記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

微分係数と導関数の違い

高校生で微分係数導関数の違いが分からない人が多いと思います.
今回は微分係数導関数の違いについて解説したいと思います.
ただし,それほど厳密な議論はしないので,ご了承ください.

定義

まずは定義をおさらいしましょう.

定義(微分係数

関数  f(x) x = aにおける微分係数とは
\displaystyle
\quad f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}
のことである.

定義(導関数

関数  f(x)導関数とは
\displaystyle
\quad f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h}
のことである.

ほとんど違いがないですね.
結論を言うと,微分係数は接線の傾きでありこれを求めたいのですが,この微分係数を求める関数が導関数です.どうして導関数を考える必要があるのかを理解するために,まずは微分係数を計算していきます.

微分係数の計算


まずは微分係数を実際に計算してみましょう.今回は  f(x) = x^2を考えましょう.


まずは  x=0での微分係数を計算してみましょう.
 \displaystyle
\begin{align}
\quad \lim_{h \to 0} \frac{f(0+h) - f(0)}{h} &= \lim_{h \to 0} \frac{(0+h)^2-0^2}{h} \\
&  =\lim_{h \to 0} \frac{h^2}{h} \\
& =  \lim_{h \to 0} h \\
& = 0
\end{align}
となるので,微分係数 f'(0) = 0となります.


次に  x = 1 での微分係数を計算してみましょう.
 \displaystyle
\begin{align}
\quad \lim_{h \to 0} \frac{f(1+h) - f(1)}{h} &= \lim_{h \to 0} \frac{(1+h)^2- 1^2}{h} \\
&  =\lim_{h \to 0} \frac{2 h + h^2}{h} \\
& =  \lim_{h \to 0} (2+h) \\
& = 2
\end{align}
となるので,微分係数 f'(1) = 2となります.


最後に  x = 2 での微分係数を計算してみましょう.
 \displaystyle
\begin{align}
\quad \lim_{h \to 0} \frac{f(2+h) - f(2)}{h} &= \lim_{h \to 0} \frac{(2+h)^2- 2^2}{h} \\
&  =\lim_{h \to 0} \frac{4 h + h^2}{h} \\
& =  \lim_{h \to 0} (4+h) \\
& = 4
\end{align}
となるので,微分係数 f'(2) = 4となります.

微分係数から導関数

毎回,微分係数を計算するのは大変です.しかし,上の計算のほとんどが同じ計算なので,工夫できないかと考えてみます.
微分係数を求めるときには二つのステップがあります.
(1) どこで微分するか  x = aを決める.
(2) 極限  \displaystyle \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}を計算する.
ここで, x = aを変えるたびに毎回極限を取るのが面倒だったので,先に極限をとってしまってから,あとで  x = aを決めることにしましょう.まず  xのまま微分をとると
 \displaystyle
\begin{align}
\quad \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) - f(x)}{h} &= \lim_{h \to 0} \frac{(x+h)^2-x^2}{h} \\
&  =\lim_{h \to 0} \frac{2 x h+ h^2}{h} \\
& =  \lim_{h \to 0} (2x+h) \\
& = 2x
\end{align}
となります.これが導関数  f'(x) = 2xです.これに, x = 0, 1, 2をそれぞれ代入すると,
 
\quad f'(0) = 0, \quad f'(1) = 2, \quad  f'(2) = 4
となり,上で求めた微分係数を一気に求めることができました.このように,導関数さえ求めてしまえば簡単に微分係数を求めることができます.

まとめ


 x = a での微分係数は, x = aにおける接線の傾きです.つまり微分係数実数です.一方,導関数 x = aを決めれば,そこでの微分係数を返す関数です.


導関数は公式として覚えておけばいいので,微分係数を計算するには導関数に求めたい場所 x=aを代入するだけで済みます.つまり,実際に極限の計算をするのは導関数を求めるときだけなのです.実際の計算で極限を計算する必要がないのはこのためです.


図でまとめると以下のようになるでしょう.ポイントは, x = aの代入と極限をとる操作の順番を変えることです.
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17才からの微分方程式【0-0】数の方程式と関数の方程式

高校生でも分かる微分方程式の説明をしていきます。数IIと数B(特に微分と数列)を前提としますが、大事なことは復習します。また、数IIIや大学の初年度に学ぶこともついでに勉強できるように書いていきます。

高校2年生までに扱ってき方程式は解は実数や複素数など数でした。このような方程式を数の方程式と呼ぶことにしましょう。それに対して、微分方程式は解が関数になっています。

微分方程式を研究する主な理由は以下の二つです。
・物理や化学、工学で調べたい対象が微分方程式の解になっている。
・関数の性質を微分方程式を使って調べる。
この記事ではこの点について説明していきます。

数の方程式


未知の量  x yなどと実数(あるいは複素数)の四則演算を用いて得られる関係式は数の方程式です。例えば、 y^2 + 1 = 0 x+y=1などは数の方程式です。また、 \sin xなどの関数を用いて定義できる方程式も数の方程式です。例えば、 \sin^2 x + \sin x = 0は数の方程式です。 未知の量に代入して成り立つ数が方程式の解です。


そもそも、どうして数の方程式を考えるのでしょうか?それに対する答えとして、「調べたい数が方程式の解になっている」ことと「数の性質を方程式を使って調べる」の2つをあげることができます。これらの事実について確認しましょう。

調べたい数が方程式の解になっている


中学生で勉強するような例で説明しましょう。


ある長方形があるとします。その長方形の面積は  12 \textrm{m}^2だと分かっています。辺の長さは分かっていませんが、直交する二つの辺の長さの差は  4 \textrm{m}であると分かっています。このとき、辺の長さを求めるという問題です。

短い方の辺を  x \, \textrm{m}と置きましょう。すると、もう一つの辺の長さは  x+4 \, \textrm{m}と書けるので、面積の公式から
 
\quad x(x+4) = 12
という方程式が得られます。解くと  x = 2であることが分かります。


この例で大切なことは、求めたい数を文字でおけば、方程式が得られることです。つまり、求めたい数を、方程式という数の関係を通して調べることができます。このように、求めたい数が方程式という関係で与えられているという状況が基本的であり、そのため方程式が必要となるのです。

