記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

微分環と双対数

微分環は、環の構造に加えて微分を考えているものでした。双対数を用いると、微分環は単なる環の議論に言い換えることができるということを知りました。けっこう感動したので、まとめておこうと思います。

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今回の記事では、1を持つ可換環を環と呼ぶことにします。

双対数の定義


Rの双対数 R [\epsilon]とは、z = a + b \epsilon ,\, a ,\, b \in Rの集まりで\epsilon^2 = 0となるように演算を定めた環のことです。双対数といいつつ環であることに注意。具体的に演算を計算すると、
 \displaystyle
\begin{align*}
&(a_1+b_1\epsilon) + (a_2 + b_2 \epsilon) = a_1 + a_2 + (b_1 + b_2) \epsilon\\
&(a_1+b_1\epsilon) \cdot (a_2 + b_2 \epsilon) = a_1 a_2 + (a_1 b_2 + a_2 b_1) \epsilon + b_1 b_2 \epsilon^2 =   a_1 a_2 + (a_1 b_2 + a_2 b_1) \epsilon
\end{align*}

となります。厳密に双対数を定義するには、多項式環 R[X] イデアル (X^2)で割ったもの、 R[\epsilon] := R[X]/(X^2) とすれば良いでしょう。


双対数は英語では dual number と言います。定義が似ているのは複素数ですね。Rを実数の集合として、 z = a + biの集まりでi^2 = -1と演算を入れたものが複素数でした。
複素数 \mathbb{C} = \mathbb{R} [X ] / (X^2 + 1)と厳密に定義ができます。


環の元aが可逆元であるとは、a a^{-1} = 1となる元 a^{-1}が存在することでした。つまり、aで割ることができるということです。後の議論で使う、以下の補題を覚えておいてください。

補題
以下は同値である。
(1)  a + b\epsilon \in R[ \epsilon ]が可逆元。
(2)  a \in Rが可逆元。

実際、
 { \displaystyle
(a+b \epsilon)^{-1} = \frac{1}{a} - \frac{b}{a^2} \epsilon
}
の関係がすぐに分かります。

微分環と双対数


さて、微分環と双対数の関係を考えます。
R微分環であるとは、写像D:R \to Rが存在して、
(1) D(a+b) = D(a) + D(b)
(2) D(ab) = D(a) b + a D(b)ライプニッツ則)
が成り立つことを言うのでした。
このとき、DR微分と言います。


ここからが面白いところです。実は、微分の条件は双対数の環の準同型の条件と同値なのです。

補題
Rを環、R[\epsilon]はその双対数、D:R\to R写像とします。以下は同値である。
(1) D: R \to R微分である。
(2)  a \mapsto a + D(a) \epsilonで定義された写像F_D : R \to R [\epsilon] が環の準同型である

特に、F_Dの積に関して準同型であるという条件を見てみると、
{\displaystyle
F_D(a b)= F_D (a) F_D(b)
}
つまり、
 \displaystyle
ab + D(ab)\epsilon=  (a +D(a) \epsilon) (b + D(b) \epsilon)
さらに、
 \displaystyle
ab + D(a b) \epsilon =  ab +(D(a) b + a D(b))\epsilon
となるので、F_Dが積に関して準同型であることと、Dライプニッツ即を満たすことが同値であることが分かります。他の条件は簡単に分かります。


このように微分と双対数は深い関係があるのです。上の補題以外にも、微分と双対数を結びつける考え方があります。それを使って微分係数を計算するテクニックがあるそうです。双対数はたかだか多項式の計算をするだけで、極限の操作がないことが効いているようです。今回は関係がないのでこれ以上は述べませんが、双対数か二重数で調べると出てくると思います。

双対数の応用:微分を商環に拡張する

さて、以上のことを応用してみましょう。
微分 Rの積閉集合Qによる商環 Q^{-1}R に、R微分を拡張するということを考えます。簡単に言うと、商環とはQの元を可逆元にした環のことでした。Q = \{1 ,\, x ,\, x^2 ,\, \dots \}と定義すると、 Q^{-1}Rではxが可逆元になります。Rが整域の時は、Q = R\backslash \{ 0 \} と取ることができ、Q^{-1}Rでは0以外の元が可逆元になります。つまり、体になります。これをRの商体と言うのでした。


さて、以下の簡単な補題に注意しましょう。

補題
環の準同型 f: R_1 \to R_2R_1の積閉集合Qがあるとする。
任意の  q \in Qf(q)\in R_2が単元なら、fQ^{-1} R_1から  R_2への環の準同型 \bar{f}に一意に拡張できる。

これは、\displaystyle \bar{f}( \frac{p}{q}) = \frac{f(p)}{f(q)}の関係に注意すればすぐに分かります。


さて、RD微分に持つ微分環とします。上の補題を用いて、Q^{-1} R微分を拡張することを考えましょう。微分を拡張するとは、Q^{-1}R微分が定義でき、そのRへの制限がDと一致することを言います。

補題2のように定義した F_D : R \to R[\epsilon] と自然な単射 R[\epsilon] \to Q^{-1} R [\epsilon ] の合成をG: R \to Q^{-1} [\epsilon]とします。つまり、G(p) = (p/1) + (D(p)/1) \epsilonです。q \in Qに対して q/1  \in Q^{-1} Rは単元なので、補題1と3によりGは環の準同型\bar{G}: Q^{-1} R \to Q^{-1} R [ \epsilon ]に拡張できます。ある関数E:Q^{-1} R \to Q^{-1} R が存在して\bar{G} (a) = a + E(a) \epsilon となる形になっているので、補題2により微分Dの拡張E:Q^{-1} R \to Q^{-1} Rが一意に定まることがわかりました。


どのように拡張されるかは補題(の下に書いた式)から計算できる。実際、補題1より
\displaystyle
\left(\frac{q}{1} + \frac{D(q)}{1}  \epsilon \right)^{-1} = \frac{1}{q} - \frac{D(q)}{q^2} \epsilon

