記号の世界ゟ

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変換群と無限小変換(可積分系入門)

今回は変換群と無限小変換を説明します.
特に,微分の指数 \displaystyle e^{\frac{d}{dx}}が関数の平行移動であることを確認します.これはテイラー展開の意味付けにもなります.

今回の内容は岩波講座 応用数学ソリトンの数理』の1.1節の内容を下敷きにしていることをお断りしておきます.

(この記事は「可積分系入門」の4番目くらいの記事ですが,とりあえずこの記事を公開します.今回の内容と可積分系の関係はこの記事だけでは分からないと思います.この記事は独立に読んでも楽しめるはずです.)

群の公理と変換群


そもそも群の公理がどのように現れたのかを確認しましょう.集合 Xの要素を変換する写像  f\colon X \to Xを考えます.さらに,この写像を集めた集合  Gを考えます.ただし,全ての変換を  Gに入れるのではなく, Gが以下を満たすように写像を集めます.
 (i)  Gには Xの元を動かさない変換  e \in Gがある.つまり, eは全ての  a \in Xに対して  e (a) = aとなる写像である.
 (ii) 変換  f \in Gで動いた元を元どおりに戻す変換  f^{-1} \in Gが存在する.つまり, f^{-1}は全ての  a \in Xに対して  f^{-1} (f (a)) = f ( f^{-1} (a)) = aが成り立つ.
この性質を満たす変換の集合  G Xの変換群と呼ぶことにします.


これだけではあまり意味がありません. Xを忘れて  Gだけを考えていくことにします. Gには写像の合成で積の演算が定まります.つまり, f, g \in Gに対して f \circ g \in Gで演算を定めます.

性質
 (i)  e \in G は全ての  f \in Gに対して, f \circ e = e \circ f = fが成り立つ.
 (ii)  f \in G に対して定まる  f^{-1} \in G f^{-1} \circ f = f \circ f^{-1} = eを満たす.
 (iii)  f,g,h \in Gに対して, (f \circ g) \circ h = f \circ (g \circ h)が成り立つ.

最初の(i), (ii)は上で決めた  Gの性質からすぐに分かります.(iii)は一見要請していないように思えますが,実は変換を考えると自然に成り立つことです.確認しましょう.全ての  a \in Xに対して
 \displaystyle
\quad (f \circ g) \circ h (a) = (f \circ g) (h(a)) = f (g (h(a))) = f ( g \circ h (a)) = f \circ (g \circ h) (a)
が成り立ちます.よって,(iii)が成り立ちます.

逆に,一般に集合  G が与えられたとき,上の (i) - (iii) が成り立つ演算が成り立つものを群と呼びます.

定義
集合  G に対し,演算  a * b \in Gが定まり以下が成り立つものを群と呼ぶ:
 (i) ある元  e \in Gが存在して全ての  f \in Gに対して, f * e = e * f = fが成り立つ.
 (ii)  a \in G に対して,ある a^{-1} \in Gが存在して  a^{-1} * a = a * a^{-1} = eが成り立つ.
 (iii)  a,b,c \in Gに対して, (a * b) * c = a * (b * c)が成り立つ.

一般に考えた群は変換としての意味合いがなくなっていますが,それでも様々な性質が成り立ち重要な数学の対象になります.

変換の集まり(=変換群)をモチベーションとして群を定義しました.逆に,一般の群が与えられたときにこれを変換の集まりと思えるかという問題を考えましょう.ここで群の公理(iii)が意味を持ちます.変換群では必ず(iii)が成り立つので,群を変換の集まりと考えるためには絶対に群の公理(iii)を要請しなければいけないわけです.群を変換だと捉えたものを作用と言います.群自体には変換の意味がないので,少し要請が必要です.

定義
 G Xの作用を定めるとは,任意の  a \in Gに対し写像  a \colon X \to X が定まり以下を満たすことを言う.
 (i) 全ての  x \in Xに対して, e(x) = xが成り立つ
 (ii) 全ての a, b \in G x \in Xに対して,(a*b) (x) = a(b(x))が成り立つ.

 eは群の中では何も変化させないものだと分かっていますが,写像としてもそうあって欲しいので(i)を要請します.(ii)は少し分かりにくいと思います. a bに対して群の演算により新たに  a*bという写像が定まりますが,これは a, bを合成したものと同じであるというのが (ii)の意味です.つまり,群の演算と写像の合成が同じであるということを意味します.


以上をまとめます.変換の集合から変換群という群が定まりました.逆に,群が作用を定めていると,それは変換の集合だと思うことができます.変換の集合から定まる変換群は,その作用を考えると元の集合の変換に戻りますし,逆に,群の作用を考えて変換の集合だと考えてもそれから定義される変換群を考えれば元の群に戻ります.このように,群の公理は,変換の集合の概念と対応づくように代数を定義したものだと考えることができます.

1パラメータ変換群

 Xに作用する群の元がパラメータ付けされているものを考えましょう.実数  s \in \mathbb{R}に対して群の元  T(s) \in Gが定まるとします.実数は和により加群なので,この群の構造と  Gの群の構造に"良い関係"が成り立ってるとします.つまり以下を仮定します.
 \displaystyle
\quad T(0) = e,

\quad T(s+t) = T(s)T(t)
が成り立つとします.このような群を 1パラメータ群と呼びます(もっと厳密な定義が必要なところですが省略します).すると, e = T(s - s) = T(s)T(-s)が成り立つので, T(-s) = T(s)^{-1}が分かります.x \in Xを変換したものが  T(s)xです.実数は連続的に動かすことができるので, s \in \mathbb{R}を動かすと, T(s)xが滑らかに変わっていくのが 1パラメータ変換群のイメージです.

