記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

読書していることについて

昔からけっこう本を読むのが好きだったのですが、約10年くらいでやっと「本で読んだ内容が身についている」という実感を安定して持てるようになってきました。*1 というか、そういう読み方がやっとわかってきたという感じです。 そんなわけで、本を読むうえ…

数列の和を計算する方法

突然ですが、なぜ(不定)積分は便利なのでしょうか? それは定積分が計算できるからです。 が の原始関数であるとしましょう。つまり、 としましょう。すると、 の定積分は と計算できるのでした。これは高校では定積分の定義であって役に立つもなにもない…

AならばBの論理は論理的に難しいのか?

「AならばB」という論理は高校数学で学びますが、具体的な内容になると「BならばA」との混同や対偶との同値性が分からないなど、けっこう難しいものです。 今回は、「AならばB」に関する心理学の話題を紹介します。 数学教育に興味がある人にはぜひ読んでほ…

『TIS-100』オリジナルプログラム言語によるパズル

これは以下のアドカレ12/15用の記事です。adventar.org今回は『TIS-100』を紹介します。 このゲームはオリジナルプログラミング言語で問題を解くゲームです。 store.steampowered.com問題例を貼っておきます。 左の数列が上から流れて来るので、ノードで加工…

『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル』備忘録

『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル』はすごくいい本なのですが、久しぶりに読み直すと忘れてしまってる内容が多いです。 分量も多いので、特に読み返したい章をメモっておきます。 「ソフトウェア開発者」をターゲットにした本ではあるもの…

解けるの三様~可積分系を学ぶ際の注意点~

数学において、「~は解ける」「~は解けないと証明されている」などと気軽に言われます。例えば、「三体問題は解けないと証明されている」などです。しかし、「解ける」はいろんな意味で使われることが多く、定義を確認しておかないと、ほぼ情報のない文章…

超幾何方程式の特性指数の差をずらす操作について

ガウスの超幾何方程式が代数解を持つものは、シュワルツによりリスト化されています.ここで、リストの右の付加条件が気になります.実はこの条件は方程式を簡単なものに変換するための条件と関係するのです.つまり,整数の差はおおむね無視することができ…

特異解のある方程式について

常微分方程式の一般解や特異解という用語は、ときどき教科書に説明があったりするものの曖昧なことが多いです。 微分代数的な定義は西岡『微分体の理論』やRitt, "Differential Algebra"などに書かれていますが、この定義は非常に抽象的で意味が分かりづらい…

Picard-Vessiot拡大の存在証明

代数的なガロア理論におけるガロア拡大は,微分ガロア理論ではPicard-Vessiot拡大と呼ばれるものになります.特に拡大で定数体が変わらないことが重要なのですが,その部分の証明で普通の微分ガロア理論の本ではシュバレーの定理を用いることがほとんどです…

有理関数体と付値

一変数代数関数体の理論は非常に有用であるものの,定義や定理のイメージを持つことが難しいと思います.今回は複素係数の有理関数環 の場合に考えることで,それを元に一変数代数関数体で何を議論するのかというのを紹介しようと思います.普通に数学をやっ…

BCH公式をMould解析で証明する

指数関数の公式 がありますが,行列のように が可換でないときにはこの公式は成り立ちません. がどのようになるかを教えてくれるのがBaker–Campbell–Hausdorffの公式(BCH公式)です.(正確には,式を陽に書き下したディンキンの公式を扱います.)証明は…

指数関数の代数的独立性

『微分体の理論』を読んでいたときに,指数関数の代数的独立性が必要になった(と思う)が,証明が分からなかった.たまたま読んでいた本に証明がのっていたので,復習をかねてまとめておく. (定理) 複素数 が 上線形独立とする.つまり,整数の組 に対し…

三体問題を解く(正三角形解と共線解)

前回、二体問題はケプラー問題に帰着されることとケプラー問題は解けることを見ました. tetobourbaki.hatenablog.com三体問題は一般には解けませんが,解ける解として正三角形解と共線解(直線解と言われることが多い)が知られています.下の動画ではこれ…

二体問題を解く話(四元数の応用)

二体問題は解けて三体問題は解けないと言いますが,二体問題の解法の一つを紹介します.これは三体問題に関する次の記事の準備というのが最大のモチベーションです。せっかくなので以下の論文で紹介されている四元数を使った解法を説明します. Jan Vrbik, "…

解ける線形微分方程式の話

微分ガロア理論では初等関数が扱えます.その定義はわりとわかりやすいのですが,さらに微分ガロア理論的にはLiouville拡大の方が重要な関数のクラスを定めています。しかし,その定義は初見では分かりにくいため,その意味を解説します. Liouville拡大 解…