なので、
 {\displaystyle 
\begin{align*}
\bar{G} \left(\frac{p}{q} \right) &= \left( \frac{p}{1} + \frac{D(p)}{1} \epsilon \right) \left( \frac{1}{q} - \frac{D(q)}{q^2} \epsilon \right) \\
&= \frac{p}{q} + \frac{D(p) q - p D(q)}{q^2} \epsilon 
\end{align*}
}

となり、Q^{-1} R微分が、
 {\displaystyle
E = \frac{D(p) q - p D(q)}{q^2}
}

と(通常のように)定義できることがわかる。

この結果を用いると、整域の商体に微分が拡張できることがわかる。この証明の面白いところは、商の微分の公式が、双対数の逆元の公式から来ていることが分かるところです。商の微分で分母が2乗されることの解釈が得られたと言えるでしょう。


参考文献
A. R. Magid, Lectures on Differential Galois Theory.
実は、このMagidの本の読書メモを書こうとしてたのですが、長くなりそうなので止めました。今回の内容は、その時に書きかけていたものを、独立して記事にしたものです。

微分体の応用(Schanuel予想もあるよ)

今回は微分体の応用として、\displaystyle \log x\displaystyle e^{x}が有理関数体 \mathbb{C} (X)上で超越的であることを見ていきます。
実は、今回の内容はLiouvilleの定理の証明の準備になっています。
(というより、Liouvilleの定理の証明が大変なので、記事を分けることにした次第です。)
おまけとして、\pieが代数的に独立であることを系に持つSchanuel予想を紹介します。

(Schanuel予想に興味がある人は、このリンクから飛んでください)

微分体の定数体に関する仮定


微分体の理論については以下の記事で簡単にまとめています。
tetobourbaki.hatenablog.com
微分体や微分ガロア理論はいつか詳しく書きたいとは思っています。


さて、微分\partial微分Kを考えます。
 C_{K} = \mathrm{Ker} \partial_K微分Kの定数体というのでした。
簡単に、 a^{\prime} := \partial (a)と書くことにしましょう。
微分体の理論では、この C_Kにいくつかの仮定を置くことが多いです。


例えば、C_K標数 0代数閉体であるというのが、線形微分ガロア理論における基本的な仮定です。
(この仮定を緩めることは現在の研究対象の一つです。)


また、微分体の拡大  K \subset Lがあるとき、一般に  C_K \subset C_Lとなりますが、 C_K = C_Lであるという仮定をおくことが多いです。
このときは、no new constant な拡大であると言ったりします。
つまり、微分体を拡大するときに、定数は追加しないということですね。
以下の補題が成り立ちます。

命題
微分体の拡大  K \subset Lに対して、以下の条件は同値である。
(a)  C_K = C_L;
(b)  k \in K ,\, \ell \in L \backslash K に対して k^{\prime} \neq \ell^{\prime}

簡単ですが、証明しましょう。
(証明)
(a)が成り立つとします。 k^{\prime} = \ell^{\prime}を仮定すると、  (k-\ell)^{\prime}  = k^{\prime} - \ell^{\prime} = 0より  k-\ellは定数。
特に、Kの元である。
これは \ell \notin Kに矛盾する。
(b)が成り立つとする。
Lの定数で Kの定数でないもの cがあったとすると、c^{\prime} = 0 = 1^{\prime}となり矛盾。


さて、no new constant の仮定にどのような意味があるかを簡単に見てみましょう。
線形微分方程式  x^{\prime} - x =0を解きたいとします。
明らかに指数関数 e^xが解ですね。
有理関数体  K = \mathbb{C} (X)には微分方程式を満たす元はありません。
解を Kに添加して、解を含む微分Lを得ることができます。
厳密には、不定Yを用いて体  L = K(Y) = \mathbb{C} (X, \, Y)を考えると、YKで超越的なので、
Y^{\prime} = Yとなる微分Lに定義でき、 K \subset L微分体の拡張となります。
線形ガロア理論の用語でいうと、この拡大 K \subset Lが方程式 x^{\prime} - x =0のPicard-Vessiot拡大と呼ばれるもので、代数方程式でいうガロア拡大に対応します。

しかし、Lに対して同じステップで新たに解を追加することができます。
すなわち、 M = L(Z) = \mathbb{C} (X,\, Y ,\, Z)Y ,\, Zが方程式  x^{\prime} - x = 0を満たす微分Mが定義できます。
つまり、無駄な解が定義できたわけです。
実は、
{\displaystyle 
\left( \frac{Y}{Z} \right)^{\prime} = \frac{Y^{\prime} Z - Y Z^{\prime}}{Z^2} = \frac{Y Z - Y Z}{Z^2} = 0
}

となるので、\displaystyle\frac{Y}{Z}Mの定数になっています。
 \displaystyle\frac{Y}{Z}\notin Kですので、拡大  K \subset Mで新たな定数が追加されています。
よって、no new constant の仮定を置くことで、このような無駄な拡大を考えないで良いことになります。


以下では、e^x\log xの超越性を示します。
ついでにLiouvilleの定理の証明で必要な命題も示します。
モチベーションを簡単に説明しましょう。
多項式では恒等式の両辺の次元を比較することで、何かが分かることがあります。
多項式では微分すると次数が一つ下がり、このことを用いる議論もたくさんあります。
しかし、e^xlog x多項式では、微分しても次数が下がるとは限りません。
そこで、これらの多項式微分したときにどうなるかについて、情報を与えてくれるのがこれから示す命題です。

log x の超越性

命題
K \subset L微分拡大とし、C_K = C_L =: Cとする。定数体C標数は0とする。
\ell \in L \backslash K\ell^{\prime} \in Kを満たすとする。
このとき、
(a) \ellK上超越的;
(b) 多項式 p(\ell) = \sum_{i=0}^n k_i \ell^{i} \in K[ \ell ] ,\, n > 0 ,\, k_n \neq 0を考えたとき、
  (p(\ell))^{\prime} \elln次の多項式であることと、k_n \notin Cであることは同値である。
 k_n \in Cなら、(p(\ell))^{\prime}n-1次の多項式になる。
が成立する。

