mathcal{B} \mathcal{B}' 0 のみに収束します.

そこで,加えても問題ない集合を全部加えてしまう操作を考えます.

定義3(生成されたフィルター)

集合  X とその集合族  \mathcal{B} に対して,

\quad [ \mathcal{B} ] := \{ B \in \mathcal{B} \mid A \subset B となる  A \in \mathcal{B} が存在する ]
と定める.特に, \mathcal{B} がフィルター基のとき, [ \mathcal{B} ]  \mathcal{B}生成されたフィルターという.

命題4

位相空間  X とその集合族  \mathcal{B} に対して, \mathcal{B} a に収束することと  [\mathcal{B} ]  a に収束することが同値.

フィルター基で生成されたフィルターはいくつかの性質を満たすことと同値であり,それを満たす集合族をフィルターと言います.

定義5(フィルター)

集合  X の集合族  \mathcal{F}フィルターであるとは,以下を満たすことを言う:

(a)  A \in \mathcal{F} かつ  A \subset B ならば  B \in \mathcal{F};
(b)  A, B \in \mathcal{F} ならば  A \cap B \in \mathcal{F}

近傍系  \mathcal{V} (a) もフィルターです.わざわざフィルターを導入した理由は以下の性質が成り立つからです.

命題6

位相空間  X とフィルター  \mathcal{F} に対して, \mathcal{F} a に収束することと  \mathcal{V} (a) \subset \mathcal{F} が同値.特に,フィルター基  \mathcal{B} a に収束することと  \mathcal{V} (a) \subset [ \mathcal{B} ] が同値.

このように,収束が単に包含関係で表せることは,様々な議論を簡潔で明快なものとしてくれます.

位相空間における収束空間の役割

距離空間では様々な事実を数列で表すことが出来るのでした.

命題7

距離空間  X に対して以下が成り立つ:

(a) 部分集合  A閉集合であることは, A上の数列  \{a_n \}  a \in X に収束するなら  a \in A となることと同値;

(b) 部分集合  A が開集合であることは,任意の  a \in A に対して数列  \{a_n \}  a \in A に収束するならある  N が存在して  n \geq N に対して  a_n \in A となることと同値;

これは一般の位相空間では成り立つとは限りません.しかしフィルターを使えば類似の性質で表現することができます.

命題8

位相空間  X に対して以下が成り立つ:

(a) 部分集合  A閉集合であることは,フィルター  \mathcal{F} A \in \mathcal{F} となるものが  a \in X に収束するなら  a \in A となることと同値;

(b) 部分集合  A が開集合であることは,任意の  a \in A に対してフィルター  \mathcal{F} a \in A に収束するならある  A \in \mathcal{F} となることと同値;

このように,フィルターを使えば,距離空間でできたことを位相空間でも同様に議論することができます.詳しくは以下の記事を見てください.

tetobourbaki.hatenablog.com

数列とフィルターの違い

数列の代わりとしてフィルターを導入しましたが,数列とフィルターはかなり違うものです.

よく言われる違いの一つとしては,数列は可算性に基づいていることです.数列とは自然数を定義域とする写像と見ることができます.そのため,数列で定義できる概念は可算性が密接に関係します.位相空間論を勉強していると,位相空間における閉集合やコンパクト性が数列で定義できるための条件として可算条件が必要となりますが,それは自然なことです.フィルターはその可算条件とは関係なく一般的に閉集合やコンパクト性を特徴付けることができる利点があり,それが数列との大きな違いです.

もう一つの違いとして,これは個人的に感じていることでありまだ正確に言語化できないのですが,数列の収束とフィルターの収束では"どのような順序概念に基づいて収束するか"が本質的に違うということが挙げられます.これはいくつかの結果から感じることなのですが,その一例として部分列の概念をあげましょう.

数列  \{a_n \} の部分列  \{b_n \} とは,狭義単調増加列  i \colon \mathbb{N} \to \mathbb{N} が存在して, b_n = a_{i(n)} と書けることでした.そのフィルターでの類似は単に自分より細かいフィルターです: つまり,フィルター  \mathcal{G} がフィルター  \mathcal{F} の部分フィルターであるとは , \mathcal{F} \subset \mathcal{G} となることです.直感的には"部分列をとる"操作をフィルターで言い換えると"より細かいフィルターをとる"ことと言い換えることができます.すると,様々な点で数列で言えたこととフィルターで言えることに対応が付きます.対応がつくという意味ではこれでいいのですが,フィルターには数列と同じように自然数上の順序に基づいたものではないので,微妙に順序の情報が落ちてしまいます.部分フィルターの概念を数列で再び言い換えるなら,"数列  \{a_n \} の部分列  \{b_n \} とは,広義単調増加列  i \colon \mathbb{N} \to \mathbb{N} が存在して, b_n = a_{i(n)} と書ける"という定義と整合性があります.集合の集積点と数列の集積点が微妙に違うのもフィルターと数列のこのような差と関係したものだと考えています.

