記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

三体問題を解く(正三角形解と共線解)

前回、二体問題はケプラー問題に帰着されることとケプラー問題は解けることを見ました.
tetobourbaki.hatenablog.com

三体問題は一般には解けませんが,解ける解として正三角形解と共線解(直線解と言われることが多い)が知られています.下の動画ではこれら以外の周期解も紹介されてます.

今回は正三角形解と共線解は自然な考察で求められることを説明します.
途中の議論は以下の本を参考にしています.

David Hestens, New Foundations for Classical Mechanics

三体問題

さっそく三体問題微分方程式を与えます.簡単のため重力定数 g=1 とします.( g は質量との積で現れるので,質量を変えれば, g1 の場合と同じになる.)

\displaystyle \qquad  \ddot{q}_1 = - m_2 \frac{q_1 - q_2}{|q_1 - q_2|^3}- m_3 \frac{q_1 - q_3}{|q_1 - q_3|^3} \\
\displaystyle \qquad  \ddot{q}_2 = - m_1 \frac{q_2 - q_1}{|q_2 - q_1|^3}- m_3 \frac{q_2 - q_3}{|q_1 - q_3|^3} \\
\displaystyle \qquad  \ddot{q}_3 = - m_1 \frac{q_3 - q_1}{|q_3 - q_1|^3}- m_2 \frac{q_3 - q_2}{|q_3 - q_2|^3}
ここで,重心は原点と一致していると仮定しても一般性を失いません.

\displaystyle \qquad m_1 q_1 + m_2 q_2 + m_3 q_3 = 0
ここで,重要な変数として相対位置ベクトルを導入します.

\displaystyle \qquad s_1 = q_3 - q_2 \\
\displaystyle \qquad s_2 = q_1 - q_3 \\
\displaystyle \qquad s_3 = q_2 - q_1 \\
これらに対しては明らかに

\displaystyle \qquad s_1 + s_2 + s_3 = 0
が成り立ちます.重心が原点にあることを用いれば,元の位置が相対位置ベクトルから求めることができます.

\displaystyle \qquad m q_1 = m_3 s_2 - m_2 s_3 \\
\displaystyle \qquad m q_2 = m_1 s_3 - m_3 s_1 \\
\displaystyle \qquad m q_3 = m_2 s_1 - m_1 s_2
ここで, m = m_1 + m_2 + m_3 とおいています.よって,相対位置ベクトルの運動が分かれば解が分かることになります.計算してみると,相対位置ベクトルの運動方程式は以下のようになることが分かります.
 
\displaystyle \qquad m \ddot{s_1} = - m \frac{s_1}{|s_1|^3} + m_1 g(s_1, s_2, s_3) \\
\displaystyle \qquad m \ddot{s_2} = - m \frac{s_2}{|s_2|^3} + m_2 g(s_1, s_2, s_3) \\
\displaystyle \qquad m \ddot{s_3} = - m \frac{s_3}{|s_3|^3} + m_3 g(s_1, s_2, s_3) \\
ここで,

\displaystyle \qquad g(s_1, s_2, s_3) = \frac{s_1}{|s_1|^3} + \frac{s_2}{|s_2|^3} + \frac{s_3}{|s_3|^3}
はベクトルです.

元の方程式とは少し違う方程式になりました.よく見ると, g(s_1, s_2, s_3) = 0 の場合, s_1, s_2, s_3 の方程式はそれぞれ
 
\displaystyle \qquad  \ddot{s} = - \frac{s}{|s|^3}
という形の方程式になっています.これは前回紹介したケプラー問題の方程式です.つまり,  s_1, s_2, s_3ケプラー問題の解で常に  g(s_1, s_2, s_3) = 0 を満たしているならば,三体問題の解になっているということです.ケプラー問題は解けるので,このように見つかった解は初等関数で書くことができます.

よって,  g(s_1, s_2, s_3) = 0 を満たすケプラー問題の解を探すという問題に帰着されます.

ラグランジュの正三角形解

問題は  g(s_1, s_2, s_3) = 0 を満たすようにすることでした. g(s_1, s_2, s_3) の定義を見てみると,まずは  |s_1|^2 = |s_2|^2 = |s_3|^2 となるようなものを考えたくなります.もしそうだとすると,相対位置ベクトルは定義から  s_1 + s_2 + s_3 = 0 だったので,自然と  g(s_1, s_2, s_3) = 0 となります.

ここからは平面の運動を考えることとして, 2 次元空間を複素数平面で表示することにします.
条件  |s_1|^2 = |s_2|^2 = |s_3|^2] を満たすのは正三角形だけであり, s_1 +s_2 + s_3 = 0 より  s_1, s_2 s_3 を用いて

\displaystyle \qquad s_1 = e^{ i 2 \pi/3} s_3 = - \frac{1}{2} ( 1 - i \sqrt{3} ) s_3 \\
\displaystyle \qquad s_2 = e^{- i 2 \pi/3} s_3 = \frac{1}{2} ( 1 + i \sqrt{3} ) s_3
と書けます.( s_1 s_2 を逆にとったものでもよい.)よって, s_3 の初期条件に対して
 
\displaystyle \qquad  \ddot{s_3} = - \frac{s_3}{|s_3|^3}
を解いて,これから  s_1, s_2 を求めれば,常に正三角形の位置関係を保ちながら運動する解が得られます.これがラグランジュの正三角形解です.