無限小変換

(この節は特に雑な議論をします.厳密にはLie群論の議論が必要です.)
空間 X(厳密には多様体)に作用する 1パラメータ群  Gを考えます. T(s)x微分すると,線形写像  Aを用いて
\displaystyle
\quad \frac{d}{ds}T(s) x = Ax
の用に書けたとします.これは線形の微分方程式なので簡単に解くことができて, T(s)x = e^{As}xとなることが分かります.ここで
 \displaystyle
\quad e^{As} = \sum_{n=0}^{\infty} A^{n} \frac{s^n}{n !}
です.よって, T(s) = e^{As}が分かります.式
\displaystyle
\quad \frac{d}{ds}T(s) x = Ax
1パラメータ変換  T(s)に対する無限小変換といい,Aを無限小変換の生成作用素といいます.以上のことから生成作用素  Aが分かれば,1パラメータ変換 T(s) e^{As}であることが分かります.以下では具体例を通して,この考え方の面白さを見ていきましょう.

回転

具体例を見ていきましょう.空間は2次元ベクトル空間  \mathrm{R}^21パラメータ群は回転
\displaystyle
\quad \theta \mapsto 
\left(
\begin{matrix}
\cos \theta & - \sin \theta \\
\sin \theta & \cos \theta
\end{matrix}
\right)
を考えます. \mathrm{R}^2への作用はもちろん
\displaystyle
\quad 
\left(
\begin{matrix}
x \\
y 
\end{matrix}
\right)
\mapsto
\left(
\begin{matrix}
x(\theta) \\
y(\theta) 
\end{matrix}
\right) =
\left(
\begin{matrix}
\cos \theta & - \sin \theta \\
\sin \theta & \cos \theta
\end{matrix}
\right)
\left(
\begin{matrix}
x \\
y 
\end{matrix}
\right)
です.微分をすれば,
\displaystyle
\quad \frac{d}{d \theta} 
\left(
\begin{matrix}
x(\theta) \\
y(\theta) 
\end{matrix}
\right) =
\left(
\begin{matrix}
0 & - 1 \\
1 & 0
\end{matrix}
\right)
\left(
\begin{matrix}
x (\theta) \\
y (\theta)
\end{matrix}
\right)
なので,無限小変換は
 \displaystyle
A =
\left(
\begin{matrix}
0 & - 1 \\
1 & 0
\end{matrix}
\right)
であることがわかります.実際,
 \displaystyle
\left(
\begin{matrix}
\cos \theta & - \sin \theta \\
\sin \theta & \cos \theta
\end{matrix}
\right)
= e^{
\left(
\begin{matrix}
0 & - 1 \\
1 & 0
\end{matrix}
\right)
\theta
}
= 
\left(
\begin{matrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{matrix}
\right)+ 
\left(
\begin{matrix}
0 & - 1 \\
1 & 0
\end{matrix}
\right) 
\theta + 
\left(
\begin{matrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{matrix}
\right) 
\frac{\theta^2}{2 ! } + \dots
が成り立つことが分かります.

関数の平行移動

最後に関数の平行移動について考えます.まず,空間の  (a,b)方向の平行移動が
\displaystyle
\quad 
\left(
\begin{matrix}
x  \\
y 
\end{matrix}
\right)
\mapsto
\left(
\begin{matrix}
x (s) \\
y (s)
\end{matrix}
\right)
 = 
\left(
\begin{matrix}
x + as \\
y + bs
\end{matrix}
\right)
と定まります.この変換を使えば,関数の変換
 \displaystyle
\quad f(x,y) \mapsto f(s) (x,y) = f(x(s),y(s)) = f(x+as, y + bs)
と定めることができます.これを微分して見ましょう.
 \displaystyle
\quad \frac{d}{d s} f (s) (x,y) =\frac{d}{ds} f(x+as, y + bs)\\

\qquad \qquad \quad = \frac{\partial f}{ \partial x} (x + as, y +bs) a + \frac{\partial f}{ \partial y} (x + as, y +bs) b  \\

\qquad \qquad \quad = a \frac{\partial }{ \partial x} f (x + as, y +bs) + b \frac{\partial }{ \partial y} f (x + as, y +bs)  \\

\qquad \qquad \quad = \left( a \frac{\partial }{ \partial x} + b \frac{\partial }{ \partial y} \right) f(s) (x , y)
よって,無限小変換が
 \displaystyle
 \quad A =  a \frac{\partial }{ \partial x} + b \frac{\partial }{ \partial y}
であることが分かる.よって,この平行移動の  1パラメータ変換群は

\quad e^{ s\left( a \frac{\partial }{ \partial x} + b \frac{\partial }{ \partial y} \right)}
となることが分かります.これの意味が少し分かりずらいかもしれませんが,式
 \displaystyle
\quad f(x + as, y + b s) = f(s) (x,y) = e^{ s \left( a \frac{\partial }{ \partial x} + b \frac{\partial }{ \partial y} \right)} f(x,y)
を考えて見てください.特に, s = 1とした時の式,
 \displaystyle
\quad f(x + a, y + b ) = f(1) (x,y) = e^{ a \frac{\partial }{ \partial x} + b \frac{\partial }{ \partial y} } f(x,y)
の右辺を指数  e^{At}の定義にしたがって計算すれば,これは, f(x+a, y + b) (x,y)を中心にテイラー展開したものであることが分かります。

まとめ

 1パラメータ変換群とその無限小変換を定義しました。平行移動はこれ自体で重要な式なので,自分で計算して納得しておいてください.