よって,可算性だけで数列とフィルターが一致するわけではありません.また,フィルターは数列の一般化というわけではなく微妙に違うものです.現状の僕の理解をまとめると以下のようになります.

  • フィルターの収束と数列の収束は全く別の概念である
  • 位相空間ではフィルターの収束で様々な概念を定義したり議論したりすることができる.
  • 距離空間では"たまたま"数列の収束でも概念を定義したり議論したりすることができる.

位相性と正則性

位相空間を一般化した収束空間はもちろん位相空間とは限りません.では,位相的であるという性質は何を意味するのでしょうか.実は,正則性の条件の類似であることが知られています.今回はこのことを紹介します.この記事では基本的に以下の記事の知識を仮定します.
tetobourbaki.hatenablog.com

収束空間と位相性(復習)

まず,収束空間の定義を復習する.

定義1(収束空間)

集合  X収束空間であるとは,各点  x \in X に対して、フィルターの集合  \lambda (x) が定まっており以下が成り立つことをいう:

(i) 任意の  x \in X に対して, \langle x \rangle \in \lambda (x) が成り立つ.

(ii) フィルター  \mathcal{F} \in \lambda (x)  \mathcal{F} \subset \mathcal{G} が成り立つなら  \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ;

(iii) フィルター  \mathcal{F}, \mathcal{G} \mathcal{F}, \mathcal{G} \in \lambda (x) ならば,フィルター  \mathcal{F} \cap \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ.

 \mathcal{F} \in \lambda (x) のとき, \mathcal{F} x収束するといい  \mathcal{F} \to x と表す.

(注意)以下の議論では(iii)を弱めた

 \quad (iii) ^\prime フィルター  \mathcal{F} \mathcal{F} \in \lambda (x) ならば,フィルター  \mathcal{F} \cap \langle x \rangle \in \lambda (x) が成り立つ.

でも十分である.

以下で重要になる近傍フィルター,閉包作用素,開核作用素を確認する.
近傍フィルター

 \quad \mathcal{V} (x) := \{ A \subset X \mid \mathcal{F} \to x ならば  A \in \mathcal{F} \}

閉包作用素

 \quad \mathrm{Cl} (A) := \{ x \in X \mid \mathcal{F} \mathcal{F} \to x かつ  A \in \mathcal{F} となるものが存在する \}

開核作用素
 \quad \mathrm{I} (A) := \{ x \in X \mid \mathcal{F} \to x ならば  A \in \mathcal{F} \}

ちなみに,

 \quad \mathcal{V} (x) = \{ A \subset X \mid x \in \mathrm{I} (A) \}

と書けることは重要である.

次に,収束空間が位相的であるための条件を確認しよう.

命題2(位相空間

収束空間が位相的であるためには以下の二つの条件が成り立つことである:

(i) 前位相的である,つまり,近傍フィルター  \mathcal{V} (x) x に収束する.

(ii) 任意の  x A \in \mathcal{V} (x) に対して,ある  B \in \mathcal{V} (x) が存在して全ての  y \in B A \in \mathcal{V} (y) が成り立つ.

正則空間

これまでの記事では分離公理について触れてこなかった.収束空間で正則性を定義するには閉包を用いる.

補題
フィルター  \mathcal{F} に対して,
 
\quad \mathrm{Cl} (\mathcal{F}) := \{ \mathrm{Cl} (A) \subset X \mid A \in \mathcal{F} \}
とすると, \mathrm{Cl} (\mathcal{F}) はフィルター基である.これをフィルター  \mathcal{F} の閉包と呼ぶ.

簡単なので証明は省略する.一般に, \langle \mathrm{Cl} (\mathcal{F} ) \rangle \subset \mathcal{F} なので,フィルターの閉包を取ると粗くなる.正則性とは,収束するフィルターの閉包をとって粗くしても,やはり収束するということである.


定義4(正則)

位相空間  X正則であるとは,全てのフィルター  \mathcal{F} に対して  \mathcal{F} \to x ならば \mathrm{Cl} ( \mathcal{F} ) \to x となることである.

さて,正則性は位相空間においてよく知られた定義と一致することが知られている.その他にもほとんど普通に想像する正則性と一致することが知られているがこの記事では省略する.

位相性と正則性の対比

さて,位相的であることを正則の定義に類似した形で与えよう.そのために,天下り的であるがフィルターの閉包から着想を得た以下の作用素を考えよう.

