常微分方程式の一般解や特異解という用語は、ときどき教科書に説明があったりするものの曖昧なことが多いです。
微分代数的な定義は西岡『微分体の理論』やRitt, "Differential Algebra"などに書かれていますが、この定義は非常に抽象的で意味が分かりづらいです。Rittを読んで、何がやりたいか少し分かってきましたが、詳細を書くのは大変なので、今回は簡単な例を通して発想を初等的に説明します。
を考えます。
(誤った解法)
まず、
として、
とすれば、積分できることが分かる。
となるので、計算して定数を置きなおすと、
となる。
この解法はいろいろダメですが、一番の問題なのは 以外の解 を見落としています。原因は かもしれないのに両辺を で割ったところです。とは言え、最初に微分方程式の授業で求積法を習ったばかりだと、こういった計算をしてしまってもおかしくありません。定数に依存しない特別な解 が出てきた原因は、一階微分 に関して1次じゃないからです。このような微分方程式を非正規微分方程式というのでした。よく考えてみると、方程式を微分していけばいつか正規方程式の形にすることができます。そうやって解いてみましょう。
(解答)
与えられた方程式
を微分すると、
つまり、
となる。よって、解は か を満たしている。
〇のとき
解は と書けるが、方程式に代入すると が分かる。よって、解 を得る。
〇のとき
解は と書けるが、方程式に代入すると、
つまり、
となる。よって、 となり、定数を置き換えて を得る。
この解法の勝因は、微分することで正規方程式に帰着できたことです。これらの解しかないこともはっきりしてます。
最後に、この解法の背景を説明します。結局、解は と二つの"図形"に分けることができました。これは、方程式 が定める"解空間"が既約ではないことを表しています。方程式を微分することで と解空間を分離することができました(まさに比喩じゃない因数分解)。Rittの本の定義では、このような分解をしたときに、ある一つの集合が「一般解」と呼ばれるものであり、特別な性質を満たす解を「特異解」と呼びます。一般解ではないものは特異解になりますが、一般解に特異解が含まれることもあります。今回では、 が一般解を定めており、 という特異解は一般解に含まれず という部分に含まれます。ざっくりした説明は以上ですが、厳密にやるには「分解とはどういう意味か」、「一般解や特異解の厳密な定義はなんなのか」を考えることになります。「分解とは何か」に関してのヒントをいうと、代数幾何の既約分解を「微分代数的に」やるだけです。
(おまけ)
を考えてみます。解は と があります。Rittの定義によると、両方とも一般解であり、 は特異解となります。すこし不思議な気がしますね。微分方程式を微分すると となるので、二つの空間に分離できたように見えますが、 と の四則演算と微分から が作れます。これは、もともと既約な一つの空間だったことを意味します。ここから、解はすべて一般解であることになります。実際、 を すると に近づくので、 が一般解なのはむしろ正しい気がします。このように、特異解が一般解に含まれるような状況もRittの定義ではうまく扱えるのです。