記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

数学

数列の和を計算する方法

突然ですが、なぜ(不定)積分は便利なのでしょうか? それは定積分が計算できるからです。 が の原始関数であるとしましょう。つまり、 としましょう。すると、 の定積分は と計算できるのでした。これは高校では定積分の定義であって役に立つもなにもない…

AならばBの論理は論理的に難しいのか?

「AならばB」という論理は高校数学で学びますが、具体的な内容になると「BならばA」との混同や対偶との同値性が分からないなど、けっこう難しいものです。 今回は、「AならばB」に関する心理学の話題を紹介します。 数学教育に興味がある人にはぜひ読んでほ…

解けるの三様~可積分系を学ぶ際の注意点~

数学において、「~は解ける」「~は解けないと証明されている」などと気軽に言われます。例えば、「三体問題は解けないと証明されている」などです。しかし、「解ける」はいろんな意味で使われることが多く、定義を確認しておかないと、ほぼ情報のない文章…

超幾何方程式の特性指数の差をずらす操作について

ガウスの超幾何方程式が代数解を持つものは、シュワルツによりリスト化されています.ここで、リストの右の付加条件が気になります.実はこの条件は方程式を簡単なものに変換するための条件と関係するのです.つまり,整数の差はおおむね無視することができ…

有理関数体と付値

一変数代数関数体の理論は非常に有用であるものの,定義や定理のイメージを持つことが難しいと思います.今回は複素係数の有理関数環 の場合に考えることで,それを元に一変数代数関数体で何を議論するのかというのを紹介しようと思います.普通に数学をやっ…

BCH公式をMould解析で証明する

指数関数の公式 がありますが,行列のように が可換でないときにはこの公式は成り立ちません. がどのようになるかを教えてくれるのがBaker–Campbell–Hausdorffの公式(BCH公式)です.(正確には,式を陽に書き下したディンキンの公式を扱います.)証明は…

三体問題を解く(正三角形解と共線解)

前回、二体問題はケプラー問題に帰着されることとケプラー問題は解けることを見ました. tetobourbaki.hatenablog.com三体問題は一般には解けませんが,解ける解として正三角形解と共線解(直線解と言われることが多い)が知られています.下の動画ではこれ…

二体問題を解く話(四元数の応用)

二体問題は解けて三体問題は解けないと言いますが,二体問題の解法の一つを紹介します.これは三体問題に関する次の記事の準備というのが最大のモチベーションです。せっかくなので以下の論文で紹介されている四元数を使った解法を説明します. Jan Vrbik, "…

解ける線形微分方程式の話

微分ガロア理論では初等関数が扱えます.その定義はわりとわかりやすいのですが,さらに微分ガロア理論的にはLiouville拡大の方が重要な関数のクラスを定めています。しかし,その定義は初見では分かりにくいため,その意味を解説します. Liouville拡大 解…

対数関数の超越性

対数関数 は有理関数を係数に持つ多項式の零点にならない.つまり,対数関数は超越関数である.超越関数であることの証明方法はいくつかあると思うが,微分代数の基本的な命題から簡単に証明できることが気がついたので紹介する.どこか議論がおかしければ誰…

可約な場合の超幾何方程式の解について

本記事では以下の定理を示す. (定理) とおく. の 1 つが奇数ならば は初等関数とその積分で書ける.これは方程式が可約のとき,方程式が解けることを意味する.特殊な場合として,可約な場合の超幾何方程式も解ける.もっと言えば,超幾何方程式に帰着さ…

なぜ素イデアルを点と見るのか

代数幾何について最近ちょっとしっくりきたのでまとめておきます.タイトルでは素イデアルを挙げていますが,そこに至るまでを詳しく書きます.いろんな説明の仕方があると思いますが,幅広く議論する気はありません.アファインの場合だけを考えますし層の…

単独高階微分方程式の連立一階微分方程式への変形について

単独高階線形微分方程式を一階の連立微分方程式に変形する方法は有名です.一方,逆に連立方程式を単独高階方程式に直せることが知られています.この事実は時々説明されることはあるものの証明が書かれていることはほとんどないです. そこで巡回ベクトルを…