定義5(近傍化フィルター)

フィルター  \mathcal{F} に対して,
 
\quad \mathrm{V} (\mathcal{F} ) := \{ A \subset X \mid \mathrm{I} (A) \in \mathcal{F} \}
を フィルター  \mathcal{F}近傍化フィルターと呼ぶ*1

近傍化フィルターが実際にフィルターであることや  \mathrm{V} (\mathcal{F}) \subset \mathcal{F} が成り立つのことはすぐに分かる.これを用いると,正則性と全く同様の形式で位相性を特徴付けることができる.

主定理6

収束空間  X に対して, X が位相的であることと,全てのフィルター  \mathcal{F} に対して  \mathcal{F} \to x ならば  \mathrm{V} (\mathcal{F} ) \to x が成り立つことは同値.

主定理を証明するために,いくつかの性質を見ていく.唐突に出てきた近傍化フィルターではあるが,これを用いればいろんな性質を表すことができる.

補題
収束空間において, \mathrm{V} (\langle x \rangle) = \mathcal{V} (x) である.

証明. A \in \mathrm{V} ( \langle x \rangle )  \Leftrightarrow \mathrm{I} (A) \in \langle x \rangle \Leftrightarrow x \in \mathrm{I} (A)
\Leftrightarrow A \in  \mathcal{V} (x) \quad \square

この補題が,近傍化フィルターという用語の由来である.

次に,近傍の開核が近傍であるという位相空間の性質に注目しよう.これは, A \in \mathcal{V} (x) ならば, \mathrm{I} (A) \in \mathcal{V} (x) ということであるが,これは以下のように近傍化フィルターを用いて書き換えることができる.

補題
収束空間において以下の性質は同値:

(i)  A \in \mathcal{V} (x) ならば, \mathrm{I} (A) \in \mathcal{V} (x) ;

(ii)  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x)

証明.一般に \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \subset \mathcal{V} (x) は成り立つので,(ii) は  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \supset \mathcal{V} (x) である.同値性の証明は定義通りの言い換えであるので機械的に示せる. \square

上の二つの補題が近傍化フィルターの役割を表している.さらに,上の事実で位相的であることを特徴付けることはほとんど終わっている.まず,前位相的であることは  \mathcal{V} (x) \to x であるが,これは  \mathrm{V} (\langle x \rangle) \to x である.最後に次の単純な結果がギャップを完全に埋める.

補題

収束空間において,補題8の(ii)  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) が成り立つならば,命題2の(ii) が成り立つ.

(証明)任意の  A \in \mathrm{V} (x) をとると,仮定により  \mathrm{I} (A) \in \mathrm{V} (x) である.そこで, W = \mathrm{I} (A) とすると, y \in W に対して, y \in \mathrm{I} (A) なので  A \in \mathcal{V} (y) である.よって命題2の(ii)が成り立つことが分かった. \square

補題 10
収束空間  X において以下は同値:

(i)  X は位相的;

(ii)  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x かつ  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x);

(iii)  \mathcal{F} \to x ならば  \mathrm{V} (\mathcal{F} ) \to x

(証明)
(i)  \rightarrow (ii)について.位相的なら前位相的なので  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) = \mathcal{V} (x) \to x.また,位相空間において補題8の条件が成り立つことは知られているので  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) が成り立つ.

(ii)  \rightarrow (i)について.  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的.補題9より命題2の(ii)が成立するので,命題2により, X位相空間

(ii)  \rightarrow (iii)について.  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的である. \mathrm{F} \to x とすると  \mathcal{V} (x) \subset \mathcal{F} なので  \mathrm{I} (\mathcal{V} (x)) \subset \mathrm{I}(\mathcal{F}) である. \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) なので, \mathcal{V} (x) \subset \mathrm{I} (\mathcal{F}) となり \mathrm{V}(\mathcal{F}) \to x である.

(iii)  \rightarrow (ii)について.収束空間の定義から, \langle x \rangle \to x なので,  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x である.また,これから  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的であり  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \to x となるので, \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \supset \mathcal{V} (x) となる. \square

この補題により主定理が示せた.

まとめと参考文献

今回の記事で位相的であることと正則であることが同じ形式で特徴付けることができると分かった.一般的には"Compression operator"と呼ばれるものを用いた"diagonal"性により位相的であることと正則であることを関連づけることが多い.歴史的にはこの方法が先であるものの,そういうやり方はちょっと複雑なので今回の記事では

Scott, Wilde and Kent, "p-Topological and p-regular: dual notions in convergent theory"

の方法を参考にした.例えば,

Brock and Kent,"Probabilistic convergence spaces and regularity"

では,収束空間,正則収束空間,位相空間のなす圏をそれぞれCONV,RCONV,TOPとしたとき

It is well known that both RCONV and TOP are bireflective subcategories of CONV, since the properties "regular" and "topological" are both preserved under formulation of initial structures.

