記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

微分ガロア理論の文献

微分ガロア理論に関する文献をまとめます. 微分ガロアに限らず, それを勉強するために必要な知識や, 関連する分野の文献もまとめます.
著者とタイトルは書きますが, その他のデータ(出版社や年度)まで書くのは大変なので省略することがあります. このブログは少しずつ改良していく予定です.

微分ガロア理論の教科書

・M. van der Put, M. Singer, Galois Theory of Linear Differential Equations.
微分ガロア理論の定番書. 1章でPicard-Vessiot理論の基本的な定理を説明した後, 4章までは代数的な理論, 5章から13章までは解析的な理論を解説している. Picard-Vessitot理論のほとんど全てがこの本にある. 付録では代数幾何や淡中圏についても書いている. 1章のいくつかの重要な結果の証明は, 付録の代数幾何の部分を理解していなければ読むことは厳しい. 証明にこだわらなければ, 1章の定理を認めて気になる章を読んでいけばよい.

・J. F. Ritt, Differential Algebra.
線形微分方程式を扱うPicard-Vessiot理論は, KolchinやRittによる微分代数の理論により正当化されたと言われている. Kolchin-Rittの理論では非線形微分方程式を扱うことができ, 微分ガロア群は線形代数群とは限らず一般には代数群である. 歴史的に重要なので教科書としては挙げたが, 入門段階では読む必要はない. ただし, 梅村先生の無限次元ガロア理論を学ぶときにはこの本の内容も知る必要があるかもしれない.

・I. Kaplansky, An Introduction to Differential Algebra.
古典的な入門書. 昔は簡単な本がこの本しかなかったため, よく参考文献に挙げられているが, たくさんの本が出始めている現在ではそれほどいい本だとは思わない. Kolchin-Rittの理論に従って書かれているものの, 2階の微分方程式に制限して証明したり, 簡単に書こうとする努力があってか, KolchinやRittよりも最近の本に近い書き方である. この本のおかげで以下のMagidのような本が生まれたのだと思う.

・A. Magid, Lectures on Differential Galois Theory.
Kolchin-Rittの理論を経由せずにPicard-Vessiot理論を説明する現代のやり方は, この本で確立されたと思われる. 上のvan der PutとSingerの1章の内容が丁寧に書かれている本である. 通常, 一つの微分方程式を考えるため, 普通ではあまり考えないPicard-Vessiot拡大の列などについても書かれている. 代数的なガロア理論との対比が念頭に置かれているのかもしれない. 最後の章は逆問題を扱っている.

・西岡久美子, 微分体の理論
日本語の唯一の微分ガロア理論の本. Kolchin-Rittの理論に沿って書かれている. 応用の章ではPainleve方程式の既約性を扱っており, そのためにはKolchin-Rittの理論が必要なのである. 洋書と比べても非常に優れた本だと思うが, 最近のPicard-Vessiot理論を扱った本とはずいぶん違うので, 注意も必要.

・T. Crespo, Z. Hajto, Algebraic Groups and Differential Galois Theory.
微分ガロア理論で必要となる代数幾何と代数群の説明が一通り書かれている珍しい本. Picard-Vessiot理論については, 基本的な定理の証明も書かれている. 応用として, 有理関数体  \mathbb{C} (X) 上の微分方程式を取り上げており, 特にKovacicの定理の証明と適用例が書かれている. 代数幾何や代数群について書かれているものの, あまり分かりやすくはない. 特に, 代数群の部分はHumphreysの"Linear Algebraic Geometry"のコピーアンドペーストのページも多い. 微分ガロア理論を勉強とする人は, 代数幾何や代数群の知識がない人が多いと思われるので, そのような人にはいい本だと思う.

・J. Sauloy, Differential Galois theory thorough Riemann-Hilbert Correspondence, 2016.
解析方面から微分ガロア理論を目指す珍しい本. 1部は複素関数論, 2部は複素領域の微分方程式, 3部はリーマン・ヒルベルト対応, 4部は微分ガロア理論という構成. 微分ガロア理論を詳しく解説しているわけではないが, 微分方程式論から微分ガロア理論への流れが自然なので, 初めて微分ガロア理論を勉強する人には最も勧められる本かもしれない.

・J. J. Morales-Ruiz, Differential Galois Theory and Non-integrability of Hamiltonian Systems.
ハミルトン系の非可積分性判定手法であるMorales-Ramis理論の解説を目的とした微分ガロア理論の本. Morales-Ramis 理論が出た当時は, 分かりやすい本がこれしかなかったからか, 微分ガロア理論はこの本しかないと思い込んでいる人がそこそこいる. 微分ガロア理論の説明が詳しいわけではないが,  \mathrm{SL} (2, \mathbb{C} ) の部分群の分類や超幾何方程式に関する木村の定理など, 応用で重要な結果が詳しく書かれている.

