以下の記事の続きです.
tetobourbaki.hatenablog.com
一連の記事の目的としては,あとはゲージ変換やゲージ不変性について説明すれば終わりです.参考にしている牟田『電磁気学』では非相対論的な電子の場を使って議論をしているため,これと同じ説明をすると流れが悪くなってしまいます.そこで,この記事ではDirac方程式を説明することにします.ただし, となる単位系をとることにします.
Dirac方程式
再度注意するが, となる単位系を取って議論する.よって, となっている.Dirac方程式を一から説明するのは大変なので,大きく端折る.シュレディンガー方程式を特殊相対性理論と整合性があるように変形した以下のものが自由空間におけるDirac方程式である.
ここで,いくつも注意することがある.まず, は の行列である.なので, は 4成分のベクトルであり,Dirac方程式は 4連立の方程式になっている.次に, は以下の性質を満たす行列である.
ここで,単位行列を で表している.ここで,パウリ行列
を用いて,
とおけば,満たすべき性質を満たしている. は他の取り方をとっても良い.
Dirac方程式に をかけて, とおけば,
と書くことができる.次に,Dirac方程式をラグランジアン密度の場の方程式として書くことを考える.以前は実数の変数を考えていたが, は複素値なので,実部と虚部を独立の変数と考えて変分法を使うことができる.*1しかし,それはちょっと面倒である.実は の実部と虚部の代わりに, と複素共役 を独立の変数と考えて変分法を使っても良いことが知られている.そこで, とおき,ラグランジアン密度を
とおけば,( か を変数としてオイラー・ラグランジュ方程式を計算すれば,)このラグランジアン密度からDirac方程式が得られる.
Dirac方程式のローレンツ変換
ゲージ変換とは関係がないが,相対性理論との繋がりを知るために,ローレンツ変換との関係も述べておく.この節は飛ばしても次に進むことができる.計算を進めるために,上で述べたのと異なる行列 を取ろう.以下のような表示をカイラル表示という.
このとき,
とおけば,Dirac方程式は
つまり,Dirac方程式は 2連立方程式
で書ける.よって,
とおけば,Dirac方程式は
と書ける.
時空間 が以下のようにローレンツ変換しているとする.
このとき,
に注意する.場 が
と変化すると仮定すると,ラグランジアンがローレンツ変換で不変とすれば,
となるから,
となっている必要がある.任意のローレンツ変換に対して,上のような行列 が存在することが知られている.つまり,ラグランジアンが不変になるためには,場 が
と変換する必要があることがわかった.
電磁気の場合と同じように,ローレンツ不変になるように物理量の変換を自分で決めるという仕組みになっている.