(証明)
(a) no new constantの仮定より、\ell^{\prime} \neq 0である。
\ellK上で代数的と仮定すると、ある n > m \geq 0が存在し、
{ \displaystyle
\ell^{n} + c_m \ell^{m} + \dots + c_0 = 0 ,\, c_i \in K ,\, c_m \neq 0
}
と書ける。
 nはこのように書ける最小のものとする。
この代数方程式を微分すると、
{\displaystyle
\begin{equation}
n \ell^{\prime} \ell^{n-1} + c_m^{\prime} \ell^{m} + m c_m \ell^{\prime} \ell^{m-1}+ \dots + c_0^{\prime} = 0  \tag{1}
\end{equation}
}
となる。
3つのケースに場合分けする。
n-1 > mの場合。
標数が0であることと、\ell^{\prime} \neq 0より(i)式を n \ell^{\prime}で割ることで、n-1次の代数方程式を得る。
これは nの最小性に矛盾する。
n-1 = mかつ  n \ell + c_m^{\prime} \neq 0の場合。
(i)式を  n \ell + c_m^{\prime}で割ることで、m次の代数方程式を得る。
これも nの最小性に矛盾する。
n-1 = mかつ  n \ell + c_m^{\prime} = 0の場合。
 (n \ell + c_m)^{\prime} = n \ell + c_m^{\prime} = 0より、 n \ell + c_m \in C
しかし、n \ell + c_m \notin Kより、no new constant の仮定に矛盾。
(b) p(\ell)微分すると、
 { \displaystyle
\begin{align*}
(p(\ell))^{\prime} &= k_n^{\prime} \ell^{n}+ nk_n \ell^{\prime} \ell^{n-1} + k_{n-1}^{\prime} \ell^{n-1} + \dots + k_0^{\prime}\\
&=k_n^{\prime} \ell^n + (nk_n \ell^{\prime}  + k_{n-1}^{\prime} )\ell^{n-1} + \dots + k_0^{\prime}
\end{align*}
}
これが n次であることと k_n^{\prime} \neq 0であることは同値である。
k_n^{\prime} = 0とする。
 nk_n \ell^{\prime}  + k_{n-1}^{\prime} = 0と仮定すると、 ( n k_n \ell  + k_{n-1} )^{\prime} = 0となる。
標数が0なので、 n k_n \ell + k_{n-1} \notin Kとなり、no new constant の仮定に矛盾。


(\log x)^{\prime} = 1/x \in \mathbb{C} (X)などに注意すると、様々な系が得られる。


f(x)を定数でない有理関数とする。
\log f(x)は有理関数体 \mathbb{C} (X)上で超越的。

また、命題の(b)より、 \log x多項式微分したときに、次数が下がらないか高々1つしか下がらないことが分かる。
命題の(a)は一般的な状況の系を導く。


K標数0の微分体とする。k \in K \backslash C_Kかつ  k^{\prime} \in C_Kならk C_K上で超越的。

(証明)C_K \subset Kが no new constant な微分拡大なので、命題(a)が使える。


この系の標数が0でない場合も容易に証明できる。

命題
 K標数 p > 0微分体とする。Kの元は定数体  C_K上で代数的。

(証明)k \in Kとする。
(k^p)^{\prime} = p k^{\prime} k^{n-1} = 0より、 k^{p} \in C_K
よって、 x^p - k^p = 0C_K上の多項式 kを解に持つ。

e^xの超越性

命題
K \subset L微分拡大とし、C_K = C_L =: Cとする。定数体 C標数は0とする。
\ell \in L \backslash K\displaystyle \frac{\ell^{\prime}}{\ell} \in Kを満たすとする。
このとき、
(a) \ellK上で代数的であることと、ある n > 1 \ell^n \in Kとなることは同値;
(b) \ellK上で超越的とする。
 多項式 p(\ell) = \sum_{i=0}^n k_i \ell^{i} \in K[ \ell ] ,\, n > 0 ,\, k_n \neq 0を考えたとき、
  (p(\ell))^{\prime} \elln次の多項式である。さらに、 p(\ell)で割り切れることと、p(\ell)が単項式であることは同値。
が成立する。

(証明)
no new constant の仮定より \displaystyle b:= \frac{\ell^{\prime}}{\ell} \neq 0である。
(a) 一方は明らか。
\ellK上で代数的と仮定すると、ある n > m \geq 0が存在し、
{ \displaystyle
\ell^{n} + c_m \ell^{m} + \dots + c_0 = 0 ,\, c_i \in K ,\, c_m \neq 0
}
と書ける。
 nはこのように書ける最小のものとする。
この代数方程式を微分すると、
{\displaystyle
\begin{equation}
n b \ell^{n} + (c_m^{\prime} + m c_m b )\ell^{m}+ \dots + c_0^{\prime} = 0  \tag{1}
\end{equation}
}
となる。
この式から、nbp (\ell ) = 0を引くと、n次未満の代数方程式が得られるので、nの最小性より、m次の係数  c_m^{\prime} + mc_m b - nbc_mが0でなければいけない。
つまり、\displaystyle c_m^{\prime} + (m - n) c_m b = 0となる。
よって、
{\displaystyle
\begin{align*}
(c_m \ell^{m-n})^{\prime} &= (m - n) c_m \ell^{m - n - 1} b \ell + c_m^{\prime} \ell^{m - n}\\
&= (m-n) b c_m \ell^{m-n} + c_m^{\prime} \ell^{m-n} \\
&= 0
\end{align*}
}
となる。
以上より、c_m \ell^{m-n} \in C_K \subset K
nの最小性より、m = 0であり、 \ell^n \in Kを得る。
(b)一方は明らか。
p(\ell)^{\prime} = k p(\ell) ,\, k \in Kと書けたとする。
p(\ell)が単項式でないと仮定すると、 m < nk_m \neq 0となるものがある。
p(\ell)^{\prime} = k p(\ell)より  k_j^{\prime} + j k_j b = k k_j ,\, j = n ,\, mとなる。
kを消去すると (n - m) k_n k_m b + k_m k_n^{\prime} - k_n k_m^{\prime} = 0を得る。
よって、
{\displaystyle
\begin{align*}
\left( \frac{k_n \ell}{k_m \ell^m} \right)^{\prime} &= \frac{(k_n^{\prime} \ell^{n} +n k_n b \ell^n) k_m \ell^m - k_n \ell^{n} (k_m^{\prime} \ell^{m} +m k_m b \ell^m)}{(k_m \ell^{m})^2} \\
&= \frac{( (n-m)k_n k_m b + k_n^{\prime}  k_m  - k_n k_m^{\prime})\ell^{n+m}}{(k_m \ell^{m})^2}\\
&= 0
\end{align*}
}
よって、\displaystyle \frac{k_n \ell}{k_m \ell^m} \in C_K \subset Kとなり、\ellが超越的であることに矛盾する。
よって、 p(\ell)は単項式。