対数関数の超越性

対数関数 は有理関数を係数に持つ多項式の零点にならない.つまり,対数関数は超越関数である.超越関数であることの証明方法はいくつかあると思うが,微分代数の基本的な命題から簡単に証明できることが気がついたので紹介する.どこか議論がおかしければ誰…

一般化戸田方程式について

可積分な方程式のとして重要な戸田格子には様々な一般化があります.戸田格子の背後にある半単純リー代数の構造に着目し,戸田格子に類似する可積分な微分方程式を得る方法を紹介します.この視点に立てば,通常の戸田格子はA_n型の半単純リー代数に対応する…

可約な場合の超幾何方程式の解について

本記事では以下の定理を示す. (定理) とおく. の 1 つが奇数ならば は初等関数とその積分で書ける.これは方程式が可約のとき,方程式が解けることを意味する.特殊な場合として,可約な場合の超幾何方程式も解ける.もっと言えば,超幾何方程式に帰着さ…

なぜ素イデアルを点と見るのか

代数幾何について最近ちょっとしっくりきたのでまとめておきます.タイトルでは素イデアルを挙げていますが,そこに至るまでを詳しく書きます.いろんな説明の仕方があると思いますが,幅広く議論する気はありません.アファインの場合だけを考えますし層の…

単独高階微分方程式の連立一階微分方程式への変形について

単独高階線形微分方程式を一階の連立微分方程式に変形する方法は有名です.一方,逆に連立方程式を単独高階方程式に直せることが知られています.この事実は時々説明されることはあるものの証明が書かれていることはほとんどないです. そこで巡回ベクトルを…

新年の抱負2019

新年あけましておめでとうございます。 今更ですね。 ちょっとごちゃごちゃしてたので、新年の抱負をこのタイミングで書いておきます。 去年の抱負は「趣味を楽しむ余裕を持ちながら、やるべきことをやっていく」でした。けっこう達成できたのではないかと思…

理想的な物理理論としての電磁気学

この記事は以下の一連の記事の最終回ですが,今回の内容が目標だったので,できるだけこれまでの記事を読まなくても理解できるように説明していく. tetobourbaki.hatenablog.com tetobourbaki.hatenablog.com tetobourbaki.hatenablog.com tetobourbaki.hat…

理想的な物理理論としての電磁気学(4)

以下の記事の続きです. tetobourbaki.hatenablog.com一連の記事の目的としては,あとはゲージ変換やゲージ不変性について説明すれば終わりです.参考にしている牟田『電磁気学』では非相対論的な電子の場を使って議論をしているため,これと同じ説明をする…

理想的な物理理論としての電磁気学(3)

ラグランジュ密度を用いて微分方程式を出す方法とその利点をまとめていきます. 以下の記事の続きです. tetobourbaki.hatenablog.com今回はコッティンガム,グリーンウッドの『素粒子標準模型入門』を参考にしています. 連続系のラグランジュ形式 ローレン…

理想的な物理理論としての電磁気学(2)

今回は以下のブログの続きで、相対性理論に関連することをまとめる. tetobourbaki.hatenablog.com ローレンツ変換 テンソル ローレンツ共変性 共変形式のマクスウェル方程式 ローレンツ変換 物理学では,「座標が変わっても法則の形は変わらない」という信…

理想的な物理理論としての電磁気学(1)

物理学の様々な分野を勉強する上で,電磁気学は理論のお手本として提示されることが多い.つまり,成功した理論である電磁気学との類推で新しい理論の方針を決めるという場面が非常に多い.そのため,電磁気学のどこを見て成功している理論と呼んでいるのか…

オイラー・ポアソン方程式とリー・ポアソン構造

(この記事は数理物理 Advent Calendar 2018 - Adventar 4日目の記事です。)固定点を持つ剛体の運動を表す方程式(つまり,コマの方程式)はオイラー・ポアソン方程式と呼ばれ*1,以下のように書ける. 本記事の目標はこの方程式がラックス形式で書けること…

Kovacicのアルゴリズム

Kovacicのアルゴリズムとは,2階の線形微分方程式を解くアルゴリズムです.もちろん,解けない微分方程式もあるのですが,解ける時は解を求め,解けない時は求まらないことを教えてくれます.このアルゴリズムはMapleやMathematicaでも使われています.この…

発散級数とBorel-Laplace総和

この記事では,収束するとは限らない級数に関数を対応させる方法である,ボレル変換とラプラス変換を説明します.例として,ときどき紹介される謎の式 についても説明します.前提知識がある人のために注意しておくと,本記事では原点が特異点の場合を考えて…

フィルターの収束の意味

以前、位相空間におけるフィルターの収束やそれを一般化した収束空間についていくつかの記事を書きました.フィルターの収束は位相空間論で非常に便利な道具ですが,そのイメージが湧きにくいことから,フィルターを使った議論を毛嫌いする人が多いと感じま…