数の性質を方程式を使って調べる


方程式が与えられれば、その方程式を解くことで求めたい数が分かります。例えば、2次方程式ならば簡単に解けますが、次数が上がるにつれてどんどん難しくなり、5次以上では四則演算や平方根など高校で学ぶような数の表示では解を書くことができないということが知られています(アーベルの定理)。表示が出来なくても近似解を求める方法はいろいろあって、例えば入試問題の題材になることもある「ニュートン法」という手法もありますが、これも万能ではないということが知られています。


しかし、解を完全に求める必要がないということも多いです。解のある性質を知るだけならもっと簡単に出来るのではないでしょうか。例として、2次関数の単元で学ぶことを復習しましょう。方程式
 
\quad x^2 + ax + b = 0
を考えます。 a bは実数とします。このとき、 b <0ならば正の解と負の解があります。逆に, b>0ならば、二つの解が存在すればそれらの符号は同じになります。さらに、 a > 0, b > 0ならば、二つ解があればどちらの解も符号が負になります。(以上のことはグラフを考えれば分かるのでした。)このように、解自体を求めなくても、係数から解の符号は簡単に分ります。


少し発展的な内容になりますが、方程式の解の実部の符号が全て負になるかどうかを調べることは、特に工学で非常に重要な問題です。(この微分方程式の連載の中でも出てくるかも。)この問題の答えは「フルウィッツの安定判別法」として知られています。(wikipedia:ラウス・フルビッツの安定判別法 )大切なことは、解を求めなくても方程式の形から解の性質が分かるというところです。

関数の方程式


次に関数の方程式について考えていきましょう。関数に対しても足し算、引き算、掛け算、割り算を考えることができますが、これだけでは数の方程式と同じことしか起こりません。そこで、関数に対して定義できる他の演算を考える必要があります。その一つが微分なのですが、それよりも身近にある演算があるので、まずはそれを扱いましょう。

差分方程式


関数  f(x)に対して新たに関数  f(x+1)を返す変換を  Sと書くことにします。つまり、 S(f(x)) = f(x+1)です。「 f(x) f(x+1)は同じ  fという関数では?」と思う人もいるかもしれませんが、例えば、 x = 0を代入すると  f(0) f(1)のように違う値を返すので違う関数です。(グラフを考えれば、 f(x)を平行移動したものが f(x+1)なので、グラフが違うことも分かります。)


 Sを2回使った  S(S(f(x) ) )  S(S(f(x) ) ) = f(x+2)となります。 Sをもっと使った式も定義できますが、書くのが大変なので、 n Sを使った式  S(S(\dots S(f(x))\dots) S^n (f(x) )と書きます。 S^n (f(x)) = f(x+n)となります。ついでに、f(x)f(x+1)ではなく  f(x-1)に変換する変換も考えたいところですが、それはS^{-1} (f(x)) = f(x-1)とおきましょう。 S(S^{-1}(f(x) ) ) = f(x)となるので、整合性があります。


さて、この  Sという変換を使った方程式を考えましょう。例えば、
 
\quad S(f(x) ) = f(x) + 1
はどうでしょう。つまり、
 
\quad f(x+1) = f(x) + 1
のことです。ここで、 xの代わりに nを使って、さらに、 f(n) a_nで表すことにすると、もっと見慣れた式、

\quad a_{n+1} = a_n + 1
となることが分かります。気がつきましたか?これは漸化式です。実は、漸化式はこの Sを用いた関数の方程式なのです。もっと複雑な方程式も考えることができます。例えば、
 \displaystyle
\quad S^{3} ( f(x) ) f(x) + f(x)^2 S( (f(x) )^2) - f(x)^5 = 0
とかは難しそうです。 f(x)は調べたい関数、つまり、未知の関数なので、 y で表すことにしましょう。するとこの方程式は
 \displaystyle
\quad S^{3} ( y ) y + y^2 S( y^2) - y^5 = 0
と書くことができます。このように、未知の関数yに対して、関数の四則演算と変換  Sを繰り返し用いることで定義できる方程式を差分方程式と言います。

微分方程式


次に、微分方程式を定義します。微分方程式とは、関数の四則演算と微分を繰り返し用いることで定義できる方程式のことです。ここでいう微分とは関数  f(x)に対して導関数 f'(x)を返す変換のことです。(微分係数を得る操作も微分と呼びますが、それとは違います。)


簡単に微分の性質を整理しておきます。微分では以下の公式が成り立ちます。
 \displaystyle
\quad (i)\, \{a f(x) + bg(x) \}' = a f'(x) + b g'(x) \quad \text{(「線型性」と言います)}\\
\quad (ii)\, \{ f(x) g(x) \}' = f'(x) g(x) + f(x) g'(x) \quad  \text{(「掛け算の微分公式」や「ライプニッツ則」などと言います)}\\
\quad (iii)\, \{ f(g(x) ) \}'  = f' (g(x) ) g'(x) \quad \text{(「合成関数の微分公式」と言います)}
微分方程式を考えるときには、この公式を使うだけで十分であり、微分の定義は忘れてしまっても良いことが多いです。(別の記事で微分について復習します。)


未知の関数を  yとすると、微分方程式として,

\quad y'' + y = 0


\quad y'' = x y
などを考えることができます。

調べたい対象が微分方程式の解になる

さて、微分方程式を研究するモチベーションを説明していきます。
おそらく物理で登場する最も基本的な微分方程式運動方程式

\quad ma = F
です。ここで、 mは質点の質量であり定数です。次に、 aは質点の加速度です。 yで位置を表すことにすると、 yの時間微分  \displaystyle y' = \frac{dy}{dt}が速度であり、さらに微分したもの \displaystyle y'' =  \frac{d^2 y}{dt^2}が加速度です。さらに、 Fは質点にかかる力です。 Fは位置や速度の関数となることが多く、 F(y,y')と書くことにします。すると、運動方程式微分方程式
\displaystyle
\quad m y'' = F(y, y')
と書くことができます。この方程式を解くことで、質点の運動が分かるのです。

いくつかの例を挙げておきましょう。
・自由落下する場合、重力加速度を gとすると、かかる力は  F = -mgで与えられるので、運動方程式

\quad my'' = -mg \quad \mbox{つまり} \quad y'' = -g
となります。
・バネにつながれた点を考えると、kをバネ定数とすると、かかる力は  F = -kyと書けます。なので、運動方程式
 
\quad my'' = -ky
となります。
・最後に、空中を飛んでいる質点の水平方向の運動を考えると、空気抵抗がかかります。空気抵抗は速度に比例して大きくなるので、ある定数 kを用いて、かかる力は  F = -ky'となります。よって、運動方程式