(e^{f(x)})^{\prime} / e^{f(x)} = f^{\prime} (x)から以下の系が出てきます。


定数でない有理関数f(x)に対して、\displaystyle e^{f(x)}は有理関数体 \mathbb{C} (X)上で超越的。

Schanuel予想


さて、有理関数体上の超越的であることを見てきたのですが、このような方向性で面白い問題があるのでしょうか?
超越数に関する未解決問題は、\pieの代数的独立性です。
例えば、e\mathbb{Q}(\pi)を係数とする方程式の解になるとは思えないわけです。
つまり、\mathbb{Q}上の \mathbb{Q}(\pi ,\, e)の超越次数は2と予想されているわけです。
この予想を証明する鍵になると思われているのが、Schanuel予想です。

Schanuel予想
 x_1 ,\, \dots ,\, x_n \in \mathbb{C}\mathbb{Q}上で一次独立なら、
\mathbb{Q} (x_1 ,\, \dots ,\, x_n ,\, e^{x_1} ,\, \dots ,\, e^{x_n} )\mathbb{Q}上の超越次数は  n以上になる。

この予想において、 x_1 = 1 ,\, x_2 = i \piとおけば、\mathbb{Q} (1 ,\, i \pi ,\, e ,\, e^{ i \pi}) = \mathbb{Q} (i \pi ,\, e)となり、\pieの代数的独立性が導かれます。


Schanuel予想が微分体の理論の範疇に入るかは微妙ですが、その類似の結果は微分体の理論で証明できます。

Axの定理
最低次の項の次数が1以上の形式べき級数  f_1(X) ,\, \dots ,\, f_n (X) \in X \mathbb{C} [ [ X ] ] \mathbb{Q}上で線形独立なら、
\mathbb{C} (X ,\, f_1 (X) ,\, \dots ,\, f_n (X) ,\, e^{f_1 (X)} ,\, \dots ,\, e^{f_n (X)} ) \mathbb{C}(X)上の超越次数は n以上である。

証明は参考文献の『微分体の理論』に譲ります。
Schanuel予想にはまだまだ遠いですが、微分体の意外な応用があることが伝わったかなと思います。


参考文献
西岡久美子『微分体の理論』
R. C. Churchill, "Liouville's Theorem on Integration in Terms of Elementary Functions

【書評】求積法のさきにあるもの

今回は磯崎洋『求積法の先にあるもの 微分方程式は解ける』を紹介します。
簡単に読めるが、なかなか難しいことまで書いてる良書です。

求積法のさきにあるもの: 微分方程式は解ける

求積法のさきにあるもの: 微分方程式は解ける

こんな人にオススメ

微分方程式を勉強しているが、面白さが分からない。
偏微分方程式にも触れてみたい。
微分形式など記法が分からない。
微分方程式の応用が知りたい。

内容紹介

先生と生徒の対話形式で進んでいきます。
そのため、式の解釈や、問題を解く時の考え方が分かるようになっています。

1章では、簡単な常微分方程式偏微分方程式の解き方を紹介しています。
積分因子をきっかけにして、常微分方程式を解くことと1階の偏微分方程式が対応することを簡単に紹介しています。
最後に、応用として包絡線の求め方を説明しています。

2章は、常微分方程式と1階の偏微分方程式の対応をきちんと理解することがテーマです。
接空間、第一積分、初期値問題など、微分方程式で必須の概念が紹介されます。
その後、特性方程式や成帯条件がどのように解釈できるかを説明し、常微分方程式を解くことと1階の微分方程式を解くことが明らかになります。
その応用として、ハミルトン系を偏微分方程式に帰着させて解く手法であるハミルトン・ヤコビの理論が説明されます。

3章は解析力学です。
微分形式、余接空間、共変ベクトル・反変ベクトルなどが丁寧に説明されています。
そして、ハミルトン系とラグランジュ系の説明に入ります。
特に、正準変換やその母関数が詳しく説明されています。

4章は、これまでのことを幾何光学に応用することがテーマです。
反射や屈折、ホイヘンスの原理が、これまでの知識を使うと説明できることが明らかになります。
その後、シュレディンガー方程式をきっかけに経路積分まで紹介されています。

読んだ感想

細かいところまで厳密に書かれてはいないが、引っかかりやすい場所が丁寧に説明されています。
微分方程式という分野は、陰関数定理が必要なところを中心に、理論的に考えると結構面倒なところが多いです。
しかし、必要な注意がきちんとありつつも、ほどよいところで止めてくれるため、すいすい読み進めることができます。
ただし、すごく細かいところまでは書いてないため、自分で手を動かしてみないとなかなか理解できないでしょう。
自分で計算しないとダメな部分に、わざとギャップを置いている感じがあります。

本当に簡単な本には書いていないことが書いてあります。
難しい本にしか書いてものも、分かりやすく書いてあるので非常に良かったです。
特性方程式やハミルトン・ヤコビがスッと理解できたことが個人的な収穫でした。
母関数も、こんな簡単だったんだなあ、と考えながら読んでました。
4章まだ理解できていない部分が多いのでまた読もうと思います。