であると述べている.これが最も興味のあるところなのであるが,残念ながら圏論が苦手なこともありまだ理解するには至ってない.

*1:原論文に忠実になるなら,「フィルターの近傍フィルター」と呼ぶべきではあるが,近傍フィルターとややこしいので近傍"化"フィルターと呼ぶことにする.

収束空間について

位相空間をフィルターを使って論じたブログに反響がありました.特に,位相空間を一般化した前位相空間について知りたいという声がありました.位相空間が一般化できるとは思いもしなかった人がかなりいるのではないかと思います.

tetobourbaki.hatenablog.com

この記事では,フィルターの収束が定義されている収束空間まで位相空間を一般化します.いきなり一般的な定義を紹介してもしっくりこないと思うので,

 \qquad 位相空間→前位相空間→ショケ空間→収束空間

の順に少しずつ一般化していきます.収束空間を使うと説明がしやすいので,具体例は収束空間を導入した後に述べます.単なる一般化ではなく,収束空間の概念をベースにして位相的な性質を議論すると分かりやすいと感じていただければ嬉しいです.

位相空間

まず,位相空間とフィルターについて,この記事の前提知識を復習しておく.(前のブログを読んだ方やフィルターで位相空間を論じることに詳しい方は次節から読め.)

定義1(位相空間

集合  X位相空間であるとは,各点  x \in X に対して、X の部分集合からなる空でない集合族  \mathbf{V} (x)が存在して以下が成り立つことをいう:

(i) すべての  V \in \mathbf{V} (x) に対して, x \in V;

(ii)  V \in \mathbf{V} (x) かつ  V \subset W ならば  W \in \mathbf{V} (x);

(iii)  V, W \in \mathbf{V} (x) ならば  V \cap W \in \mathbf{V} (x);

(iv) すべての  V \in \mathbf{V} (x) に対して、ある  W \in \mathbf{V} (x) が存在して、すべての  y \in W に対して  V \in \mathbf{V} (y)

 \mathbf{V} (x) x近傍系という.

定義2(フィルター)

集合  X に対して, Xの部分集合からなる空でない集合族 \mathcal{F}フィルターであるとは,以下が成り立つことをいう:

(i)  \emptyset \notin \mathcal{F}

(ii)  V \in \mathcal{F} かつ  V \subset W ならば  W \in \mathcal{F};

(iii)  V, W \in \mathcal{F} ならば  V \cap W \in \mathcal{F}

二つのフィルター  \mathcal{F}, \mathcal{G} に対して, \mathcal{F} \subset \mathcal{G} が成り立つとき, \mathcal{F}\mathcal{G} よりも粗い,または, \mathcal{G} \mathcal{F} よりも細かいなどという.

フィルター  \mathcal{F}極大フィルターであるとは,フィルター  \mathcal{G} に対して, \mathcal{F} \subset \mathcal{G} ならば  \mathcal{F} = \mathcal{G} が成り立つことを言う.

定義3(フィルターの収束)

位相空間 X におけるフィルター  \mathcal{F} が点  x \in X収束するとは, xの近傍系  \mathbf{V} (x) よりも  \mathcal{F} が細かいこと,つまり, \mathbf{V} (x) \subset \mathcal{F} が成り立つことをいう.
 \mathcal{F} x\in X に収束するとき,x \mathcal{F}極限点という.

定義4(フィルター基)

集合  X に対して, Xの部分集合からなる空でない集合族 \mathcal{B}フィルター基であるとは,以下が成り立つことをいう:

(i)  \emptyset \notin \mathcal{B}

(ii)  V, W \in \mathcal{B} ならば,ある  U \in \mathcal{B}が存在して  U \subset V \cap W

フィルター \langle \mathcal{B} \rangle := \{ V \subset X \mid ある  W \in \mathcal{B} が存在して  W \subset V\}  \mathcal{B} で生成されるフィルターと呼ぶ.

 \mathcal{B} で生成されるフィルター  \langle \mathcal{B} \rangle x\in X に収束するとき,フィルター基  \mathcal{B}  x収束すると言う.

定義5(連続関数)

位相空間  X, Y と関数  f \colon X \to Y に対して, f x \in X連続であるとは, x に収束する  X における全てのフィルター  \mathcal{F} に対して,フィルター基  f(\mathcal{F}) f(x) に収束することである.

定義6(コンパクト)

位相空間  Xコンパクト であるとは,任意の極大フィルターが極限点を持つことである.

