記号の世界ゟ

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Zornの補題を使った代数的閉包の存在証明


おはよー!こんちわー!こんばんわー!おやすみー!おきてええええええええ!!!
ラブルことLoveブルバキです.


2017年はZorn補題の便利さが身に沁みた一年でした.
例えば、超越基底の存在はZorn補題で簡単に証明できました.(スカイプで『微分体の理論』を読むゼミをやっていて,そこで勉強しました.)
一方で,雪江『代数学2 環と体とガロア理論』にも書いてあるように,代数的閉包の存在証明にZorn補題を適用するには注意が必要です.
 Kに対して \Sigma:= \{ L \mid L\text{ は } K\text{ の代数的拡大}\}を考えても  \SigmaZorn補題を適用することは出来ません.
なぜなら \Sigmaは集合ではないからです.(集合にしては大きすぎる.)
ところが,足立恒雄先生の本には,Zorn補題でも代数的閉包の存在が証明できると書いてありました.
Zorn補題による証明は簡潔で好きなので,これをまとめようと思います.


集合論を知ってる方や気にせず読める方は2節からお読みください.

集合論の復習


素朴にZorn補題を使おうとすると,集合論的な問題が現れるのでした.
そこで集合論の基本的なことを復習します.


定義. X, Y を集合とする.単射  f \colon X \to Yが存在するときに |X| \leq |Y| と書く.
定義. X, Y を集合とする.全単射  f \colon X \to Yが存在するときに, XYは濃度が等しいといい |X| = |Y| と書く.
定義. X, Y を集合とする. |X| \leq |Y|であるが  |X| = |Y|ではないとき, |X| < |Y|と書く.
定義.集合Xが無限集合であるとは,Xの部分集合で可算無限集合が存在することをいう.
定義.集合Xの部分集合のなす集合を P(X)と表す.
 X \in P(X)ではありますが,単射 X \to P(X) x \mapsto \{x\}で定まるので, X \subset P(X)と考えても問題はありません.


カントールの定理  |X| < |P(X)|は有名なので証明は省略します.


集合の直和 \sqcupと直積  \timesも使いますが,説明は省略します.


可算無限集合 Yに対しては |Y \times Y| = |Y|が成り立ちます.
いわゆる,自然数有理数の大きさ(濃度)が同じという事実の根拠です.
これの証明は省略します.


また,無限集合  Xとその部分集合 Y \subset Xに対して, |Y| < |X|ならば, |X - Y| = |X|が成り立ちます.
つまり,無限集合から真に濃度が小さいものを引いても濃度は変わりません.
直感的に分かるような分からないような命題ですが,証明は少し難しいので省略です.


以下が成り立ちます.

補助定理.1
 Xを無限集合とする.このとき, |Y| \leq |X|ならば, |X \times Y| = |X|である.

(証明) Y  = Xの場合(一番難しい場合)を示せば,一般の場合はすぐにわかる.
よって,Y = Xとする.


ここで以下のような写像の集まりを考えます.
考える写像 fは,ある部分集合 Z \subset Xが存在して,その直積 Z \times Zを定義域に持ち終域が Zとなるものです.
特に, f: Z \times Z \to Z全単射になるものを考えます.
このような写像の集まりを \Sigmaと書くことにします.


ここで  \Sigmaは空でない帰納的順序集合であることが分かります.
まず, Xが無限集合であることから,可算無限な部分集合 Yが存在します.
可算無限集合の性質から全単射  Y \times Y \to Yが存在します.
よって, \Sigmaは空でないです.
次に, \Sigmaの順序 f \leq gを以下のように決めます.
 f \colon Z \times Z \to Z g \colon W \times W \to Wがあったとき, Z \subset Wであり,
 gの制限が  fに一致する,つまり, g|_{Z\times Z} = fとなるときに, f \leq gと定めます.
すると, \Sigma帰納的集合であることは簡単に分かります.
よって,Zorn補題により,\Sigmaには極大元 m\colon M \times M \to Mが存在します.
ここで, M \subset Xに注意.


最後に, |X| = |M|を示します.
これが分かれば, |X \times X| = |M \times M | = |M| = |X|となり,主張が証明出来ます.
背理法で示します.
 |M| < |X|と仮定します.
すると,上で紹介した事実により,|X - M| = |X|となります.
特に, |M| <  |X - M|となるので, X-Mの部分集合 Z |M| = |Z| となるものが存在します.
直和と直積の性質を使うと,

\quad (M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z) = (M \times M) \sqcup (M \times Z) \sqcup (Z \times M) \sqcup (Z \times Z)
となります.
一方,全単射  m \colon M\times M \to Mが存在し, |M| = |Z|なので,
 
\quad |(M \times Z) \sqcup (Z \times M) \sqcup (Z \times Z)| = |Z|
が分かります.
つまり,上の等式は,

\quad |(M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z)| = |M \sqcup Z|
を意味します.
特に,全単射  n \colon (M \sqcup Z) \times (M \sqcup Z) \to  M \times Z を制限したものが  mとなるように取れることは簡単に分かります.
よって, m < nとなり,これは mの極大性と矛盾します.
つまり, |X| = |M|であることが分かりました. \square

補助定理. 2
集合 Yと集合族  X_{\lambda} (\lambda \in \Lambda)を考える.
このとき,任意の  \lambda \in \Lambdaに対して  |X_{\lambda}| \leq |Y|であれば, |\sqcup_{\lambda \in \Lambda} X_{\lambda} | \leq | \Lambda \times Y|である.