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不定積分が初等関数で表せないものについて(Liouvilleの定理)

ご存知の方も多いように、e^{x^2} \frac{\sin x}{x}の不定積分は高校で習うような関数(初等関数)では書くことができません。
今回は、このことを証明するために使われるLiouvilleの定理とその応用を紹介します。
今回の内容では、Liouvilleの定理の証明や"初等関数で書けない"とはどういうことかまで説明することができません。
今回を含めて4回くらいで、ほぼ完全に理解できる内容を書きたいと思っています。
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Liouvelleの定理とLiouville判定法

まずはLiouvilleの定理を紹介します。これは、不定積分が初等関数で書けることの必要条件を与える強力な定理です。

Liouvilleの定理
f(x)の不定積分が初等関数で書けるためには、複素定数 c_1 ,\, \dots ,\, c_n \in \mathbb{C}と有理関数 g_1 (x) ,\, \dots ,\, g_n (x) ,\, h(x)が存在して、
 { 
\displaystyle
\begin{equation}
f(x) = \sum_{j=1}^n c_j \frac{g_j^{\prime} (x)}{g_j (x)} + h^{\prime} (x)
\end{equation}
}
と書けることが必要かつ十分である。
2月13日追記
このLiouvilleの定理の表現には大きな間違いがありました。Liouvilleの定理の証明の記事で訂正した定理を述べます。以下のLiouville判定法は問題無いです。

特別な場合には、もっと簡単な定理があります。

Liouville判定法
有理関数 f(x) ,\, g(x)に対して、f(x)e^{g(x)}の不定積分が初等関数で書けるためには、ある有理関数 h(x)が存在して、
 { 
\displaystyle
\begin{equation}
f(x) = h^{\prime} (x) + h(x) g^{\prime} (x)
\end{equation}
}
と書けることが必要かつ十分である。

Liouville判定法はLiouvilleの定理と定理の証明のアイデアから導くことができます。

e^{x^2}が初等関数で書けないことの証明

Liouville判定法を用いて、e^{x^2}が初等関数で書けないことを証明しましょう。
まず、Liouville判定法を満たす有理関数h(x)があったとし、互いに素な多項式p(x),\,q(x)h(x) = p(x)/q(x)と書けたとします。
判定法の満たすべき式より1=h^{\prime}(x) + 2h(x) xなので、計算すると
 {
q(x) \{ q(x) -2p(x) x - p^{\prime} (x) \} = - q^{\prime} (x) p(x)
}
となることが分かります。
よってq^{\prime} (x) p(x)q(x)で割り切れる。p(x),\, q(x)は互いに素なので、 q^{\prime} (x)q(x)で割り切れる。
このことはq(x)が定数、つまり、h(x)多項式であることを意味します。
再び、1=h^{\prime}(x) + 2h(x) xを考えると、左辺は0次の多項式であるが、右辺はh(x) \neq 0である限り1次以上の多項式である。
よって、矛盾である。
もちろん、h(x) = 0でも矛盾。
つまり、Liouville判定法を満たす有理関数h(x)は存在しない。

厳密な証明に向けて

一応証明はできました。
特に、e^xの不定積分は書けるのに、e^{x^2}の不定積分が書けない理由が、Liouville判定法の式から来ているということが分かると思います。
とりあえず、ここまでは前提知識が無くても分かっていただけると思います。
しかし、
a. 初等関数で書けないことの厳密な定義
b. Liouvilleの定理およびLiouville判定法の証明
がまだ説明できていません。
そして、それらの説明には、
c. 微分体の理論
が必要です。
これらのことは別の記事で説明しようと思います。
(おそらく、b. がかなり大変になります. )

参考文献
R. C. Churchill, Liouville's Theorem on Integration in Terms of Elementary Functions.
M. Rosenlicht, Liouville's Theorem on Functions with Elementary Integrals.

a.初等関数で書けないことの厳密な定義については記事にしました。
tetobourbaki.hatenablog.com
また、Liouville判定法の証明に使う補題に関する以下の記事も書きました。
http://tetobourbaki.hatenablog.com/entry/2017/01/15/121054tetobourbaki.hatenablog.com


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初等関数で書けないとは、どういうことか

 e^{x^2}の不定積分は計算できない、
もっというと、初等関数では原始関数が書くことができないと言われます。
今回は"初等関数で書ける"ことの厳密な定義を述べます。
f:id:tetobourbaki:20170108183918p:plain

微分体の復習

さっと微分体や微分体の拡大について復習します。
まず、 Kを体とします。簡単のため、標数は0としておきます。
Kが_微分体_であるとは、写像\partial : K \to Kが存在して、
 (a.) 線型性、つまり、 \partial(a+b) = \partial (a)+ \partial (b) ,\, a ,\, b \in K;
 (b,) Leibnitz則、つまり、 \partial(ab) = \partial (a) b + a \partial (b) ,\, a ,\, b \in K
の二つの性質が成り立つことを言います。
簡単に a^{\prime} = \partial (a) と書くことにしましょう。
 C_K := \mathrm{Ker} (\partial )は体になることが知られています。
 C_KKの定数体と呼びます。


有理関数体K = \mathbb{C} (X)は普通の意味の微分微分体になります。
定数体はもちろん\mathbb{C}です。
微分体ではその元の代数的な関係のみを見ており、関数ということを忘れています。
これは長所であり短所でもあります。
微分体では商の微分公式など、様々な公式が成り立ちますが、合成関数の微分公式は素朴には成り立ちません。
というよりも、まず合成関数が素朴には定義できません。
ここの扱いが、今回の記事のポイントになっています。