\quad my'' = -k y'
となります。


このように簡単な例を考えるだけでもいろんな種類の微分方程式が得られます。これらの微分方程式を解くことで運動を理解することができます。物理ではもっと複雑な微分方程式が出てきます。また、化学や工学のモデルは微分方程式で記述されていることが多く、微分方程式は研究の基礎です。

微分方程式を使って解を調べる


次に、微分方程式を使って関数の性質を調べることについて例を用いて説明します。数の方程式と同様微分方程式も解を求めることは難しいため、微分方程式から解の性質を調べることが重要になります。以下の説明では \sin x \log xを使いますが、これらの微分については連載で説明します。 f(x),g(x)xの関数とすると、方程式

\quad y'' + f(x) y' + g(x) y  = 0
は線形微分方程式と呼ばれるものになっています。 \sin x \cos xは、 f(x) = 0, g(x) = 1とした方程式

\quad y'' +y = 0
の解となっています。一方、 \log x\displaystyle f(x) = \frac{1}{x}, g(x) = 0とした方程式
 \displaystyle
\quad y'' + \frac{1}{x} y' = 0
の解になっています。この方程式に現れる \displaystyle f(x) = \frac{1}{x} と解  \log xは共に  x = 0では値が定義されないことに注意しましょう。実は、方程式の  f(x), g(x)が定義されない  xと解が定義されない  xにはある関係があるのです。


さらに、 a,b,cを定数として、\displaystyle f(x) = \frac{c - (a+b+1)x}{x(1-x)}, g(x) = \frac{-ab}{x(1-x)}とおいた微分方程式
 \displaystyle
\quad y'' + \frac{c - (a+b+1)x}{x(1-x)} y -  \frac{ab}{x(1-x)}y = 0
を考えましょう。この方程式はガウスの)超幾何微分方程式と呼ばれる方程式です。a = 0, b = -1, c = 1とおくと、 \log xを解に持つ方程式になります。また、 \displaystyle a= \frac{1}{2}, b= \frac{1}{2}, c = \frac{3}{2}とおいた方程式の解を用いると、 \sin x逆関数を書くことができます。他にも、多くの基本的な関数が超幾何微分方程式の解として現れます。


物理に現れる様々な解析において、この超幾何微分方程式が現れます。超幾何微分方程式は性質を完全に知ることができるものの中である意味一番難しい微分方程式です。そのため、この方程式を勉強すれば物理を研究する上で非常に役に立ちますし、逆にこの方程式より難しい方程式は数学の研究対象になります。

おわりに


今回は微分方程式を勉強するモチベーションについて説明しました。次回は微分方程式の用語を説明します。
これから、どんどん記事を充実させていく予定です。ご意見・ご感想があれば、コメント欄に書くかtwitterのLoveブルバキにご連絡くださると嬉しいです。

おまけ


関数に対しては微分の他に  Sという変換がありました。微分 Sの両方を使った方程式は微分差分方程式 と呼ばれます。例えば、

\quad y' +S^2 (y) = y^2
特に、

\quad y' = (y, S^{-1}(y), S^{-2} (y), \dots \text{の関数} )
という形に書ける微分方程式時間遅れをもつ微分方程式と言います。つまり、微分が少し前の値を使って定まります。このような方程式は制御理論なので現れ工学上も非常に重要です。ただし、一般には難しい方程式なので研究も難しいです。

17才からの微分方程式の目次

連載「17才からの微分方程式」の目次です。
このページから全てのページにアクセスできるようにします。
書いていく内容の自分用のメモでもあります。

微分方程式について

数の方程式と関数の方程式

tetobourbaki.hatenablog.com

微分方程式の解とは? (関数の考え方 v.s. 代数的な考え方)

一階の微分方程式

原始関数 (y'=f(x))
指数関数(y' = y)

初期値問題と境界値問題

2階の線形微分方程式

ガウスの超幾何方程式

おまけ

微分係数の定義と意味

新年の抱負2018


2018年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

今年は忙しくなりそうなので、
「趣味を楽しむ余裕を持ちながら、やるべきことをやっていく」
を抱負にします。

さて,今年はブログで色々書いていこうと思っているのですが、書こうと思っている内容を宣言しておこうと思います。


1.「17才からの微分方程式入門」
2.「可積分系入門」
3.「ストークスの定理への道」


ブログの残りでは、それぞれの内容と最後にいま考えていることをちらっと書いておきます。

「17才からの微分方程式入門」


今の大学の微分方程式の授業について前々から不満がありました。
また、数学や物理の研究には微分方程式を前提としているものが多いわけで、微分方程式を勉強していない高校生に研究の面白さを伝えることが根本的に難しいと考えていました。


そこで、全く新しい微分方程式の連載記事を書いていこうと思います。
せっかくなので、高校生にも分かる内容にしようと思っています。
具体的には数IIと数Bで微積分と数列を勉強していれば理解できるものを書きたいと思っています。
(もっと言えば、この連載記事の序盤で数IIIや大学初年度で学ぶことも導入します。)


「全く新しい」と書きましたが、微分方程式の授業で学ぶであろう「求積法」「初期値問題」「定数係数線型方程式」をほとんど扱わないで、他のトピックを中心に解説しようと思います。
それは、これらのトピックが(特に工学などで)最低限身につけるべきことであるものの、面白くはないと感じるからです。
もっと言えば、これらを中心とした授業だと、「非正規形微分方程式」と「境界値問題」が授業で扱われないことになります。
「非正規形微分方程式」には楕円関数が満たす微分方程式があります。
また、常微分方程式で「境界値問題」に触れておくと、偏微分方程式を学ぶ時にも役に立つでしょう。
また、僕は微分ガロア理論を勉強しているので、微分代数の考え方もお見せできればと思います。


「17才からの微分方程式入門」は早速書き始めようと思っています。
2週間に一回の更新を目標にします。
よろしくお願いします。
(お正月からずっと内容を考えていたのですが、正直、高校生が理解でき、さらにすでに学んだ人にも喜んでもらえる内容を考えるのは難しい。とりあえず、高校生に説明することを第一の目標にします。)

可積分系入門」


可積分系はずっと勉強したいと思っている分野です。
日本で研究が盛んであるものの、あまり一般向けの解説がない(それどころか、数学の他の分野の人にあまり理解してもらえてない?)分野だと思います。
そこで、自分なりの理解ではありますが、勉強したことを少しずつ、分かりやすく説明できればと考えています。
この連載は自分の勉強進度に合わせて少しずつ更新していきます。