・J. F. Pommaret, Partial Differential Equations.
JetバンドルやProlongationを導入し, リー群の微分方程式への応用をホモロジー代数を用いて説明している. 途中でD加群微分代数を導入している. 最後には制御理論と連続体力学に理論を適用している. 微分ガロア理論に限らず, 群論微分方程式論の中でどのような役割を果たすかが分かる.

・G, Duval, Valuations and Differential Galois Groups, 2011.
新しい本. 読んだことがない. ページ数も少なく良さそうな本だが, valuation(付値)の応用がほとんどのページを占めているため, 微分ガロア理論を勉強したい人が読む本ではないかもしれない.

入門的な文献

微分ガロア理論を知りたいなら教科書よりも簡単な文献で全体像をつかむと良い. そのために役立つ文献を挙げる.
・M. van der Put, Galois Theory of Differential Equations, Algebraic Groups and Lie Algebra.
簡潔かつ丁寧にPicard-Vessiot理論を解説している. 例も多く他の文献にない説明もあり, 非常に優れた文献である.

・M. F. Singer, Introduction to the Galois theory of linear differential equations.
前提知識を仮定せず, 最新の研究までを解説している. 上で挙げたvan der Putと比べると, ミスがあったり説明があまり丁寧ではないが, じっくり読む価値はある.

・C. Mitschi, Monodromy in linear differential equations (Divergent, Series, Summability and Resurgence I のPart I).
上で挙げたSingerと同じようなトピックを扱っている. というより, それを丁寧に書き直したものだと思う.

・D. BertrandによるMagid, Lectures on differential Galois theoryのreview, BULLETIN OF THE AMERICAN MATHEMATICAL SOCIETY.
Magid本のレビューであるが, 微分ガロア理論の発展が解説されている.

無限次元ガロア理論

無限次元微分ガロア理論は Malgrange と梅村先生の二つの理論がある. これら二つの理論の能力が等しいことは梅村先生によって示されている. (フランス語の論文でしかも入手方法が分からないので読めない.) それぞれの理論の文献を挙げる.

・B. Malgrange, Pseudogroupes de Lie et théorie de Galois différentielle, 2010
Malgrange による彼の理論の解説. かなり丁寧に書かれているようであるが, 私には読めない.

・B. Malgrange, On nonlinear differential Galois theory, 2002.
Malgrangeの理論の英語の解説. 定義を復習した後, 例や未解決問題を説明している.

・G. Casale, An introduction to Malgrange Pseudogroup, 2000
Painleve方程式や可積分判定へ無限次元ガロア理論を適用している研究者であるCasaleによるMalgrange理論の解説. 何度もチャレンジしているが私は理解できていない.

・H. Umemura, Galois theory of algebraic and differential equations, 1996
無限次元微分ガロア理論の論文パート1.

・H. Umemura, Differential Galois theory of infinite dimension, 1996.
無限次元微分ガロア理論の論文パート2.

Parametrized Picard-Vessiot 理論

最近よく研究されていると思われる微分ガロア理論. ガロア群は微分代数群という代数群の一般化になる. モデル理論からの結果も多い.

・A.Pillay, Differential Galois theory I, 1998.
・A.Pillay, Differential Galois theory II, 1997.
・D. Marker, A.Pillay, Differential Galois theory III, 1997.

・A. Pillay, Finite-dimentional differential algebraic groups and the Picard-Vessiot theory, 2002.

・A. Pillay, Algebraic D-groups and differential Galois theory, 2004.

・A. Pillay, The Picard-Vessiot theory, constrained cohomology, and linear differential algebraic groups
微分ガロア群のコホモロジーについての結果.

物理への応用

もっとも有名な応用はMorales-Ramis理論である. 他にも応用はありそうである.

・M. Audio, Hamiltonian Systems and Their Integrability.
Morales-Ramis理論の解説を目的とした本. シンプレクティック幾何や可積分性についても学べる. 微分ガロア理論は付録で解説している.

・A. J. Maciejewski, M. Przybylska, Differential Galois theory and integrability.
Morales-Ramis理論の応用の研究結果の紹介.

P. B. Acosta-Humanez, J. J. Morales-Ruiz, J-A. Weil, Galoisian approach to integrability of Schrodinger equation.
微分ガロア理論シュレディンガー方程式への応用.

Painleve方程式

Painleve方程式は既約性が長年の問題であり, その問題に対するアプローチとして微分ガロア理論が現れる. 既約の意味が論文によって違うので少し注意が必要.

パンルヴェ方程式の基本的な教科書として以下の二冊を挙げておく.
・岡本和夫, パンルヴェ方程式
・K. Iwasaki, H. Kimora, S. Shimomura, M. Yoshida, From Gauss to Painleve


無限次元微分ガロア理論の準備としても以下の3つの文献は役に立つ.
・梅村 浩, Painleve 方程式の既約性について, 1987.
・梅村 浩, Painleve 方程式と古典関数, 1995.
・梅村 浩, Painleve 方程式の100年, 1999.

・G. Casale, J. A. Weil, Galoisian methods for testing irreducibility of order two nonlinear differential equations, 2015.
無限次元ガロア理論のPanleve方程式の既約性判定への応用. Morales-Ramis-Simoによる非可積分判定のアイデアが使われているようで面白い.