次に、微分体の拡大について説明します。
体の拡大 K \subset Lが存在し、K,\, Lが共に微分体であり、なおかつ、L微分Kへの制限がK微分と一致するときに、
 K \subset L微分体の拡大と言います。
K微分体、LKの単拡大L = K (a)の場合を考えて見ましょう。
まだ、a微分が定まっていないため、L微分体ではありません。
非常に強力な微分体の性質として、
 ・a \in LK上で代数的なら、K \subset L微分体の拡大となるように、L微分体の構造が一意に定まる。
 ・a \in LK上で超越的なら、任意の元 b \in Lに対して、\partial (a) = bとなる微分体の拡大K\subset Lとなるように、L微分体の構造が一意に定まる。
というものがあります。
この性質は、微分体の拡大を考えるときに常に頭に置いておくべきものです。

"初等関数で書ける"の直感的な意味

少し話が変わって、不定積分が初等関数で書けるということの意味を考えてみましょう。
初等関数とは高校で勉強する関数のこととします。
具体的には、多項式、有理式、三角関数、指数関数、対数関数が高校で勉強する関数です。
また、これらを四則演算することで表される関数や、初等関数を係数とする代数方程式の解、関数の合成も初等関数と呼ぶことにしましょう。
あと、初等関数の微分も初等関数とします。
よって、\sin^2 ( e^{x^2}) \sqrt{\log(x)-x}などは初等関数です。


すぐに分かることですが、\displaystyle \sin x = \frac{e^{ix}- e^{-ix}}{2i}などを考えれば、
初めの段階で三角関数を初等関数に入れる必要はありません。
つまり、初等関数とは、有理関数体\mathbb{C} (X)から始めて、
(i) 四則演算、(ii)微分 (iii)代数方程式を解く、(iv)指数関数に代入する、(v)対数関数に代入する、(vi)合成をとる、を繰り返し行うことで得られる関数である
と定義することができます。
これが古典的な意味での初等関数です。


さて、初等関数で"不定積分が"書けるという意味を考えましょう。
例えば、"ある不定積分\log(\sin(x) + \sqrt{x})と書ける"とはどういうことでしょうか?
\sqrt{x} \log(x)は実数の範囲では、正の実数で定義される関数だと考えることが多いでしょう。
複素数の関数と考えても、原点が特異点であり多価関数です。
つまり、素朴な意味では関数ではないですし、毎回定義域や分岐を考えるのでしょうか?

F(x)f(x)の原始関数であるとは、単にF^{\prime} (x) = f(x)であることでした。
つまり、積分をするときには、微分がどうなるかしかそもそも考えていません。
つまり、関数であることは問題外だったわけです。
上で挙げた例でも、
 {\displaystyle
 \left\{ \log(\sin(x) + \sqrt{x}) \right\}^{\prime} = \frac{1}{\sin(x) + \sqrt{x}} \left\{ \cos (x) + \frac{1}{2 \sqrt{x}} \right\}
}
と計算できるため、関数としてどうであろうと、 \displaystyle \log(\sin(x) + \sqrt{x})  \displaystyle \frac{1}{\sin(x) + \sqrt{x}} \left\{ \cos (x) + \frac{1}{2 \sqrt{x}} \right\}の原始関数であると分かるわけです。

"初等関数で書ける"ことの微分体による定式化

さて、微分体によって、初等関数で書けることを定式化しましょう。
 K微分体とします。
まず、指数関数への代入と対数関数への代入を考えます。
a \in Kに対して、e^a \in Kであることの意味を考えます。
\displaystyle
(e^a)^{\prime} = e^a a^{\prime}
であることを期待するので、
\displaystyle
\frac{b^{\prime}}{b} = a^{\prime}
となるときに、 b aの指数といい e^{a}と書くことにします。
任意の定数 c \in C_Kに対して、\displaystyle \frac{(c e^{a}))^{\prime }}{ce^{a}} = a^{\prime}
となるので, ce^a aの指数です。
つまり、 e^{a}という表現には定数倍だけ不定性があるのですが、原始関数を求めるという目的の下では問題はありません。
むしろ、これが自然であるとも考えられます。
同様に、
 \displaystyle
b^{\prime} = \frac{a^{\prime}}{a}
となるときに、baの対数といい \log aと書くことにします。
指数の場合と同様の問題点はあります。


前節の(i)-(vi)ふまえて定式化したいのですが、(i)は体であること、(ii)は微分体であること、(iii)は代数的であることで定義できます。
上のことと合わせることで、(i)-(v)については容易に定式化できます。
微分体の拡大K \subset Lが初等拡大であるとは、拡大の列
\displaystyle
K = K_0 \subset K_1 \subset \dots \subset K_N = L
が存在し、 各拡大が単拡大 K_{i+1} = K_i (a_i) ,\, a_i \in K_iでそれぞれ以下のいずれかの場合になっていることをいう:
 (a)  a_iK_i上代数的;
 (b)  a_iK_iの元の指数;
 (c)  a_iK_iの元の対数。
特に、K = \mathbb{C} (X)のとき、ある初等拡大K \subset LLの元を初等関数という。
これで、(i)-(v)については定式化できました。


微分体は関数としては扱っていないので、問題は(vi)の合成をとる操作です。
しかし、実は微分体の意味での初等関数と古典的な意味での初等関数は同じです。
つまり、初等関数と初等関数の合成(に対応する元)は初等関数になっています。
最後にこれを示しましょう。

少しトリッキーな議論をします。
例えば、\displaystyle (e^{g}) \circ f = e^{g\circ f} なので、 gfの合成が定義されていれば、e^gfの合成は定義できます。
このような議論をするために必要な式を列挙すると、
\displaystyle
\begin{align}
(g_1 \pm g_2) \circ f &= (g_1 \circ f) \pm (g_2 \circ f)\\
(g_1 \cdot g_2) \circ f &= (g_1 \circ g_2) \cdot (g_2 \circ f) \\ 
(g_1 / g_2) \circ f &= (g_1 \circ g_2) /(g_2 \circ f) \\ 
g^{\prime} \circ f &= \frac{( g\circ f )^{\prime}}{f^{\prime}}\\
 (e^{g}) \circ f &= e^{g\circ f}\\
 (\log g) \circ f &= \log (g \circ f)\\
 (g_1 \circ g_2) \circ f &= g_1 \circ (g_2 \circ f)
\end{align}
となります。
また、 gが代数的で、 g^n + a_1 g^{n-1} + \dots + a_n = 0となるとき、