ストークスの定理への道」


ブルバキの当初の目標はストークスの定理をちゃんと説明した教科書を書くことでした。
そのこともあり(そして定理の美しさもあり)僕の一番好きな定理はストークスの定理です。


そこで、ストークスの定理を自分なりにまとめた文章を作っておきたいというのが、この連載の一番の動機です。
ほぼ書く内容は決まっているのですが、できるだけ図を使って説明したいので、定期的に少しずつ書いていこうと思います。
2ヶ月に一回の更新で、5回か6回で終わらせることを目標にします。

やりたいこと・できること


1年くらい前にツイッターを始めました。
そこで感じたのは、ツイッターを使えば同じ興味関心を持つ人といくらでも繋がれるということです。
本当に凄いと思うのは、ツイッターを通してでないと絶対に出会わなかったであろう人とまで簡単に会話できることです。


一方で、ツイッターではアカデミックに関するくらいニュースが頻繁に流れています。
日本の研究者の環境に対してポジティブな未来像を思い浮かべることは正直難しいです。


でも、アカデミアがいくら栄えていても、その研究の内容が一般の人に興味を持ってもらえなければ、それは全く空虚で意味のないことではないでしょうか。
逆に、アカデミアが死んだとしても、一般の人の中に数学や科学への興味や好奇心を持っている人がいればなんとかなるのではないかとも思います。


そこでまだ漠然とした妄想でしかないのですが、社会でもっと数学や科学を盛り上げることができないかなぁと思っています。
学生や社会人が中心になって数学や科学を楽しめる環境が作れないかなと思います。
そんなことのサポートをしたいというのが最近考えていることです。
(個人的な話をすると僕はもう少しアカデミアで頑張らないといけないのですが)


ただ、ツイッターだけではダメだと思っています。
とりあえず、一つにはブログ、もう一つにはスカイプでのゼミでいろんな人と勉強しながら、妄想をもっと具体化しようと思います。

Zornの補題を使った代数的閉包の存在証明


おはよー!こんちわー!こんばんわー!おやすみー!おきてええええええええ!!!
ラブルことLoveブルバキです.


2017年はZorn補題の便利さが身に沁みた一年でした.
例えば、超越基底の存在はZorn補題で簡単に証明できました.(スカイプで『微分体の理論』を読むゼミをやっていて,そこで勉強しました.)
一方で,雪江『代数学2 環と体とガロア理論』にも書いてあるように,代数的閉包の存在証明にZorn補題を適用するには注意が必要です.
 Kに対して \Sigma:= \{ L \mid L\text{ は } K\text{ の代数的拡大}\}を考えても  \SigmaZorn補題を適用することは出来ません.
なぜなら \Sigmaは集合ではないからです.(集合にしては大きすぎる.)
ところが,足立恒雄先生の本には,Zorn補題でも代数的閉包の存在が証明できると書いてありました.
Zorn補題による証明は簡潔で好きなので,これをまとめようと思います.


集合論を知ってる方や気にせず読める方は2節からお読みください.

集合論の復習


素朴にZorn補題を使おうとすると,集合論的な問題が現れるのでした.
そこで集合論の基本的なことを復習します.


定義. X, Y を集合とする.単射  f \colon X \to Yが存在するときに |X| \leq |Y| と書く.
定義. X, Y を集合とする.全単射  f \colon X \to Yが存在するときに, XYは濃度が等しいといい |X| = |Y| と書く.
定義. X, Y を集合とする. |X| \leq |Y|であるが  |X| = |Y|ではないとき, |X| < |Y|と書く.
定義.集合Xが無限集合であるとは,Xの部分集合で可算無限集合が存在することをいう.
定義.集合Xの部分集合のなす集合を P(X)と表す.
 X \in P(X)ではありますが,単射 X \to P(X) x \mapsto \{x\}で定まるので, X \subset P(X)と考えても問題はありません.


カントールの定理  |X| < |P(X)|は有名なので証明は省略します.


集合の直和 \sqcupと直積  \timesも使いますが,説明は省略します.


可算無限集合 Yに対しては |Y \times Y| = |Y|が成り立ちます.
いわゆる,自然数有理数の大きさ(濃度)が同じという事実の根拠です.
これの証明は省略します.


また,無限集合  Xとその部分集合 Y \subset Xに対して, |Y| < |X|ならば, |X - Y| = |X|が成り立ちます.
つまり,無限集合から真に濃度が小さいものを引いても濃度は変わりません.
直感的に分かるような分からないような命題ですが,証明は少し難しいので省略です.


以下が成り立ちます.

補助定理.1
 Xを無限集合とする.このとき, |Y| \leq |X|ならば, |X \times Y| = |X|である.

(証明) Y  = Xの場合(一番難しい場合)を示せば,一般の場合はすぐにわかる.
よって,Y = Xとする.


ここで以下のような写像の集まりを考えます.
考える写像 fは,ある部分集合 Z \subset Xが存在して,その直積 Z \times Zを定義域に持ち終域が Zとなるものです.
特に, f: Z \times Z \to Z全単射になるものを考えます.
このような写像の集まりを \Sigmaと書くことにします.


ここで  \Sigmaは空でない帰納的順序集合であることが分かります.
まず, Xが無限集合であることから,可算無限な部分集合 Yが存在します.
可算無限集合の性質から全単射  Y \times Y \to Yが存在します.
よって, \Sigmaは空でないです.
次に, \Sigmaの順序 f \leq gを以下のように決めます.
 f \colon Z \times Z \to Z g \colon W \times W \to Wがあったとき, Z \subset Wであり,
 gの制限が  fに一致する,つまり, g|_{Z\times Z} = fとなるときに, f \leq gと定めます.
すると, \Sigma帰納的集合であることは簡単に分かります.
よって,Zorn補題により,\Sigmaには極大元 m\colon M \times M \to Mが存在します.
ここで, M \subset Xに注意.