標数・p進数・実数体

微分ガロア理論において定数体が代数閉体であるという仮定や標数0の仮定が重要である. そのため, 定数体を一般化して微分ガロア理論を定式化しようとするのは自然である.

・M. van der Put, Differential equations in characteristic p, 1995.
グロタンディーク予想をモチベーションとして正標数微分体上の微分ガロア理論を考察している. この段階でPicard-Vessiot拡大の一意性まで言えていないようであるが, 淡中圏を用いて様々な結果を得ている.

・T. Creeps, Z. Hajto, E. Sowa, Picard-Vessiot theory for real fields, 2013.
通常のPicard-Vessiot理論は, 係数が代数閉体であることを仮定する. そのため, 実関数の微分方程式でも複素関数のクラスで考える. この論文は実関数のままPicard-Vessiot 理論を展開する方法を与えている. 例えば, 実関数の積分が実関数の初等関数で書けることの判定するなどの応用がある.

・T. Creeps, Z. Hajto, M. van Der Put, Real and p-adic Picard-Vessiot fields, 2016.
淡中圏やガロアコホモロジーを用いてPicard-Vessiot体の一意性を示したもの. p進微分方程式も扱えるようになっている.

・B. Dwork, Lectures on p-adic Differential Equation.
p進微分方程式の教科書.

常微分方程式

微分ガロア理論と複素領域の微分方程式の理論には密接な関係がある.

・坂井秀隆, 常微分方程式
微分方程式の重要な定理を全て書いている. しかも, ほとんどの定理にはきちんと証明もついている. 特に, 力学系への応用にも詳しく, 可積分の定義や関連する重要な結果も紹介している. 微分方程式を勉強するならこの本を持っておくべきだと断言できる. それほどの良書.

・高野恭一, 常微分方程式
複素領域の微分方程式について, 丁寧に解説した本. 定評のある本であり, 初めて勉強するなら非常に良い.

・原岡善重, 複素領域における線形微分方程式
複素領域の微分方程式の本で, 特にフックス型と呼ばれる方程式について詳しい. 高野先生の本を詳しくしたものだと思えば良い. 途中では微分ガロア理論も紹介されている.

代数幾何

微分ガロア理論を勉強する上で代数幾何が必要となるのには二つの理由がある. 一つは微分代数は微分多項式の零点を研究する分野と見ることができ, その意味で代数幾何の一般化であること. Ritt-Kolchinの理論はそのような問題意識があり, Picard-Vessiot理論では代数幾何の定理が必要となることが時々ある. 二つ目は, 微分ガロア群は代数群であり, 代数群を理解するには代数幾何が必須であることである. あと, 梅村先生の微分ガロア理論を理解するには代数幾何は前提である.

・T. Garrett et al. ,Algebraic Geometry - A Problem Solving Approach.
多くの具体例を通して, 代数幾何の基本が学べる本. 微分ガロア群では, グロタンディークの代数幾何のような現代的な代数幾何は必要ない. 微分ガロア理論で使う程度の代数幾何が勉強できる本を知らなかったが, 最近見つけたこの本がベストのようである.

代数群

以下の3つの本は線形代数群の基本的な教科書である.
・J.E. Humphreys, Linear Algebraic Groups.
・A, Borel, Linear Algebraic Groups.
・T. A. Springer, Linear Algebraic Groups.

その他文献

微分ガロア理論やそれに関係する文献を挙げる.

・R. C. Churchill, J. J. Kovacic, Cyclic vectors, 2002.
高階の微分方程式は1階の連立微分方程式に簡単に書き変えることができる. この逆を行うには, cyclic vectorと呼ばれるものを計算する必要がある. この論文はcyclic vector の簡単な計算方法を与えている.

・M. van der Put, Galois theory and algorithms for linear differential equations, 2005.
微分ガロア群の計算方法についてのサーベイ.

・H. Zoladek, Two remarks about Picard-Vessiot extensions and elementary functions, 2000.
Picard-Vessiot理論のガロア対応の証明について書いてある. また初等関数についても書いてある. 分かりやすかった.

・A. Seidenberg, Abstract differential algebra and the analytic case, 1958.
・A. Seidenberg, Abstract differential algebra and the analytic case II, 1969.
 \mathbb{Q}上有限生成微分体は有理形関数体に埋め込まれることを示した論文. パートIIは系の証明の不十分な箇所の補足. Rittの教科書の結果を使うと非常に有用な定理が出ることが分かる.

・G. H. Hardy, The integration of functions of a single variable, 1905.
積分の計算について詳しく書いている. 特に積分の解が初等関数で書ける判定方法について非常に詳しい.

・M. Kamensky, Model theory and the Tannakian Formalism, 2014

・R. C. Churchill, Liouville's theorem on integration in terms of elementary functions, 2002.
積分が初等関数で書けることを判定するLiouvilleの定理の解説. 前半は微分代数の入門としても優れている.