(g \circ f) ^n + a_1 (g\circ f) ^{n-1} + \dots + a_n = 0
より、g\circ fも代数的。
つまり、代数的元との合成は代数的な元であることが分かる。
以上の公式を用いると、g\circ fが定義できるかを考えるためには、gをどのような操作で作ったか辿っていき、最初の段階でfとの合成関数が定義できていれば、g\circ fが定義できることが分かりました。
さて、最初は有理関数体から始めたわけですが、有理関数自体も定数\mathbb{C}と不定元Xの四則演算で書けていることに注意しましょう。
よって、初等関数は定数と不定元から(i)-(vi)の操作で作られるわけなので、定数体と不定元がfと合成が定義できていれば全ての議論が終わります。
定数c \in \mathbb{C}に対しては c \circ f = c、不定元に対しては X \circ f = fと通常通りに定義できる(合成が初等関数である)ので、任意の初等関数同士の合成も初等関数であることが分かりました。

まとめ

初等関数で書けることは、初等拡大に入っていることと言い換えることができると分かりました。
微分体とは言え、ガロア理論で方程式を議論するのと近い雰囲気が漂ってきましたね。
残念ながら、微分ガロア群を使わずともLiouvilleの定理は証明できるので、そうします。
実は初等拡大と微分ガロア群は関係するみたいなのですが、僕が完全にはフォローできていません。

今回は結構頑張って書いたので疲れました。
Liouvilleの定理の証明も近いうちに書きますね。

参考文献
A. G. Khovanskii, On solvability and unsolvability of equations in explicit form

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Σの公式の秘密

f:id:tetobourbaki:20161230194843p:plain:w150
今回は、数列の単元のΣの公式について書きます。

Σの公式を覚えていますか

高校生や高校生だったみなさんの中には、k^2k^3などの和の公式、いわゆるΣの公式に悩まされた(いる)人が多いのではないのでしょうか?
具体的には、以下のようなものでした。
  { \displaystyle
\begin{align}
\sum_{k=1}^n k &= \frac{1}{2} n (n + 1) \tag{1}\\
\sum_{k=1}^n k^2 &= \frac{1}{6} n (n + 1)(2n+1) \tag{2}\\
\sum_{k=1}^n k^3 &= \frac{1}{4} n^2 (n + 1)^2 \tag{3}
\end{align}
}

これらの公式の何が難しいって、微妙に規則的ではないところですね。
本質的な公式ではないことが予想されます。
何かもっと美しい和の公式はないのかなぁ(溜息)。

美しき超Σ公式

さっそくですが、以下の公式を見てください。
  { \displaystyle
\begin{align}
\sum_{k=1}^n k &= \frac{1}{2} n (n + 1) \tag{4}\\
\sum_{k=1}^n k(k+1) &= \frac{1}{3} n (n + 1)(n+2) \tag{5}\\
\sum_{k=1}^n k(k+1)(k+2) &= \frac{1}{4} n(n+1)(n+2)(n+3) \tag{6}
\end{align}
}
明らかな規則性があって非常に綺麗です(歓喜)。
この公式の裏には何かが隠れていると想像ができますね。
とりあえず式(4)(5)(6)を"超Σ公式"とでも呼ぶことにしましょう。(適当です。)
この公式は、Σ公式でも証明できますし、数学的帰納法でも証明できます。
また、超Σ公式から、Σ公式を証明することができます。
とは言え、超Σ公式は使いにくいです。
今回の目的は、超Σ公式の裏には何があるかを解明することです。

超Σ公式の解釈

さて、まずは超Σ公式を一般的な形に書いておきましょう。
式(4)は1乗,、式(5)は2乗、式(6)は3乗に対応していますね。
 m乗の超Σ公式は以下のように書けます。
 {\displaystyle
\begin{equation}
\sum_{k=1}^n k(k+1)\cdots (k+m -1) = \frac{1}{m+1} n(n+1)\cdots (n+m) \tag{7}
\end{equation}
}
この一般的な公式(7)を解釈するわけです。
いろいろ考えられそうです。みなさんも考えてみてください。

残念ながら、僕には場合の数による解釈しかできませんでした。
これを説明します。
n個の区別がつくものからm個を選び並べる場合の数を _nP_mとします。
これを用いると、式(7)は
 {\displaystyle
\begin{equation}
\sum_{k=1}^n {}_{k+m-1} P_m = \frac{1}{m+1} {}_{n+m} P_{m+1} \tag{8}
\end{equation}
}
と書けます。
場合の数の公式と見るには、式(8)を変形してみましょう。
 {\displaystyle
\begin{equation}
{}_{n+m} P_{m+1} = (m+1) \sum_{k=1}^n {}_{k+m-1} P_m \tag{9}
\end{equation}
}
この式(9)は右の添字を一つ下げて Pを計算する公式とみることができます。
これに近いことは Cでもありました。

場合の数の公式を思い出す。

以下 n > mとします。
パスカルの三角形から簡単に得られる以下の公式を思い出しましょう。
 {\displaystyle
\begin{equation}
{}_{n+1} C_{m+1} = {}_n C_m + {}_n C_{m+1} \tag{10}
\end{equation}
}
この公式は、場合の数としても解釈できます。
つまり、 n+1個からm+1個を選ぶとき、任意の一つを考えて、
それが含まれる場合は残りn個からm個選ぶ場合の数、それが含まれないときは残りn個からm+1個を選ぶ場合の数、それらを足せば良いという公式です。