最後に, |X| = |M|を示します.
これが分かれば, |X \times X| = |M \times M | = |M| = |X|となり,主張が証明出来ます.
背理法で示します.
 |M| < |X|と仮定します.
すると,上で紹介した事実により,|X - M| = |X|となります.
特に, |M| <  |X - M|となるので, X-Mの部分集合 Z |M| = |Z| となるものが存在します.
直和と直積の性質を使うと,

\quad (M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z) = (M \times M) \sqcup (M \times Z) \sqcup (Z \times M) \sqcup (Z \times Z)
となります.
一方,全単射  m \colon M\times M \to Mが存在し, |M| = |Z|なので,
 
\quad |(M \times Z) \sqcup (Z \times M) \sqcup (Z \times Z)| = |Z|
が分かります.
つまり,上の等式は,

\quad |(M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z)| = |M \sqcup Z|
を意味します.
特に,全単射  n \colon (M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z) \to  M \times Z を制限したものが  mとなるように取れることは簡単に分かります.
よって, m < nとなり,これは mの極大性と矛盾します.
つまり, |X| = |M|であることが分かりました. \square

補助定理. 2
集合 Yと集合族  X_{\lambda} (\lambda \in \Lambda)を考える.
このとき,任意の  \lambda \in \Lambdaに対して  |X_{\lambda}| \leq |Y|であれば, |\sqcup_{\lambda \in \Lambda} X_{\lambda} | \leq | \Lambda \times Y|である.

(証明)仮定から任意の  \lambda \in \Lambdaに対して,単射  f_{\lambda} \colon X_{\lambda} \to Y 存在する.
よって,関数  F \colon \sqcup_{\lambda} X_{\lambda} \to \sqcup_{\lambda} YF(\lambda, x) = (\lambda, f_{\lambda} (x))で定めれば, F単射である.
よって, |\sqcup_{\lambda} X_{\lambda}| \leq |\sqcup_{\lambda} Y| = |\Lambda \times Y|が得られた.  \square

代数閉包の存在証明


まず,体論の基本的な結果を復習します.

補助定理. 3
 Kを体, f Kの既約多項式とする.
このとき, K[X]/(f(X))fの根を全て含むKの拡大体であり,K上代数的な元を一つ添加した単拡大である.
(特に代数的拡大である.)

この定理は環論の基本的な結果から導くことができます.


Zorn補題を使うためには以下の補題が重要です.

補題 
Kを無限体, L/Kを代数的拡大とする.
このとき, |L| = |K|が成り立つ.

(証明)まず,K係数のモニックな既約多項式がなす集合を Iとする.
 f \in Iに対して, L_f := \{ a \in L \mid f(a) = 0\}とする.
仮定より, L = \cup_{f \in I} L_fである.
直和の性質から  | \cup_{f \in I} L_f | \leq |\sqcup_{f \in I} L_f| である.
 L_fは有限集合であるから,補助定理1と2により,

\quad  |\sqcup_{f \in I} L_f| \leq |I \times \mathbb{N}| \leq |I|
よって, |L| \leq |I|を得る.


次に,K係数のモニックな多項式n次のもののなす集合を  I_nで表す.
 I = \sqcup_{n \in \mathbb{N}} I_nである.
また,補助定理1により,  |K | = |I_n|である.
よって,補助定理1と2により,

\quad |I| = |\sqcup_{n \in \mathbb{N}} I_n| \leq |\mathbb{N} \times K| \leq |K|
となる.


以上により, |L| \leq |K|を得る.
 |K| \leq |L|は明らかなので,証明が終わった. \square


最後に代数的閉体の存在をZorn補題を用いて証明をしましょう.

定理(シュタイニッツの定理の一部)
無限体 K に対して,その代数的閉包  Lが存在する.

(証明) S = P(K)とおく.
 K \subset Sと考えて良いのであった.


ここで, Kの代数的拡大  E K \subset E \subset Sとなるもののなす集合を \Sigmaと表す.
ここで, Sの部分集合には体の構造が入っていないが,体の構造を入れることが出来るものは体であると考えることにしている.
また,集合として同じ \Sigmaの元でも体の構造が違うものは別のものだと思うことにする.


このとき, \Sigmaは空でない帰納的順序集合である.
まず, K \in\Sigmaなので空ではない.
次に, L_1, L_2 \in \Sigmaに対して, L_2/L_1が体の拡大であるときに, L_1 \leq L_2と定義し順序を定める.
これが帰納的順序であることは簡単に分かる.
よって,Zorn補題により,極大な元 M \in \Sigmaが存在する.


最後に, M Kの代数的閉包であることを示す.
そのためには, M代数的閉体であることを示せば良い.
(ここまでで集合論の準備は一切使っていない.)
 M上既約多項式 fをとる.
補助定理3により, fの根を全て含む代数的拡大体  M' (\supset M)が得られる.
補題により,|M'| = |M|であり,カントールの定理より  |M| < |S|である.
よって, |M'| < |S|となり,単射  \phi \colon M' \to Sが存在する.
特に, \phi (M') \supset Mとなるように取れる.
この像を  M^* := \phi(M')とおく.
全単射 \phi\colon M' \to M^*により  M^*には  M'と同型な体の構造が入る.
 M' Kの代数的拡大なので, K \subset M^* \in Sは代数的拡大であり  M^* \subset \Sigmaである.
 Mの極大性から M = M^*である.
つまり, Mの任意の既約多項式の根は  Mに含まれる.
つまり, M代数的閉体である.

終わりに


Zorn補題のこのような使い方を知っておくと,結構役に立つのではないかと思います.
また,今回使った集合論の結果は,集合論の本では単調に示されていくものなので,成り立つことは分かっても,どの結果から導かれたのか分かりにくいと思います.
しかし,このように応用で使われる場面を知っておくと,印象が残って集合論を勉強するときにも役に立つのではないかと思います.


(参考文献)
足立恒雄『数 体系と歴史』

吉田善章『応用のための関数解析』

今回は関数解析の本の感想を書きます. 関数解析の使い方が分かる非常に面白い本です.

新版 応用のための関数解析―その考え方と技法 (SGC BOOKS)

新版 応用のための関数解析―その考え方と技法 (SGC BOOKS)

本の内容

本著は偏微分方程式や物理への応用を目指した関数解析の入門書です. 1章はBanach空間やHilbert空間など有限とは限らないベクトル空間についての解説で, 2章はそれらの間の"写像"である作用素についての解説です. この2つ章で関数解析の基本的な考え方が学べます. 3章は関数解析偏微分方程式の応用です. 4章はベクトル場の理論, 5章は非線形理論です. 付録は3つあり, 付録AとBではよく出てくる関数空間と不等式がそれぞれまとめてあるので便利です. 付録Cは微分形式やコホモロジーの簡単な説明で, 4章で使う予備知識がまとめてあります.