少し違う話ですが,円制限三体問題では 5 つのラグランジュ点があります.そのうち安定な二つのラグランジュ点はラグランジュの正三角形解の極限( m_1 \to 0)として得られたものと考えることができます.

オイラーの共線解解

次に, q_1, q_2, q_3 が一つの直線上に常に乗っていると仮定しましょう. q_1 q_3 の間に  q_2 があるとします.実数  \lambda を用いて,s_1 = \lambda s_3 と表すと, s_1 + s_2 + s_3 = 0 より, s_2 = -(1 + \lambda) s_3 となります.(相対位置ベクトルで書くと何をやってるのか分かりにくいので,q_1, q_2, q_3 が直線上に乗っている絵を書くと分かりやすいです.)すると, g(s_1, s_2, s_3)0 とはならないものの

\displaystyle \qquad m \ddot{s_3} = - m \frac{s_3}{|s_3|^3} + m_3 g(s_1, s_2, s_3)\\
\displaystyle \qquad \qquad = - m \frac{s_3}{|s_3|^3} + m_3 \text{(定数)} \frac{s_3}{|s_3|^3}\\
\displaystyle \qquad \qquad =- \left[\left(m_1 - m_3 \lambda^{-2} \right) + \left( m_2 + m_3 (1+\lambda)^{-2} \right) \right] \frac{s_3}{|s_3|^3}  \\
となるので, s_3 に関してはケプラー問題になります.ただし,この段階では  s_1, s_2微分方程式を満たすかどうかが分かりません. s_1, s_2 の方程式から s_3 の方程式を使って, g(s_1, s_2, s_3) を消去すると,

\displaystyle \qquad \ddot{s_1} + m \frac{s_1}{|s_1|^3} = \frac{m_1}{m_3} \left(\ddot{s_3} + m \frac{s_3}{|s_3|^3} \right) \\
\displaystyle \qquad \ddot{s_2} + m \frac{s_2}{|s_2|^3} = \frac{m_2}{m_3} \left(\ddot{s_3} + m \frac{s_3}{|s_3|^3} \right)
となる.これも満たされれば,s_1, s_2, s_3 は三体問題の解になっていることになる.s_1 = \lambda s_3, s_2 = -(1 + \lambda) s_3 を仮定していたので,これらを代入すると,

\displaystyle \qquad (m_1 - m_3 \lambda) \ddot{s_3} = - (m_1 - m_3 \lambda^{-2} )  \frac{m s_3}{|s_3|^3} \\
\displaystyle \qquad (m_2 + m_3(1+ \lambda) ) \ddot{s_3} = - (m_1 + m_3 (1+\lambda)^{-2} )  \frac{m s_3}{|s_3|^3}
となる.1番目の式で2番目の式を割ると  s_3 を消すことができて,

\displaystyle \qquad  \frac{m_2 + m_3(1+ \lambda)}{m_1 - m_3 \lambda} = \frac{m_2 + m_3 (1+\lambda)^{-2} }{m_1 - m_3 \lambda^{-2}}
でなければならない.これを頑張って計算すると,

\displaystyle \qquad \left( m_{1}+m_{2} \right) {\lambda}^{5}+ \left( 3\,m_{1}+2\,m_{2}
 \right) {\lambda}^{4}+ \left( 3\,m_{1}+m_{2} \right) {\lambda}^{3} \\
  \displaystyle \qquad \qquad -\left( m_{2}+3\,m_{3} \right) {\lambda}^{2}- \left( 2\,m_{2} + 3\,m_{3} \right) \lambda-(m_{2} +m_{3})
 = 0

となる. 5 次方程式なので解が存在するが,さらにデカルトの符号法則より,解  \lambda^* がただ一つであることも分かる.しかも方程式の定数項が負なので,この  \lambda^* は正であることも分かる.

デカルトの符号法則を初めて使ったが非常に便利ですね。)

ここまでで必要性しか示していない(はずである).逆に,この \lambda^* を取って,s_3 に関するケプラー問題を解けば,s_1 = \lambda^* s_3 s_2 = -(1+\lambda^*) s_3微分方程式を満たすことがわかる.(議論のギャップを埋めよ.)

今回は  q_2 が間にあるケースを考えたが,そうでない残りの2つの場合を考えることで合計3つの共線解の配置が得られました.(ただ,q_2 が間にあるという仮定をどこで使っているのかよくわかっていない.)おそらくこの3つの直線解は円制限三体問題における不安定なラグランジュ点に対応しているのだと思います.