同様に考えると、この公式の Pのバージョンは
 {\displaystyle
\begin{equation}
{}_{n+1} P_{m+1} = (m+1) {}_n P_m + {}_n P_{m+1} \tag{11}
\end{equation}
}
となることが分かります。
これを繰り返す使うと、
 {\displaystyle
\begin{align}
{}_{n+1} P_{m+1} &= (m+1) {}_n P_m + {}_n P_{m+1}  \\
&= (m+1) {}_n P_m + (m+1) {}_{n-1} P_{m} + {}_{n-1} P_{m+1} \\
&= \dots \\
&= (m+1) {}_n P_m + (m+1) {}_{n-1} P_{m} + \cdots + (m+1) {}_{m+1} P_{m} + {}_{m+1} P_{m+1} \\
&= (m+1) ( {}_n P_m +  {}_{n-1} P_{m} + \cdots + {}_{m+1} P_{m} + {}_{m} P_{m}) \\
&=(m+1) \sum_{k=1}^{n - m + 1} {}_{k+m-1} P_m\tag{12}
\end{align}
}
となります。
途中で {}_{m+1} P_{m+1} = (m+1) {}_{m} P_{m}を使っていることに注意。


式(12)のn+1n+mに書き換えることで・・・
超Σ公式(9)が導かれます。
お疲れ様でした。


・・・まあ、公式(12)自体は重要ではあるので悪くはないですが、k^mの和公式としてはどうでしょう。
もっといい解釈をご存知な方は是非教えていただけると嬉しいです。

おまけ

式(12)の形では分かりにくいので、例を最後に示しておきます。
 {\displaystyle
\begin{align*}
{}_6 P_2 &= 2({}_5 P_1 + {}_4 P_1 + {}_3 P_1 +{}_2 P_1 + {}_1 P_1) = 30\\
{}_5 P_3 &= 3({}_4 P_2 + {}_3 P_2 + {}_2 P_2) = 60 \\
\end{align*}
}
いかがでしょうか。

 

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「正則関数」という用語を使うの止めたい

「正則関数」の何がおかしいか

複素関数論を勉強して少し経ってから、正則関数という用語がおかしい、もっと言うと誤訳であることに気がつきました。ついでに言うと、有理型関数というのもあまり良くない用語でしょう。これらについて、どこがおかしいかを述べ、改善案を示します。

 まず、前提知識を説明しておきます。一般に「正則関数」は「holomorphic function」の訳であると考えている人が多いです。しかし、こう考えると明らかな誤訳です。「正則関数」は「holomorphic function」の訳ではありません。

 

「正則関数」は「regular analytic function」の訳である

上記の通りです。

このことは高木貞治の『解析概論』に書いてあります。もう少し言うと、regular analytic function つまり「正則な解析関数」が正確な訳ですが、『解析概論』で単に正則関数と呼ぶと書いてあります。僕は、この高木先生の訳を何も考えず使っている人が多いのだと考えています。高木先生は regular analytic function だと考えているので全く問題はないのですが、holomolphic の訳だと考えている人がほとんどなのが問題なのです。ちなみに regular analytic function という用語は、例えば、Weylの『The concept of a Riemann surface』でも用いられています。holomorphic のどこにも「正則」という語がないにも関わらず、「正則関数」と呼ぶのには、そもそもの英語が holomorphic ではなくregular analyticだからなのです。

 それにも関わらず、「正則関数」は holomorphic function であるという説明しかしていない日本語の本ばかりなのは、問題なのではないのでしょうか? 確かに用語が指す対象は同じなのですが、その用語を使う意識は全く違います。

「holomorphic」と「meromorphic」の意味について

 holomorphic はギリシャ語の holos と morphe からなる造語です。 holosは「全体」を表すギリシャ語であり, morpheは「形」を表す言葉です。morphismという語を数学ではよく使うので morphe の方は馴染みがあるでしょう。単に一点でテイラー展開できることを表すなら analytic でいいので, holomorphic function は考えている領域全体テイラー展開できることを強調する用語と解釈できます。

 一方、meromorphic は meros とmorphe からなる造語です。ネットで調べてみると、meros が「比」の意味だと考えておられる方がいましたが、これは「部分」の意味であることは間違いないでしょう(専門用語の辞書によると、生物学などの専門用語で moros を使う場合も「部分」の意味らしい。) 実際、meromorphic function は孤立特異点以外ではテイラー展開できる(さらに、その孤立特異点は極である)ものでした。

「meromorphic」を「有理型」と訳すことがダメな理由

meromorphic を「有理型」と訳すことや、meromorphic の meros が「比」であると解釈することには共通の認識があると考えています。複素平面において、meromorphic function は holomorphic function の商で書けるという性質があります。これが「有理関数」との類推から上で述べたような認識の原因となっているのでしょう。確かに、「有理型関数」を初めからそのような認識で捉えるなら、それほど悪くはないのかもしれません。しかし、この性質はそれほど簡単ではない(基本的ではあるが、教えない授業も多いはず)です。そもそも meromorphic の訳としては全くダメです。

 もっというと、リーマン球面上の有理型関数は複素平面上で有理関数であるという性質もあります。これのせいで、有理関数と有利型関数がごっちゃになるという教育上の欠点があります。おそらく、holomorphic と meromorphic が対比されていることを日本語で気がつくことは不可能でしょう。教育的にも、holomorphicは「全体」、meromorphicは「部分」というように定義からすぐ結びつく用語を採用することが必要でしょう。

私の考える対案

それでは、どのような用語にすればいいかを考えてみます。

 まず、岩波基礎講座では holomorphic は「整型」、meromorphicは「有理型」が使われていますね。「正則関数」よりはずいぶん良い訳です。morpheに対応して、共に「型」の言葉が使われていることも非常に良いです。ただ、「有理型」が他の言葉にできないかとは考えたくなります。

 僕は、用語の作り方、特に、翻訳語については中国語に従えばたいてい問題ないと考えています。中国語では、holomorphic は「全純」、meromorphicは「亜純」という用語を採用しており、上で述べた私の解釈と同じであることが分かります。岩波のようにmorpheの対応はないものの、さすが中国という感がありますね。

 僕の結論としては、「整型関数」を採用し「有理型関数」を他の用語にする、もしくは、中国の訳を使うあたりで良いかなと思います。二つの良いところをとって、「整型関数」と「亜整型関数」でもそんなに悪くないと思います。

 

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