感想


関数解析偏微分方程式論に興味はあるのですが, 概念や定理が膨大すぎて, これまではなかなか分かったという感じになりませんでした. 関数解析の本も偏微分方程式の本でも, 初めから読めば理解は出来るんだけど, 素人でも定義の意味や定理の価値が分かるように書かれている本は少ないと思います. (大学の授業を受けるなど, プロの考え方に触れることができれば別なんでしょうが...)


この本の良いところは, 定義や定理の必要性や価値が分かるように書いているところです. 特に, どこに困難がありどうやって解決できるかが分かるようになっています.

1章と2章で関数解析の基本的な概念を説明しているのですが, 必要最低限だけを書いているので迷子にならずに読み切ることができます. ただし, 後の章で使うために説明してるものがいくつかあり, その記述だけでは意味が分からないものがあるので, 唐突だと感じた概念は読み飛ばしても良いかもしれません. ところで, 恥ずかしながら, 位相空間論の可分性(separablility)がよく分かってなかったんですが, 関数解析の文脈では非常にスムーズに理解できますね. この本のおかげで分かりました. (この概念は用語が悪い!!).


面白かったのは3章です. 偏微分方程式や発展方程式がテーマではありますが, この章は線形作用素の性質の解説の役割を担っています. 偏微分方程式は特に楕円方程式を扱っています. 方程式の条件(非斉次項)の滑らかさが解の滑らかさに遺伝するという楕円型方程式の性質が, どのような仕組みで現れるのかということが詳しく説明されています. さらに強楕円作用素なる概念があることも紹介しており, 楕円作用素論の奥行きを感じさせてくれます. 個人的には, 楕円型・放物型・双曲型とそれぞれの偏微分方程式が個性を持っていて, それぞれで研究内容が全然違うということが面白いと思っています. (この本で, 楕円型以外について少しぐらい説明があるとよかったんですが.) 話を戻します. 数値計算で使われる近似理論(Galerkin近似)についての説明もあります. 数値計算という数学に乗りにくそうな分野が, 関数解析は見事に扱ってみせるので, 数学以外の人も存在は知っていてほしい内容です. さて, 発展方程式に関してですが, 半群やHille-Yosidaの定理など聞いたことはあるもののよく分かっていなかった概念が, 非常によく分かりました. ポイントは有界作用素が非常に扱いやすいということと, 有界作用素でできることを非有界作用素の場合にどのように拡張するか, ということのようですね. 簡単に言えば, ある種の性質を持つ非有界作用素有界作用素で近似できるというのがYosida近似であり, これによって非有界作用素の問題は有界作用素の問題に落ちる(有界作用素の解の極限で解ける)というのがHille-Yosidaの定理です. これじゃ意味が分からないかもしれませんが, この本を読むとこの定理の価値が分かるようになっています. 感動しました.


4章と5章は実はちゃんと読めていません. 4章はベクトル解析の内容で, 関数解析とどう関係するのかなと思いました. 簡単に言えば, ストークスの定理を扱っており, 境界の扱いで関数解析が使われます. 確かに, 偏微分方程式の境界値問題を考えるならこの章は自然な流れにも思います. その他にもWeyl分解やHodge-Kodaira分解なるものが出てきます. 電磁気への応用も書いてあるので, 物理的な意味を考えながら読むと良い章なのかもしれません. 5章は非線形問題で, もちろん一般の非線形問題を考えるわけですが, 3章で線形作用素を考えていたので, この章で非線形作用素を考えるという構成にもなっているわけです. この章も物理への応用に使えるものばかりですが, この本でそれが分かるようになっているわけではありません.

最後に


関数解析偏微分方程式に少し触れたことがある人が, 専門書に行く前に読む本として最適だと思います. 少ないページ数で多くのトピックを扱っているため, 当然この本の説明だけでは分からないだろうなという部分も多く, この本で関数解析偏微分方程式に初めて触れるという人にはさすがに厳しいかもしれません. 関数解析の専門的な本(Yosida, Functional Analysisなど) は分厚くて難しい本が多いです. しかし, この本で, 専門的な関数解析の本でやりたいことがやっと分かった気がしました. もしかしたら, この本に書いてあることが分かる人は専門書を読むべきだが, そうでない人はまずこの本を読むべきだと言えるのかもしれません. 僕は, そういう立ち位置の本だと思います.

微分ガロア理論の文献

微分ガロア理論に関する文献をまとめます. 微分ガロアに限らず, それを勉強するために必要な知識や, 関連する分野の文献もまとめます.
著者とタイトルは書きますが, その他のデータ(出版社や年度)まで書くのは大変なので省略することがあります. このブログは少しずつ改良していく予定です.

微分ガロア理論の教科書

・M. van der Put, M. Singer, Galois Theory of Linear Differential Equations.
微分ガロア理論の定番書. 1章でPicard-Vessiot理論の基本的な定理を説明した後, 4章までは代数的な理論, 5章から13章までは解析的な理論を解説している. Picard-Vessitot理論のほとんど全てがこの本にある. 付録では代数幾何や淡中圏についても書いている. 1章のいくつかの重要な結果の証明は, 付録の代数幾何の部分を理解していなければ読むことは厳しい. 証明にこだわらなければ, 1章の定理を認めて気になる章を読んでいけばよい.

・J. F. Ritt, Differential Algebra.
線形微分方程式を扱うPicard-Vessiot理論は, KolchinやRittによる微分代数の理論により正当化されたと言われている. Kolchin-Rittの理論では非線形微分方程式を扱うことができ, 微分ガロア群は線形代数群とは限らず一般には代数群である. 歴史的に重要なので教科書としては挙げたが, 入門段階では読む必要はない. ただし, 梅村先生の無限次元ガロア理論を学ぶときにはこの本の内容も知る必要があるかもしれない.

・I. Kaplansky, An Introduction to Differential Algebra.
古典的な入門書. 昔は簡単な本がこの本しかなかったため, よく参考文献に挙げられているが, たくさんの本が出始めている現在ではそれほどいい本だとは思わない. Kolchin-Rittの理論に従って書かれているものの, 2階の微分方程式に制限して証明したり, 簡単に書こうとする努力があってか, KolchinやRittよりも最近の本に近い書き方である. この本のおかげで以下のMagidのような本が生まれたのだと思う.

