記号の世界ゟ

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17才からの微分方程式【0-0】数の方程式と関数の方程式

高校生でも分かる微分方程式の説明をしていきます。数IIと数B(特に微分と数列)を前提としますが、大事なことは復習します。また、数IIIや大学の初年度に学ぶこともついでに勉強できるように書いていきます。

高校2年生までに扱ってき方程式は解は実数や複素数など数でした。このような方程式を数の方程式と呼ぶことにしましょう。それに対して、微分方程式は解が関数になっています。

微分方程式を研究する主な理由は以下の二つです。
・物理や化学、工学で調べたい対象が微分方程式の解になっている。
・関数の性質を微分方程式を使って調べる。
この記事ではこの点について説明していきます。

数の方程式


未知の量  x yなどと実数(あるいは複素数)の四則演算を用いて得られる関係式は数の方程式です。例えば、 y^2 + 1 = 0 x+y=1などは数の方程式です。また、 \sin xなどの関数を用いて定義できる方程式も数の方程式です。例えば、 \sin^2 x + \sin x = 0は数の方程式です。 未知の量に代入して成り立つ数が方程式の解です。


そもそも、どうして数の方程式を考えるのでしょうか?それに対する答えとして、「調べたい数が方程式の解になっている」ことと「数の性質を方程式を使って調べる」の2つをあげることができます。これらの事実について確認しましょう。

調べたい数が方程式の解になっている


中学生で勉強するような例で説明しましょう。


ある長方形があるとします。その長方形の面積は  12 \textrm{m}^2だと分かっています。辺の長さは分かっていませんが、直交する二つの辺の長さの差は  4 \textrm{m}であると分かっています。このとき、辺の長さを求めるという問題です。

短い方の辺を  x \, \textrm{m}と置きましょう。すると、もう一つの辺の長さは  x+4 \, \textrm{m}と書けるので、面積の公式から
 
\quad x(x+4) = 12
という方程式が得られます。解くと  x = 2であることが分かります。


この例で大切なことは、求めたい数を文字でおけば、方程式が得られることです。つまり、求めたい数を、方程式という数の関係を通して調べることができます。このように、求めたい数が方程式という関係で与えられているという状況が基本的であり、そのため方程式が必要となるのです。

数の性質を方程式を使って調べる


方程式が与えられれば、その方程式を解くことで求めたい数が分かります。例えば、2次方程式ならば簡単に解けますが、次数が上がるにつれてどんどん難しくなり、5次以上では四則演算や平方根など高校で学ぶような数の表示では解を書くことができないということが知られています(アーベルの定理)。表示が出来なくても近似解を求める方法はいろいろあって、例えば入試問題の題材になることもある「ニュートン法」という手法もありますが、これも万能ではないということが知られています。


しかし、解を完全に求める必要がないということも多いです。解のある性質を知るだけならもっと簡単に出来るのではないでしょうか。例として、2次関数の単元で学ぶことを復習しましょう。方程式
 
\quad x^2 + ax + b = 0
を考えます。 a bは実数とします。このとき、 b <0ならば正の解と負の解があります。逆に, b>0ならば、二つの解が存在すればそれらの符号は同じになります。さらに、 a > 0, b > 0ならば、二つ解があればどちらの解も符号が負になります。(以上のことはグラフを考えれば分かるのでした。)このように、解自体を求めなくても、係数から解の符号は簡単に分ります。


少し発展的な内容になりますが、方程式の解の実部の符号が全て負になるかどうかを調べることは、特に工学で非常に重要な問題です。(この微分方程式の連載の中でも出てくるかも。)この問題の答えは「フルウィッツの安定判別法」として知られています。(wikipedia:ラウス・フルビッツの安定判別法 )大切なことは、解を求めなくても方程式の形から解の性質が分かるというところです。

関数の方程式


次に関数の方程式について考えていきましょう。関数に対しても足し算、引き算、掛け算、割り算を考えることができますが、これだけでは数の方程式と同じことしか起こりません。そこで、関数に対して定義できる他の演算を考える必要があります。その一つが微分なのですが、それよりも身近にある演算があるので、まずはそれを扱いましょう。

