今回は以下のブログの続きで、相対性理論に関連することをまとめる.
tetobourbaki.hatenablog.com
ローレンツ変換
物理学では,「座標が変わっても法則の形は変わらない」という信念がある.例えば,ニュートンの運動方程式は座標変換で方程式の形が大きく変わってしまうが、ラグランジュ力学系におけるオイラー・ラグランジュ方程式やハミルトン力学系におけるハミルトン系は(適切な)変数変換で方程式の形が全く変わらない.
そこで,マクスウェル方程式の形が変わらないように適切な変数変換を考えるという問題意識が自然に現れる.もしそのような変換がなければ,マクスウェル方程式は基礎におく方程式と適切でない.ただし,座標の変換だけでなく,などの物理量を表す変数も適切に変換する必要があるという話になっていく.
ここでは,ローレンツ条件の下でのマクスウェル方程式から始めることにする.
ここで現れた特徴的な作用素を
と定義しておこう.これはダランベルシアンと呼ばれる.まず簡単のため,電荷と電流がない真空の状況を考える.この時,マクスウェル方程式は
となる.空間だけの変換ではうまくいかないことが分かるので最初から,時間も合わせた4次元の変換 で方程式が
のように形が全く変化しないための条件を考える.ここで, は変換後の物理量であるが,うまくいくように後で決めることになる.
一般に考えるのは難しいので,まずは, 方向に速度 で動く物体から見た座標 を考える.仮定として,変換が線型で に関しては恒等変換になるという条件を課せば,考える変換は
となる. は求めるパラメータである.マクスウェル方程式が不変になるように, となるための条件を考える.
となるので計算すると
だから,とおくと,
が分かる.ここで導入した はまさに光速を表すことになる. を仮定すれば,等速運動から見た座標への変換は
であることが分かった.
テンソル
マクスウェル方程式に問題を戻ると,実はまだ問題は解決していない.なぜなら,この変換でゲージ条件が変わってしまうからである.このことに踏み込む前に,数学的な準備をしておく.
まず,空間と時間をまとめて4次元のベクトルとして扱った方が良さそうなので, と表すことにする.ギリシャ文字は0から3を動くとし,ローマ字は1から3まで動くとする. はベクトルと 成分のどちらも表すことがあるので注意せよ.偏微分は
と表すことにする.下添字と上添字は区別していくので注意せよ.すると,ダランベルシアンは
となるが,計量テンソル を
と定め,その逆行列で を定義すれば,
と書くことができる.今の場合, と は成分が同じであるため違いが分からないように見えるが,上添字と下添字を区別していく.
ここからアインシュタインの規約を使っていく.つまり,下添字と上添字で同じ記号が現れた場合には(たびたび,上下が同じでも),それらに関する和をとることにする.例えば,ダランベルシアンは
と書くことができる.さらに,3次反対称テンソル を が の偶置換のとき 1, が の奇置換のとき-1,それ以外のとき 0,と定めると のローテーションの 成分は
と書くことができる.ここでアルファベット は 1から 3までを動くように和を取っていることに注意せよ.
さてローレンツ変換に戻ろう.ローレンツ変換がダランベルシアンを変化させないものであったが,一般に変数変換
と変換されるとき,ダランベルシアンは
となるので,ダランベルシアンが変わらないための条件は
となる.実際,ローレンツ変換はこれを満たす.逆にこのような変換を一般のローレンツ変換と呼ぶことにする.
(注意.一般には二次形式 を不変にするものをローレンツ変換というが,今回はダランベルシアンの不変性で定義したのでこのようになった.今は と に違いはないためうまくいくが, 2次形式の不変性で定義した方が良い.)
さて,これからが大事である.座標 と同じように変換されるものを反変ベクトルといい,反変テンソルに をかけたものを共変ベクトルという.
変数変換が
となっているとき, が反変ベクトルであるとは
が成り立つことを言う.また,
を の共変ベクトルという.
一般に, が 階の反変ベクトルであるとは変数変換で
が成り立つことを言う.
ここで, と定義する.ローレンツ変換の条件式を用いれば,
となる.つまり, は反変ベクトルである.また, となることが分かるので は共変ベクトルである.
ちょっと長かったが,以上の準備から以下の性質を得る.
これはローレンツ変換の定義から明らかである.実際,
となる.
ローレンツ共変性
マクスウェル方程式の問題に戻ろう.今の所,
ローレンツ条件
の下でマクスウェル方程式は
と書けることが分かっていた.ダランベルシアンはローレンツ変換で となり不変であったから,マクスウェル方程式は変更する必要がない.しかし,ローレンツ条件は形が変わってしまう.どのように変化するかを計算しても答えは分かるがもっと簡単な方法がある.ローレンツ条件は
である.これまでの記号を用いてこの方程式を簡単に書くには,まず,
となるので, とおけば,
と書ける.そこで とおけば
と書ける.ここで, が反変ベクトルであれば,つまり, が共変ベクトルであればローレンツ変換で式は形を変えない.つまり,
となる.よって, はローレンツ変換で共変ベクトルとして変化するように定めれば良い.それは, がローレンツ変換で反変ベクトルとして変化することと同じである.
ダランベルシアンや偏微分はローレンツ変換でどのように変わるかは決まってしまうが,物理量は自分で決めるものである.普通,座標を変えても物理量は変わらないものとして扱うかもしれないが,うまく物理量の変化を自分で決めることで法則が簡単になるようにしているのである.これは,等加速度運動している座標系においては力が変化して慣性力がかかっていると考えることで,そこを静止座標系とみて議論ができるようになるのと同じ発想である.
最後に電荷 と電流 の変化も定めよう.今まで行っていなかったが,これらは自由に取っていいわけではなく,電荷の保存則
を満たしている必要がある.この式は
と書けるので, と定めて, とすれば,電荷の保存則は
と書ける.よって, が共変ベクトルであれば,ローレンツ変換で保存則は不変である.
以上をまとめると,マクスウェル方程式がローレンツ変換で不変であることが分かる.
ローレンツ条件 を満たすポテンシャル と
電荷の保存則 を満たす電荷と電流 が共変ベクトルで
マクスウェル方程式
を満たすとする.
このとき,ローレンツ変換でローレンツ条件,電荷の保存則,マクスウェル方程式は満たされる.
これまでの流れを整理しておく.まず,ダランベルシアンが変化しないものとしてローレンツ変換を定めた.次に,ローレンツ変換で法則の形が変わらないように物理量 と の変換を定めた.おまけとしてマクスウェル方程式が という簡単な式で表されていることにも注意しよう.
ちなみに,ここで導入した文字を用いれば,ゲージ変換
は
と書ける.
共変形式のマクスウェル方程式
ポテンシャルのマクスウェル方程式はゲージを固定したときの書き方なので,ゲージによらない,つまり, の方程式をきれいな形で書くことを考えよう.そのために, を一つの量で表せないか考える.
まず,ポテンシャルの定義より,
であった.最初の式を書き直すと,
であるが,計算すると,
となることが分かる.次に 2番目の指揮により,
と書ける.よって,
とおけば,
と書くことができる. は 2つの反変ベクトルで定義されているので 2階の反変テンソルである.行列で書けば,
となる.
悲しいことに,非常に面倒になってきた.計算を省略するが,マクスウェル方程式のうち右辺が 0でない
は
と書くことができる.
また,マクスウェル方程式の残りの式
は
と書けることが分かる.
以上をまとめると以下のようになる.
ちなみに,ポテンシャルを用いたときは定義から
が自動的に成り立つので,ポテンシャルを用いて 2階反変テンソル
を定義した場合には
は自動的に成り立つ.