定義7(ハウスドルフ)

位相空間  Xハウスドルフであるとは, X における任意のフィルターが高々1つしか極限点を持たないことをいう.
(つまり,フィルターが2つ以上の極限点を持たない空間がハウスドルフ空間である.)

以降,位相空間を一般化していくのであるが,上記の定義ではフィルターの収束のみを使っている.よって,フィルターの収束さえ定まっていれば,例えば連続写像やコンパクト性が同様に定義できる.以降,フィルターの収束を使って定義できる概念はフィルターの収束さえ定まれば同様に定義できるが,この記事ではフィルターの収束が定まっている空間のみを扱うので,一般化した空間でも同様に定義されていくものとして理解せよ.

位相空間

位相空間を一般化する.特に,フィルターの収束さえ定まればいいので,近傍系の公理(iv)は必要ない.公理(iv)を要請しない空間を前位相空間と呼ぶ.

定義8(前位相空間

集合  X位相空間(pretopological space)であるとは,各点  x \in X に対して、X の部分集合からなる空でない集合族  \mathbf{V} (x)が存在して以下が成り立つことをいう:

(i) すべての  V \in \mathbf{V} (x) に対して, x \in V;

(ii)  V \in \mathbf{V} (x) かつ  V \subset W ならば  W \in \mathbf{V} (x);

(iii)  V, W \in \mathbf{V} (x) ならば  V \cap W \in \mathbf{V} (x);

位相空間  X におけるフィルター  \mathcal{F} x収束するとは, \mathbf{V} (x) \subset \mathcal{F} が成り立つことをいう.
 \mathbf{V}フィルター場という.

位相空間でも閉包や閉集合を考えたいが,それらの性質は位相空間と違ってくる.

定義9(擬閉包作用素

集合  X に対して,部分集合から部分集合への関数  \mathrm{Cl} \colon 2^X \to 2^X擬閉包作用素
 \displaystyle
\quad \mathrm{Cl} (A) := \{ x\in X \mid あるフィルター  \mathcal{F} が存在して, A \in \mathcal{F} かつ  \mathcal{F}x に収束する  \}
と定める.

命題10

位相空間  X に対して,以下が成り立つ:

(i)  \mathrm{Cl} (\emptyset ) = \emptyset;

(ii) 任意の部分集合 A \subset X に対して,A \subset \mathrm{Cl} (A);

(iii) 任意の部分集合 A, B \subset X に対して,\mathrm{Cl}(A \cup B) = \mathrm{Cl} (A) \cup \mathrm{Cl} (B);

(注意.この命題は前位相空間を一般化しても成り立つ.)

ここで,位相空間とは違い  \mathrm{Cl} (\mathrm{Cl} (A) ) = \mathrm{Cl} (A) が成り立つとは限らない.しかし,閉集合はなぜかうまく定義できる.

定義11(開集合)

位相空間  X の部分集合  A閉集合であるとは, \mathrm{Cl} (A) =A が成り立つことである.

命題12

位相空間  X に対して,閉集合のなす集合を  \mathfrak{U} と表す.このとき,以下が成り立つ:

(i)  \emptyset \in \mathfrak{U} かつ  X \in \mathfrak{U};

(ii)  A, B \in \mathfrak{U} ならば  A \cup B \in \mathfrak{U};

(iii)  A_{\lambda} \in \mathfrak{U} ならば  \bigcap_{\lambda} A_{\lambda} \in \mathfrak{U}

この事実を私は以下のように捉えている.前位相空間でも閉集合は定義できる.位相空間と同じように考えるには, \mathrm{Cl} (A)閉集合であってほしい.しかし,上で述べたように  \mathrm{Cl} (\mathrm{Cl} (A) ) = \mathrm {Cl} (A) とは限らず,つまり, \mathrm{Cl} (A) 閉集合とは限らない.つまり,位相空間位相空間よりも閉集合が少ない空間である

(擬)開核作用素や開集合は補集合をとることで,(擬)閉包作用素閉集合から定義できる.ここは位相空間とまったく同じである.だから,前位相空間は開集合が少ない空間であると考えても良い.

このような観点に立つと,前位相空間の以下の事実も納得がいく.

命題13

位相空間  X, Y において,写像  f \colon X \to Y が連続ならば,開集合  A \subset Y の引き戻し  f^{-1} (A) \subset X は開集合である.

逆が成り立つとは限らない.