差分方程式


関数  f(x)に対して新たに関数  f(x+1)を返す変換を  Sと書くことにします。つまり、 S(f(x)) = f(x+1)です。「 f(x) f(x+1)は同じ  fという関数では?」と思う人もいるかもしれませんが、例えば、 x = 0を代入すると  f(0) f(1)のように違う値を返すので違う関数です。(グラフを考えれば、 f(x)を平行移動したものが f(x+1)なので、グラフが違うことも分かります。)


 Sを2回使った  S(S(f(x) ) )  S(S(f(x) ) ) = f(x+2)となります。 Sをもっと使った式も定義できますが、書くのが大変なので、 n Sを使った式  S(S(\dots S(f(x))\dots) S^n (f(x) )と書きます。 S^n (f(x)) = f(x+n)となります。ついでに、f(x)f(x+1)ではなく  f(x-1)に変換する変換も考えたいところですが、それはS^{-1} (f(x)) = f(x-1)とおきましょう。 S(S^{-1}(f(x) ) ) = f(x)となるので、整合性があります。


さて、この  Sという変換を使った方程式を考えましょう。例えば、
 
\quad S(f(x) ) = f(x) + 1
はどうでしょう。つまり、
 
\quad f(x+1) = f(x) + 1
のことです。ここで、 xの代わりに nを使って、さらに、 f(n) a_nで表すことにすると、もっと見慣れた式、

\quad a_{n+1} = a_n + 1
となることが分かります。気がつきましたか?これは漸化式です。実は、漸化式はこの Sを用いた関数の方程式なのです。もっと複雑な方程式も考えることができます。例えば、
 \displaystyle
\quad S^{3} ( f(x) ) f(x) + f(x)^2 S( (f(x) )^2) - f(x)^5 = 0
とかは難しそうです。 f(x)は調べたい関数、つまり、未知の関数なので、 y で表すことにしましょう。するとこの方程式は
 \displaystyle
\quad S^{3} ( y ) y + y^2 S( y^2) - y^5 = 0
と書くことができます。このように、未知の関数yに対して、関数の四則演算と変換  Sを繰り返し用いることで定義できる方程式を差分方程式と言います。

微分方程式


次に、微分方程式を定義します。微分方程式とは、関数の四則演算と微分を繰り返し用いることで定義できる方程式のことです。ここでいう微分とは関数  f(x)に対して導関数 f'(x)を返す変換のことです。(微分係数を得る操作も微分と呼びますが、それとは違います。)


簡単に微分の性質を整理しておきます。微分では以下の公式が成り立ちます。
 \displaystyle
\quad (i)\, \{a f(x) + bg(x) \}' = a f'(x) + b g'(x) \quad \text{(「線型性」と言います)}\\
\quad (ii)\, \{ f(x) g(x) \}' = f'(x) g(x) + f(x) g'(x) \quad  \text{(「掛け算の微分公式」や「ライプニッツ則」などと言います)}\\
\quad (iii)\, \{ f(g(x) ) \}'  = f' (g(x) ) g'(x) \quad \text{(「合成関数の微分公式」と言います)}
微分方程式を考えるときには、この公式を使うだけで十分であり、微分の定義は忘れてしまっても良いことが多いです。(別の記事で微分について復習します。)


未知の関数を  yとすると、微分方程式として,

\quad y'' + y = 0


\quad y'' = x y
などを考えることができます。

調べたい対象が微分方程式の解になる

さて、微分方程式を研究するモチベーションを説明していきます。
おそらく物理で登場する最も基本的な微分方程式運動方程式

\quad ma = F
です。ここで、 mは質点の質量であり定数です。次に、 aは質点の加速度です。 yで位置を表すことにすると、 yの時間微分  \displaystyle y' = \frac{dy}{dt}が速度であり、さらに微分したもの \displaystyle y'' =  \frac{d^2 y}{dt^2}が加速度です。さらに、 Fは質点にかかる力です。 Fは位置や速度の関数となることが多く、 F(y,y')と書くことにします。すると、運動方程式微分方程式
\displaystyle
\quad m y'' = F(y, y')
と書くことができます。この方程式を解くことで、質点の運動が分かるのです。