・A. Magid, Lectures on Differential Galois Theory.
Kolchin-Rittの理論を経由せずにPicard-Vessiot理論を説明する現代のやり方は, この本で確立されたと思われる. 上のvan der PutとSingerの1章の内容が丁寧に書かれている本である. 通常, 一つの微分方程式を考えるため, 普通ではあまり考えないPicard-Vessiot拡大の列などについても書かれている. 代数的なガロア理論との対比が念頭に置かれているのかもしれない. 最後の章は逆問題を扱っている.

・西岡久美子, 微分体の理論
日本語の唯一の微分ガロア理論の本. Kolchin-Rittの理論に沿って書かれている. 応用の章ではPainleve方程式の既約性を扱っており, そのためにはKolchin-Rittの理論が必要なのである. 洋書と比べても非常に優れた本だと思うが, 最近のPicard-Vessiot理論を扱った本とはずいぶん違うので, 注意も必要.

・T. Crespo, Z. Hajto, Algebraic Groups and Differential Galois Theory.
微分ガロア理論で必要となる代数幾何と代数群の説明が一通り書かれている珍しい本. Picard-Vessiot理論については, 基本的な定理の証明も書かれている. 応用として, 有理関数体  \mathbb{C} (X) 上の微分方程式を取り上げており, 特にKovacicの定理の証明と適用例が書かれている. 代数幾何や代数群について書かれているものの, あまり分かりやすくはない. 特に, 代数群の部分はHumphreysの"Linear Algebraic Geometry"のコピーアンドペーストのページも多い. 微分ガロア理論を勉強とする人は, 代数幾何や代数群の知識がない人が多いと思われるので, そのような人にはいい本だと思う.

・J. Sauloy, Differential Galois theory thorough Riemann-Hilbert Correspondence, 2016.
解析方面から微分ガロア理論を目指す珍しい本. 1部は複素関数論, 2部は複素領域の微分方程式, 3部はリーマン・ヒルベルト対応, 4部は微分ガロア理論という構成. 微分ガロア理論を詳しく解説しているわけではないが, 微分方程式論から微分ガロア理論への流れが自然なので, 初めて微分ガロア理論を勉強する人には最も勧められる本かもしれない.

・J. J. Morales-Ruiz, Differential Galois Theory and Non-integrability of Hamiltonian Systems.
ハミルトン系の非可積分性判定手法であるMorales-Ramis理論の解説を目的とした微分ガロア理論の本. Morales-Ramis 理論が出た当時は, 分かりやすい本がこれしかなかったからか, 微分ガロア理論はこの本しかないと思い込んでいる人がそこそこいる. 微分ガロア理論の説明が詳しいわけではないが,  \mathrm{SL} (2, \mathbb{C} ) の部分群の分類や超幾何方程式に関する木村の定理など, 応用で重要な結果が詳しく書かれている.

・J. F. Pommaret, Partial Differential Equations.
JetバンドルやProlongationを導入し, リー群の微分方程式への応用をホモロジー代数を用いて説明している. 途中でD加群微分代数を導入している. 最後には制御理論と連続体力学に理論を適用している. 微分ガロア理論に限らず, 群論微分方程式論の中でどのような役割を果たすかが分かる.

・G, Duval, Valuations and Differential Galois Groups, 2011.
新しい本. 読んだことがない. ページ数も少なく良さそうな本だが, valuation(付値)の応用がほとんどのページを占めているため, 微分ガロア理論を勉強したい人が読む本ではないかもしれない.

入門的な文献

微分ガロア理論を知りたいなら教科書よりも簡単な文献で全体像をつかむと良い. そのために役立つ文献を挙げる.
・M. van der Put, Galois Theory of Differential Equations, Algebraic Groups and Lie Algebra.
簡潔かつ丁寧にPicard-Vessiot理論を解説している. 例も多く他の文献にない説明もあり, 非常に優れた文献である.

・M. F. Singer, Introduction to the Galois theory of linear differential equations.
前提知識を仮定せず, 最新の研究までを解説している. 上で挙げたvan der Putと比べると, ミスがあったり説明があまり丁寧ではないが, じっくり読む価値はある.

・C. Mitschi, Monodromy in linear differential equations (Divergent, Series, Summability and Resurgence I のPart I).
上で挙げたSingerと同じようなトピックを扱っている. というより, それを丁寧に書き直したものだと思う.

・D. BertrandによるMagid, Lectures on differential Galois theoryのreview, BULLETIN OF THE AMERICAN MATHEMATICAL SOCIETY.
Magid本のレビューであるが, 微分ガロア理論の発展が解説されている.

無限次元ガロア理論

無限次元微分ガロア理論は Malgrange と梅村先生の二つの理論がある. これら二つの理論の能力が等しいことは梅村先生によって示されている. (フランス語の論文でしかも入手方法が分からないので読めない.) それぞれの理論の文献を挙げる.

・B. Malgrange, Pseudogroupes de Lie et théorie de Galois différentielle, 2010
Malgrange による彼の理論の解説. かなり丁寧に書かれているようであるが, 私には読めない.

・B. Malgrange, On nonlinear differential Galois theory, 2002.
Malgrangeの理論の英語の解説. 定義を復習した後, 例や未解決問題を説明している.

・G. Casale, An introduction to Malgrange Pseudogroup, 2000
Painleve方程式や可積分判定へ無限次元ガロア理論を適用している研究者であるCasaleによるMalgrange理論の解説. 何度もチャレンジしているが私は理解できていない.

・H. Umemura, Galois theory of algebraic and differential equations, 1996
無限次元微分ガロア理論の論文パート1.

・H. Umemura, Differential Galois theory of infinite dimension, 1996.
無限次元微分ガロア理論の論文パート2.

Parametrized Picard-Vessiot 理論

最近よく研究されていると思われる微分ガロア理論. ガロア群は微分代数群という代数群の一般化になる. モデル理論からの結果も多い.

・A.Pillay, Differential Galois theory I, 1998.
・A.Pillay, Differential Galois theory II, 1997.
・D. Marker, A.Pillay, Differential Galois theory III, 1997.

・A. Pillay, Finite-dimentional differential algebraic groups and the Picard-Vessiot theory, 2002.

・A. Pillay, Algebraic D-groups and differential Galois theory, 2004.

・A. Pillay, The Picard-Vessiot theory, constrained cohomology, and linear differential algebraic groups
微分ガロア群のコホモロジーについての結果.

物理への応用

もっとも有名な応用はMorales-Ramis理論である. 他にも応用はありそうである.