Proof. 閉集合  B \subset Y の引き戻し  f^{-1} (B) \subset X が閉であることを示せば良い.つまり, \mathrm{Cl} ( f^{-1} ( B) ) = f^{-1} (B) を示せばよい. \mathrm{Cl} ( f^{-1} ( B) ) \supset f^{-1} (B) は擬閉包の性質から分かっているので, \mathrm{Cl} ( f^{-1} ( B) ) \subset f^{-1} (B) を示す.  x \in \mathrm{Cl} (f^{-1} (B) ) とすると, X におけるフィルター  \mathcal{F}  f^{-1} (B) \in \mathcal{F} かつ  \mathcal{F} x に収束するものが存在する. f が連続なので, < f(\mathrm{F} ) >  f(x) に収束する.また,  f (f^{-1} (B)) \in f(\mathcal{F} ) かつ  f (f^{-1} (B) ) \subset B より   B \in \langle f (\mathcal{F} ) \rangle である.以上より, f(x) \in \mathrm{Cl} (B) であるが  B閉集合だったので  f(x) \in B である.よって  x \in f^{-1} (B) となり証明が終わる.

逆が成り立たないことは最後に例でみる.  \square

つまり,位相空間では開集合の引き戻しが開集合であることで連続性を定義するが,前位相空間では開集合が少ないので開集合を見ただけでは全ての点で連続かどうかが分からないのである.逆に言えば,開集合で連続性が定義できることこそ位相空間のよさだとも言える.前のブログでコンパクトからハウスドルフへの連続全単射同相写像であることを見たが,その証明で開集合による連続性の特徴付けを用いているため,一般の収束空間ではこの定理は成り立たない.

さて,前位相空間はフィルター場という基準を与えることでフィルターの収束を定めていた.単にフィルターの収束を与えるだけで空間を定義し一般化したいので,収束の性質をまとめてみる.

命題14

位相空間において,フィルター  \mathcal{F}  x に収束することと,  \mathcal{F} より細かい全ての極大フィルターが  x に収束することが同値.

Proof.任意のフィルターは極大イフィルターの共通部分として書けることが知られている.つまり
 \displaystyle
\qquad \mathcal{F} = \bigcap \{ \mathcal{G} \mid \mathcal{G} は極大フィルターで  \mathcal {F} \subset \mathcal{G} \}
が成り立つ.これと, \mathbf{V} (x) \subset \mathcal {F}  \mathcal{F}  x に収束することであったことからすぐにわかる. \square

この命題により,前位相空間において,フィルターの収束は極大フィルターの収束で決まってしまうことが分かる.

次に,極大フィルターの中でも唯一具体的に書ける主極大フィルターを導入する.

定義15(主極大フィルター)

集合  X と元  x \in X に対して,フィルター
 \displaystyle
\qquad \mathcal{F} := \{ A \subset X \mid x \in A \}
は極大フィルターである.これは  \langle \{x \} \rangle でもある.この極大フィルターを x の主極大フィルター と呼び, \langle x \rangle で表す.

位相空間の定義において,フィルター場の公理 (i) は  x の主極大フィルター  \langle x \rangle x に収束することを表している.

以上を踏まえれば,前位相空間を一般化できる.

ショケ空間

定義16(ショケ空間)

集合  Xショケ空間(Choquet space)であるとは,各点  x \in X に対して、極大フィルターの集合  \mu (x) が定まっており以下が成り立つことをいう:

(i) 任意の  x \in X に対して, \langle x \rangle \in \mu (x) が成り立つ.

極大フィルター  \mathcal{F} \mathcal{F} \in \mu (x) を満たすとき,極大フィルター  \mathcal{F} x収束するという.

ショケ空間においてフィルター  \mathcal{F} x \in X収束するとは, \mathcal{F} より細かい全ての極大フィルターが  x に収束することとする.

(注意.ショケ空間は擬位相空間(psudotopological space)と呼ばれることも多い.)

つまり,ショケ空間とは極大フィルターの収束を定めたものである.前節で述べたように,極大フィルターの収束さえ定めれば全てのフィルターの収束を定めることができる.

ショケ空間でも位相空間における近傍系や前位相空間におけるフィルター場のようなものを定めよう.

定義17(近傍フィルター)

ショケ空間  X とその元  x \in X において
 \displaystyle
\qquad \mathbf{V} (x) := \{ A \subset X \mid x に収束する全てのフィルター  \mathcal{F} A を含む  \}
と定める. \mathbf{V} (x)x における近傍フィルターと呼ぶ.

位相空間ではフィルター場により収束が定まったが,ショケ空間ではフィルターの収束が近傍フィルターで定まらない.

命題18

ショケ空間において,フィルター  \mathbf{F} x に収束するなら, \mathbf{V} (x) \subset \mathbf{F} が成り立つ.

逆が成り立つとは限らない.

証明は近傍フィルターの定義から明らか.

ショケ空間では  \mathbf{V} (x) より細かいフィルターが  x に収束するとは限らない.特に,近傍フィルター  \mathbf{V} (x) 自体が  x に収束するとは限らない.

