記号の世界ゟ

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【書評】梅村浩『ガロア 偉大なる曖昧さの理論』

今回は、ガロアについて書かれたこの本を紹介します。実は、微分ガロア理論まで紹介したすごい本なのです。

ガロア/偉大なる曖昧さの理論 (双書・大数学者の数学)

ガロア/偉大なる曖昧さの理論 (双書・大数学者の数学)

本の内容


著者の梅村浩先生は、無限次元の微分ガロア理論を作られた方です。ガロアのアイデアがどのように数学者に理解され、発展し、ついには無限次元の微分ガロア理論に至たったのか。その流れを、歴史的な記述と数学的な記述を織り交ぜながら明らかにした本です。


この本は4つの章に分かれています。1章は、当時のフランスの社会や数学者との関わりを交えながら書かれた、ガロアの人生についての解説です。2章では、代数的なガロア理論ガロアのアイデアに沿って説明し、現代的な定式化をしたのち、5次方程式の非可解性や作図不可能生が紹介されています。3章は微分ガロア理論の解説です。線形微分方程式のPicard-Vessiot理論を2階の方程式の例に沿って具体的に説明しています。次に、非線形微分方程式ガロア理論のどこに困難があり、どのようにその困難が乗り越えられたのかという部分が、明らかにされます。4章は数学的な基礎知識の章です。1章から3章では、群や体の基本知識が説明されていないですが、前提知識が無い人でも4章を適宜読むことで読み進められるようになっています。


この本の最大の特徴は、数学者と数学の発展がいきいきと描かれているところでしょう。無限次元微分ガロア理論を研究されている著者自身による微分方程式の解説も必見です。完全に理解するために必要な知識は4章に書かれていますが、初学者が最後まで読むことは難しいと思います。そのぶん、2章から3章にかけて細かいことにこだわることなく解説がされているため、ガロア理論の考え方がテンポ良く分かるようになっています。最初から全部理解するのは大変だと思いますが、どの段階の人でも読むたびに発見がある面白い本なのではないでしょうか。

感想


この本では「5次方程式が解けない」ことを明らかにした後に「5次方程式が解ける」ことがちゃんと説明されています。もちろん矛盾しているわけではなく、「解ける」の意味が違うわけです。5次方程式もモジュラー関数や超楕円関数を用いれば解けます。ガロア理論で「解けない」ことを説明した本は、この点を説明するべきだと思います。


無限次元の微分ガロア理論のもっとも重要な応用は、パンルヴェ方程式の還元不能性でしょう。パンルヴェと論争をしていたR. リュービルがジョセフ・リュービルの息子であるとさらっと書いてありますが、実はこれは気になっていたところなので、本当にそうなのか調べてみたいと思います。

参考文献

微分ガロア理論について多くのページを割いている本であるにもかかわらず、この本には微分ガロア理論の参考文献がほとんど書いてありません。線形微分方程式微分ガロア理論を厳密に解説した日本語の本として
西岡久美子『微分体の理論』
があります。また、厳密かつ簡潔に解説した文章としては、
M. van der Put, Galois Theory of Differential Equations, Algebraic Groups and Lie Algebras, 1999
があります。線形および非線形微分方程式ガロア理論に関しては梅村先生が書かれた
H. Umemura, Invitation to Galois Theory, 2006
があります。雑誌『数学』にある梅村先生の記事も参考になるでしょう。