・M. Audio, Hamiltonian Systems and Their Integrability.
Morales-Ramis理論の解説を目的とした本. シンプレクティック幾何や可積分性についても学べる. 微分ガロア理論は付録で解説している.

・A. J. Maciejewski, M. Przybylska, Differential Galois theory and integrability.
Morales-Ramis理論の応用の研究結果の紹介.

P. B. Acosta-Humanez, J. J. Morales-Ruiz, J-A. Weil, Galoisian approach to integrability of Schrodinger equation.
微分ガロア理論シュレディンガー方程式への応用.

Painleve方程式

Painleve方程式は既約性が長年の問題であり, その問題に対するアプローチとして微分ガロア理論が現れる. 既約の意味が論文によって違うので少し注意が必要.

パンルヴェ方程式の基本的な教科書として以下の二冊を挙げておく.
・岡本和夫, パンルヴェ方程式
・K. Iwasaki, H. Kimora, S. Shimomura, M. Yoshida, From Gauss to Painleve


無限次元微分ガロア理論の準備としても以下の3つの文献は役に立つ.
・梅村 浩, Painleve 方程式の既約性について, 1987.
・梅村 浩, Painleve 方程式と古典関数, 1995.
・梅村 浩, Painleve 方程式の100年, 1999.

・G. Casale, J. A. Weil, Galoisian methods for testing irreducibility of order two nonlinear differential equations, 2015.
無限次元ガロア理論のPanleve方程式の既約性判定への応用. Morales-Ramis-Simoによる非可積分判定のアイデアが使われているようで面白い.

標数・p進数・実数体

微分ガロア理論において定数体が代数閉体であるという仮定や標数0の仮定が重要である. そのため, 定数体を一般化して微分ガロア理論を定式化しようとするのは自然である.

・M. van der Put, Differential equations in characteristic p, 1995.
グロタンディーク予想をモチベーションとして正標数微分体上の微分ガロア理論を考察している. この段階でPicard-Vessiot拡大の一意性まで言えていないようであるが, 淡中圏を用いて様々な結果を得ている.

・T. Creeps, Z. Hajto, E. Sowa, Picard-Vessiot theory for real fields, 2013.
通常のPicard-Vessiot理論は, 係数が代数閉体であることを仮定する. そのため, 実関数の微分方程式でも複素関数のクラスで考える. この論文は実関数のままPicard-Vessiot 理論を展開する方法を与えている. 例えば, 実関数の積分が実関数の初等関数で書けることの判定するなどの応用がある.

・T. Creeps, Z. Hajto, M. van Der Put, Real and p-adic Picard-Vessiot fields, 2016.
淡中圏やガロアコホモロジーを用いてPicard-Vessiot体の一意性を示したもの. p進微分方程式も扱えるようになっている.

・B. Dwork, Lectures on p-adic Differential Equation.
p進微分方程式の教科書.

常微分方程式

微分ガロア理論と複素領域の微分方程式の理論には密接な関係がある.

・坂井秀隆, 常微分方程式
微分方程式の重要な定理を全て書いている. しかも, ほとんどの定理にはきちんと証明もついている. 特に, 力学系への応用にも詳しく, 可積分の定義や関連する重要な結果も紹介している. 微分方程式を勉強するならこの本を持っておくべきだと断言できる. それほどの良書.

・高野恭一, 常微分方程式
複素領域の微分方程式について, 丁寧に解説した本. 定評のある本であり, 初めて勉強するなら非常に良い.

・原岡善重, 複素領域における線形微分方程式
複素領域の微分方程式の本で, 特にフックス型と呼ばれる方程式について詳しい. 高野先生の本を詳しくしたものだと思えば良い. 途中では微分ガロア理論も紹介されている.

代数幾何

微分ガロア理論を勉強する上で代数幾何が必要となるのには二つの理由がある. 一つは微分代数は微分多項式の零点を研究する分野と見ることができ, その意味で代数幾何の一般化であること. Ritt-Kolchinの理論はそのような問題意識があり, Picard-Vessiot理論では代数幾何の定理が必要となることが時々ある. 二つ目は, 微分ガロア群は代数群であり, 代数群を理解するには代数幾何が必須であることである. あと, 梅村先生の微分ガロア理論を理解するには代数幾何は前提である.

・T. Garrett et al. ,Algebraic Geometry - A Problem Solving Approach.
多くの具体例を通して, 代数幾何の基本が学べる本. 微分ガロア群では, グロタンディークの代数幾何のような現代的な代数幾何は必要ない. 微分ガロア理論で使う程度の代数幾何が勉強できる本を知らなかったが, 最近見つけたこの本がベストのようである.

代数群

以下の3つの本は線形代数群の基本的な教科書である.
・J.E. Humphreys, Linear Algebraic Groups.
・A, Borel, Linear Algebraic Groups.
・T. A. Springer, Linear Algebraic Groups.

その他文献

微分ガロア理論やそれに関係する文献を挙げる.

・R. C. Churchill, J. J. Kovacic, Cyclic vectors, 2002.
高階の微分方程式は1階の連立微分方程式に簡単に書き変えることができる. この逆を行うには, cyclic vectorと呼ばれるものを計算する必要がある. この論文はcyclic vector の簡単な計算方法を与えている.

・M. van der Put, Galois theory and algorithms for linear differential equations, 2005.
微分ガロア群の計算方法についてのサーベイ.

・H. Zoladek, Two remarks about Picard-Vessiot extensions and elementary functions, 2000.
Picard-Vessiot理論のガロア対応の証明について書いてある. また初等関数についても書いてある. 分かりやすかった.

・A. Seidenberg, Abstract differential algebra and the analytic case, 1958.
・A. Seidenberg, Abstract differential algebra and the analytic case II, 1969.
 \mathbb{Q}上有限生成微分体は有理形関数体に埋め込まれることを示した論文. パートIIは系の証明の不十分な箇所の補足. Rittの教科書の結果を使うと非常に有用な定理が出ることが分かる.

・G. H. Hardy, The integration of functions of a single variable, 1905.
積分の計算について詳しく書いている. 特に積分の解が初等関数で書ける判定方法について非常に詳しい.

・M. Kamensky, Model theory and the Tannakian Formalism, 2014

・R. C. Churchill, Liouville's theorem on integration in terms of elementary functions, 2002.
積分が初等関数で書けることを判定するLiouvilleの定理の解説. 前半は微分代数の入門としても優れている.