さて,ショケ空間は極大フィルター収束により,全てのフィルターの収束を定めた.そうではなく,フィルターの収束を一気に定義したい.そのために,ショケ空間のフィルターの収束の性質を調べ,それによりフィルターの収束を公理化しよう.

命題19

ショケ空間  X において以下が成り立つ:

(a) フィルター  \mathcal{F} x に収束し, \mathcal{F} \subset \mathcal{G} が成り立つなら  \mathcal{G} x に収束する;

(b) フィルター  \mathcal{F}, \mathcal{G} x \in X に収束するなら,フィルター  \mathcal{F} \cap \mathcal{G} x に収束する.

Proof.(a)は明らか. \mathcal{F} \cap \mathcal{G} より細かい極大フィルターは, \mathcal{F}, \mathcal{G} よりも細かいので,(b) が分かる. \square

命題 (a) はこれまでも使っていたように,収束するものより細かいフィルターはやはり収束する.命題 (b) は収束する二つのフィルターより粗いものの中でもっとも細かいものが収束することを意味する。

収束空間

定義20(収束空間)

集合  X収束空間であるとは,各点  x \in X に対して、フィルターの集合  \lambda (x) が定まっており以下が成り立つことをいう:

(i) 任意の  x \in X に対して, \langle x \rangle \in \lambda (x) が成り立つ.

(ii) フィルター  \mathcal{F} \in \lambda (x)  \mathcal{F} \subset \mathcal{G} が成り立つなら  \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ;

(iii) フィルター  \mathcal{F}, \mathcal{G} \mathcal{F}, \mathcal{G} \in \lambda (x) ならば,フィルター  \mathcal{F} \cap \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ.

(注意.論文によってはこの空間を極限空間(limit space)と呼び,(iii)の条件をもう少し一般化したものを収束空間と呼んでいる.)

収束空間はショケ空間とは違い,極大フィルターの収束で全てのフィルターの収束が決まっているわけではない.コンパクト性は極大フィルターで定義されているので,ショケ空間でなければ成り立たない結果がいくつかある.

収束空間のまとめ

定義21

 X を収束空間とする.

(a)  X がショケ空間から定まる収束空間のとき, Xショケ的であるという.
(b)  X が前位相空間から定まる収束空間のとき, X前位相的であるという.
(c)  X位相空間から定まる収束空間のとき, X位相的であるという.

さらに,以下のことが簡単に分かる.

命題22

 X を収束空間とする.

(a)  X がショケ的であることと,フィルター  \mathcal{F} より細かい任意の極大フィルターが  x \in X に収束するなら  \mathcal{F} x に収束することが同値.

(b)  X が前位相的であることと,近傍フィルター  \mathbf{V} (x) x に収束することが同値.

(c)  X が位相的であることと,前位相的かつ任意の  A \subset X に対して  \mathrm{Cl} ( \mathrm{Cl} (A) ) = \mathrm{Cl} (A) が成り立つことが同値.

最後に,例を挙げる.自然な例を挙げるというよりは,本当に一般化した空間に入る例があることを確認することが目的である.

前位相的だが位相的でない例

実数体  \mathbb{R} に普通の位相を入れた収束構造を  \lambda とする.一方,収束構造  \nu
 x \neq 0 に対しては, \nu(x) = \lambda (x) とし,
 \displaystyle
\qquad \mathcal{F} \in \nu (0) : \Leftrightarrow "\mathcal{F} \in \lambda (0) かつ,全ての A \in \mathcal{F} に対して A \cap \mathbb{Q} \neq \emptyset"

と定める.つまり,0以外への収束は通常の同じで , x=0 に収束するには有理数体と交わり続けることも条件に加えたものが収束空間  (\mathbb{R}, \nu ) である.簡単のため,通常の収束構造を定めたものを単に  \mathbb{R} とし, (\mathbb{R}, \nu)\tilde{\mathbb{R} } と表す.

 \tilde{\mathbb{R} } は前位相空間である: これを見るには,近傍フィルターとの包含関係によりフィルターの収束が定めることを見れば良い. x \neq 0 は見る必要がないので, \nu (0) のみを見れば良い. \mathcal{F} \in \nu (0) \mathbf{V} (0) \subset \mathcal{F} が同値であることを見れば良いが, \mathbf{V} (0) \in \nu (0) を見れば十分である.  A \in \mathbf{V} (0) 0 に収束する全てのフィルターに含まれているので, A \cap \mathbb{Q} \neq \emptyset となる.また, \nu (0) \subset \lambda(0) より, \mathbf{V} (0) は普通の位相で収束する.よって, \mathbf{V} (0) \in \nu (0) である.以上により, \tilde{\mathbb{R} } は前位相空間である.