いくつかの例を挙げておきましょう。
・自由落下する場合、重力加速度を gとすると、かかる力は  F = -mgで与えられるので、運動方程式

\quad my'' = -mg \quad \mbox{つまり} \quad y'' = -g
となります。
・バネにつながれた点を考えると、kをバネ定数とすると、かかる力は  F = -kyと書けます。なので、運動方程式
 
\quad my'' = -ky
となります。
・最後に、空中を飛んでいる質点の水平方向の運動を考えると、空気抵抗がかかります。空気抵抗は速度に比例して大きくなるので、ある定数 kを用いて、かかる力は  F = -ky'となります。よって、運動方程式

\quad my'' = -k y'
となります。


このように簡単な例を考えるだけでもいろんな種類の微分方程式が得られます。これらの微分方程式を解くことで運動を理解することができます。物理ではもっと複雑な微分方程式が出てきます。また、化学や工学のモデルは微分方程式で記述されていることが多く、微分方程式は研究の基礎です。

微分方程式を使って解を調べる


次に、微分方程式を使って関数の性質を調べることについて例を用いて説明します。数の方程式と同様微分方程式も解を求めることは難しいため、微分方程式から解の性質を調べることが重要になります。以下の説明では \sin x \log xを使いますが、これらの微分については連載で説明します。 f(x),g(x)xの関数とすると、方程式

\quad y'' + f(x) y' + g(x) y  = 0
は線形微分方程式と呼ばれるものになっています。 \sin x \cos xは、 f(x) = 0, g(x) = 1とした方程式

\quad y'' +y = 0
の解となっています。一方、 \log x\displaystyle f(x) = \frac{1}{x}, g(x) = 0とした方程式
 \displaystyle
\quad y'' + \frac{1}{x} y' = 0
の解になっています。この方程式に現れる \displaystyle f(x) = \frac{1}{x} と解  \log xは共に  x = 0では値が定義されないことに注意しましょう。実は、方程式の  f(x), g(x)が定義されない  xと解が定義されない  xにはある関係があるのです。


さらに、 a,b,cを定数として、\displaystyle f(x) = \frac{c - (a+b+1)x}{x(1-x)}, g(x) = \frac{-ab}{x(1-x)}とおいた微分方程式
 \displaystyle
\quad y'' + \frac{c - (a+b+1)x}{x(1-x)} y -  \frac{ab}{x(1-x)}y = 0
を考えましょう。この方程式はガウスの)超幾何微分方程式と呼ばれる方程式です。a = 0, b = -1, c = 1とおくと、 \log xを解に持つ方程式になります。また、 \displaystyle a= \frac{1}{2}, b= \frac{1}{2}, c = \frac{3}{2}とおいた方程式の解を用いると、 \sin x逆関数を書くことができます。他にも、多くの基本的な関数が超幾何微分方程式の解として現れます。


物理に現れる様々な解析において、この超幾何微分方程式が現れます。超幾何微分方程式は性質を完全に知ることができるものの中である意味一番難しい微分方程式です。そのため、この方程式を勉強すれば物理を研究する上で非常に役に立ちますし、逆にこの方程式より難しい方程式は数学の研究対象になります。

おわりに


今回は微分方程式を勉強するモチベーションについて説明しました。次回は微分方程式の用語を説明します。
これから、どんどん記事を充実させていく予定です。ご意見・ご感想があれば、コメント欄に書くかtwitterのLoveブルバキにご連絡くださると嬉しいです。

おまけ


関数に対しては微分の他に  Sという変換がありました。微分 Sの両方を使った方程式は微分差分方程式 と呼ばれます。例えば、

\quad y' +S^2 (y) = y^2
特に、

\quad y' = (y, S^{-1}(y), S^{-2} (y), \dots \text{の関数} )
という形に書ける微分方程式時間遅れをもつ微分方程式と言います。つまり、微分が少し前の値を使って定まります。このような方程式は制御理論なので現れ工学上も非常に重要です。ただし、一般には難しい方程式なので研究も難しいです。