記号の世界ゟ

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「正則関数」という用語を使うの止めたい

「正則関数」の何がおかしいか

複素関数論を勉強して少し経ってから、正則関数という用語がおかしい、もっと言うと誤訳であることに気がつきました。ついでに言うと、有理型関数というのもあまり良くない用語でしょう。これらについて、どこがおかしいかを述べ、改善案を示します。

 まず、前提知識を説明しておきます。一般に「正則関数」は「holomorphic function」の訳であると考えている人が多いです。しかし、こう考えると明らかな誤訳です。「正則関数」は「holomorphic function」の訳ではありません。

 

「正則関数」は「regular analytic function」の訳である

上記の通りです。

このことは高木貞治の『解析概論』に書いてあります。もう少し言うと、regular analytic function つまり「正則な解析関数」が正確な訳ですが、『解析概論』で単に正則関数と呼ぶと書いてあります。僕は、この高木先生の訳を何も考えず使っている人が多いのだと考えています。高木先生は regular analytic function だと考えているので全く問題はないのですが、holomolphic の訳だと考えている人がほとんどなのが問題なのです。ちなみに regular analytic function という用語は、例えば、Weylの『The concept of a Riemann surface』でも用いられています。holomorphic のどこにも「正則」という語がないにも関わらず、「正則関数」と呼ぶのには、そもそもの英語が holomorphic ではなくregular analyticだからなのです。

 それにも関わらず、「正則関数」は holomorphic function であるという説明しかしていない日本語の本ばかりなのは、問題なのではないのでしょうか? 確かに用語が指す対象は同じなのですが、その用語を使う意識は全く違います。

「holomorphic」と「meromorphic」の意味について

 holomorphic はギリシャ語の holos と morphe からなる造語です。 holosは「全体」を表すギリシャ語であり, morpheは「形」を表す言葉です。morphismという語を数学ではよく使うので morphe の方は馴染みがあるでしょう。単に一点でテイラー展開できることを表すなら analytic でいいので, holomorphic function は考えている領域全体テイラー展開できることを強調する用語と解釈できます。

 一方、meromorphic は meros とmorphe からなる造語です。ネットで調べてみると、meros が「比」の意味だと考えておられる方がいましたが、これは「部分」の意味であることは間違いないでしょう(専門用語の辞書によると、生物学などの専門用語で moros を使う場合も「部分」の意味らしい。) 実際、meromorphic function は孤立特異点以外ではテイラー展開できる(さらに、その孤立特異点は極である)ものでした。

「meromorphic」を「有理型」と訳すことがダメな理由

meromorphic を「有理型」と訳すことや、meromorphic の meros が「比」であると解釈することには共通の認識があると考えています。複素平面において、meromorphic function は holomorphic function の商で書けるという性質があります。これが「有理関数」との類推から上で述べたような認識の原因となっているのでしょう。確かに、「有理型関数」を初めからそのような認識で捉えるなら、それほど悪くはないのかもしれません。しかし、この性質はそれほど簡単ではない(基本的ではあるが、教えない授業も多いはず)です。そもそも meromorphic の訳としては全くダメです。

 もっというと、リーマン球面上の有理型関数は複素平面上で有理関数であるという性質もあります。これのせいで、有理関数と有利型関数がごっちゃになるという教育上の欠点があります。おそらく、holomorphic と meromorphic が対比されていることを日本語で気がつくことは不可能でしょう。教育的にも、holomorphicは「全体」、meromorphicは「部分」というように定義からすぐ結びつく用語を採用することが必要でしょう。

私の考える対案

それでは、どのような用語にすればいいかを考えてみます。

 まず、岩波基礎講座では holomorphic は「整型」、meromorphicは「有理型」が使われていますね。「正則関数」よりはずいぶん良い訳です。morpheに対応して、共に「型」の言葉が使われていることも非常に良いです。ただ、「有理型」が他の言葉にできないかとは考えたくなります。

 僕は、用語の作り方、特に、翻訳語については中国語に従えばたいてい問題ないと考えています。中国語では、holomorphic は「全純」、meromorphicは「亜純」という用語を採用しており、上で述べた私の解釈と同じであることが分かります。岩波のようにmorpheの対応はないものの、さすが中国という感がありますね。

 僕の結論としては、「整型関数」を採用し「有理型関数」を他の用語にする、もしくは、中国の訳を使うあたりで良いかなと思います。二つの良いところをとって、「整型関数」と「亜整型関数」でもそんなに悪くないと思います。

 

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