命題23
 \tilde{ \mathbb{R} } において,
 \displaystyle
\qquad \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} ) = \mathbb{R} \setminus \{ 0 \}, \quad \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \{0 \} ) = \mathbb{R}
である.特に, \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} )閉集合でない.

Proof.収束構造  \nu により, \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} を元にもつフィルターは  0 に収束しないので, 0 \notin  \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} ).一方, x \neq 0 が閉包に入るかどうかは通常と同じなので, \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} ) = \mathbb{R} \setminus \{ 0 \} である.

主極大フィルター  \langle 0 \rangle を,この空間でも  0 に収束するように変形したフィルター

\qquad  \mathcal{F} := ( \{A \setminus \{0 \} \mid 0 \in A\} \cup \{A \} ) \setminus \emptyset
 0 に収束し, \mathrm{R} \setminus \{0 \} \in \mathcal{F} なので, 0 \in \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \{0 \} ) である.よって, \mathrm{Cl} (\mathbb{R} \setminus \{0 \} ) = \mathbb{R} \square

ショケ空間だが前位相空間でない例

無限個の元を持つ集合を  X とする. X の極大フィルターの収束を,主極大フィルターが(任意の)  x \in X に収束し,主極大フィルター以外の極大フィルターは収束しないとして収束を定めたショケ空間を考える.まず, \mathbf{V} (p) = \{X \} であることが分かる.実際,  A \in \mathbf{V} (p) A \neq X となるものがあったとし  q \notin A をとると,主極大フィルター  \langle q \rangle p に収束するが,近傍フィルターの定義より  A \in \langle q \rangle となる.これは  q \notin A に矛盾.つまり, \mathbf{V} (p) = \{X \} である.このとき, \mathcal{F} x に収束することと, \mathcal{F}  \mathbf{V} (p) より細かいことが同値と仮定して矛盾を導く.ここで,フレシェフィルターと呼ばれるフィルター
 \displaystyle
\qquad \mathcal{N} := \{ A \subset X \mid X \setminus A が有限集合  \}
を考える. \mathcal{N} より細かい極大フィルターを  \mathcal{G} とする. X が無限集合であることから  \mathcal{G} は主極大フィルターではないことが分かる.一方, \mathcal{V} (p) \subset \mathcal{N} \subset \mathcal{G} となり.仮定から  \mathcal{G} は収束する.主極大フィルターではないフィルターが収束することになり矛盾.よって,仮定が間違っていたことになり,前位相的ではないことが分かる.

この収束空間の閉集合を調べよう.一点集合  \{ p \} の閉包を考える. q \in X を取ったとき,主極大フィルター  \langle p \rangle \{p \} を元に持ち  q に収束する.つまり任意の元が閉包に含まれるので, \mathrm{Cl} (\{p \}) = X となる.よって閉集合 \emptyset, X のみである.

さて,上と同じ  X に全ての極大フィルターが全ての点に収束するとして収束を定めたショケ空間を  \tilde{X} と表すことにする.すると,上と同様に  \mathbf{V} (p) = \{ \tilde{X} \} であり,閉集合 \emptyset, \tilde{X} のみとなる. X とは違い任意のフィルターが任意の点に収束するとしているので,前位相的であり,もっと言うと密着位相が入った位相空間である.

さて, \mathrm{id}\colon \tilde{X} \to X を考える. \tilde{X}, X閉集合は同じなので,開集合の引き戻しは開集合である.しかし, \tilde{X} のフィレシェフィルター  \mathrm{N} は収束するが,その像  \mathrm{id} (\mathrm{N} ) X で収束しない.よって, \mathrm{id} は連続でない.これは,開集合の引き戻しが開集合でも連続とは限らないことを意味する.これが命題13の例を与えている.

収束空間だがショケ空間でない例
 I := [0, 1] を通常の位相により定まる収束空間とし,  \mathcal{F} \in \nu (x)
普通の位相で  0 に収束する有限個の極大フィルター  \mathcal{G}_1, \dots, \mathcal{G}_n が存在して, \mathcal{F} \supset \mathcal{G}_1 \cap \dots \cap \mathcal{G}_n と定める.

収束空間であることは分かる.極大フィルターの収束性は通常と変わらない.普通の位相での近傍フィルターを  \mathbf{U} (x) をとる. \mathbf{U} (x) より細かい極大フィルターは普通の位相で  x に収束するので  \nu でも  x に収束する.一方, \mathbf{U} (x) より細かい極大フィルターは無限個あるので,  \nu \mathbf{U} (x) x に収束しない.よって,ショケ空間ではない.