(証明)仮定から任意の  \lambda \in \Lambdaに対して,単射  f_{\lambda} \colon X_{\lambda} \to Y 存在する.
よって,関数  F \colon \sqcup_{\lambda} X_{\lambda} \to \sqcup_{\lambda} YF(\lambda, x) = (\lambda, f_{\lambda} (x))で定めれば, F単射である.
よって, |\sqcup_{\lambda} X_{\lambda}| \leq |\sqcup_{\lambda} Y| = |\Lambda \times Y|が得られた.  \square

代数閉包の存在証明


まず,体論の基本的な結果を復習します.

補助定理. 3
 Kを体, f Kの既約多項式とする.
このとき, K[X]/(f(X))fの根を全て含むKの拡大体であり,K上代数的な元を一つ添加した単拡大である.
(特に代数的拡大である.)

この定理は環論の基本的な結果から導くことができます.


Zorn補題を使うためには以下の補題が重要です.

補題 
Kを無限体, L/Kを代数的拡大とする.
このとき, |L| = |K|が成り立つ.

(証明)まず,K係数のモニックな既約多項式がなす集合を Iとする.
 f \in Iに対して, L_f := \{ a \in L \mid f(a) = 0\}とする.
仮定より, L = \cup_{f \in I} L_fである.
直和の性質から  | \cup_{f \in I} L_f | \leq |\sqcup_{f \in I} L_f| である.
 L_fは有限集合であるから,補助定理1と2により,

\quad  |\sqcup_{f \in I} L_f| \leq |I \times \mathbb{N}| \leq |I|
よって, |L| \leq |I|を得る.


次に,K係数のモニックな多項式n次のもののなす集合を  I_nで表す.
 I = \sqcup_{n \in \mathbb{N}} I_nである.
また,補助定理1により,  |K | = |I_n|である.
よって,補助定理1と2により,

\quad |I| = |\sqcup_{n \in \mathbb{N}} I_n| \leq |\mathbb{N} \times K| \leq |K|
となる.


以上により, |L| \leq |K|を得る.
 |K| \leq |L|は明らかなので,証明が終わった. \square


最後に代数的閉体の存在をZorn補題を用いて証明をしましょう.

定理(シュタイニッツの定理の一部)
無限体 K に対して,その代数的閉包  Lが存在する.

(証明) S = P(K)とおく.
 K \subset Sと考えて良いのであった.


ここで, Kの代数的拡大  E K \subset E \subset Sとなるもののなす集合を \Sigmaと表す.
ここで, Sの部分集合には体の構造が入っていないが,体の構造を入れることが出来るものは体であると考えることにしている.
また,集合として同じ \Sigmaの元でも体の構造が違うものは別のものだと思うことにする.


このとき, \Sigmaは空でない帰納的順序集合である.
まず, K \in\Sigmaなので空ではない.
次に, L_1, L_2 \in \Sigmaに対して, L_2/L_1が体の拡大であるときに, L_1 \leq L_2と定義し順序を定める.
これが帰納的順序であることは簡単に分かる.
よって,Zorn補題により,極大な元 M \in \Sigmaが存在する.


最後に, M Kの代数的閉包であることを示す.
そのためには, M代数的閉体であることを示せば良い.
(ここまでで集合論の準備は一切使っていない.)
 M上既約多項式 fをとる.
補助定理3により, fの根を全て含む代数的拡大体  M' (\supset M)が得られる.
補題により,|M'| = |M|であり,カントールの定理より  |M| < |S|である.
よって, |M'| < |S|となり,単射  \phi \colon M' \to Sが存在する.
特に, \phi (M') \supset Mとなるように取れる.
この像を  M^* := \phi(M')とおく.
全単射 \phi\colon M' \to M^*により  M^*には  M'と同型な体の構造が入る.
 M' Kの代数的拡大なので, K \subset M^* \in Sは代数的拡大であり  M^* \subset \Sigmaである.
 Mの極大性から M = M^*である.
つまり, Mの任意の既約多項式の根は  Mに含まれる.
つまり, M代数的閉体である.

終わりに


Zorn補題のこのような使い方を知っておくと,結構役に立つのではないかと思います.
また,今回使った集合論の結果は,集合論の本では単調に示されていくものなので,成り立つことは分かっても,どの結果から導かれたのか分かりにくいと思います.
しかし,このように応用で使われる場面を知っておくと,印象が残って集合論を勉強するときにも役に立つのではないかと思います.


(参考文献)
足立恒雄『数 体系と歴史』