オイラー・ポアソン方程式とリー・ポアソン構造

(この記事は数理物理 Advent Calendar 2018 - Adventar 4日目の記事です。)固定点を持つ剛体の運動を表す方程式(つまり,コマの方程式)はオイラー・ポアソン方程式と呼ばれ*1,以下のように書ける. 本記事の目標はこの方程式がラックス形式で書けること…

発散級数とBorel-Laplace総和

この記事では,収束するとは限らない級数に関数を対応させる方法である,ボレル変換とラプラス変換を説明します.例として,ときどき紹介される謎の式 についても説明します.前提知識がある人のために注意しておくと,本記事では原点が特異点の場合を考えて…

位相空間論とフィルター

位相空間論の性質を論じるにあたって,フィルターが非常に便利です.この記事では,フィルターの使い方を解説します. 最初の節では,フィルターやフィルターの収束を定義します.位相空間の基本的な用語をフィルターで言い換えていきます.次の節では,コン…

数学のpdfを書いています

書きながら公開している数学のpdfをブログでも見れるようにしようと思います。・微分ガロア理論入門 微分ガロア理論をほとんど前提知識を仮定せず解説しています。 微分ガロア理論入門 - Google ドライブ微分ガロア群を定義したところまで進んでいます。次は…

新入生に勧める数学書2018

ツイッターで大学新入生にオススメの数学書を、ハッシュタグ #新入生に勧める数学書2018 で募集しました。タグを作りました。皆さん、自由に語りましょう。いろんな立場の人が選ぶことで、楽しいリストができると思います。#新入生に勧める数学書2018#新入生…

吉田善章『応用のための関数解析』

今回は関数解析の本の感想を書きます. 関数解析の使い方が分かる非常に面白い本です.新版 応用のための関数解析―その考え方と技法 (SGC BOOKS)作者: 吉田善章出版社/メーカー: サイエンス社発売日: 2006/10/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 2回この商…

Liouvilleの定理の証明

今回はついにLiouvilleの定理の証明をします。以前の結果を使ったり、少し面倒な補題が必要になるので、証明のアイデアがわかることを重視して書こうと思います。 の不定積分が書けないことの証明は、以下の記事を参考にしてください。 http://tetobourbaki.…

ライプニッツ則と合成関数の微分

ライプニッツ則と合成関数の微分の関係について、少し書いておきます。 一般の体 を考えます。この体が微分体であるとは、関数 があり、以下の2つの条件を満たすことを言います: (i) (加法的) すべての に対して が成り立つ。 (ii) (ライプニッツ則) すべて…

微分環と双対数

微分環は、環の構造に加えて微分を考えているものでした。双対数を用いると、微分環は単なる環の議論に言い換えることができるということを知りました。けっこう感動したので、まとめておこうと思います。 双対数の定義 微分環と双対数 双対数の応用:微分を…

微分体の応用(Schanuel予想もあるよ)

今回は微分体の応用として、と が有理関数体 上で超越的であることを見ていきます。 実は、今回の内容はLiouvilleの定理の証明の準備になっています。 (というより、Liouvilleの定理の証明が大変なので、記事を分けることにした次第です。) おまけとして、と…

【書評】求積法のさきにあるもの

今回は磯崎洋『求積法の先にあるもの 微分方程式は解ける』を紹介します。 簡単に読めるが、なかなか難しいことまで書いてる良書です。求積法のさきにあるもの: 微分方程式は解ける作者: 磯崎洋出版社/メーカー: 数学書房発売日: 2015/03/15メディア: 単行本…

不定積分が初等関数で表せないものについて(Liouvilleの定理)

ご存知の方も多いように、やの不定積分は高校で習うような関数(初等関数)では書くことができません。 今回は、このことを証明するために使われるLiouvilleの定理とその応用を紹介します。 今回の内容では、Liouvilleの定理の証明や"初等関数で書けない"と…

初等関数で書けないとは、どういうことか

の不定積分は計算できない、 もっというと、初等関数では原始関数が書くことができないと言われます。 今回は"初等関数で書ける"ことの厳密な定義を述べます。 微分体の復習 "初等関数で書ける"の直感的な意味 "初等関数で書ける"ことの微分体による定式化 …

Σの公式の秘密

今回は、数列の単元のΣの公式について書きます。 Σの公式を覚えていますか 美しき超Σ公式 超Σ公式の解釈 場合の数の公式を思い出す。 おまけ Σの公式を覚えていますか 高校生や高校生だったみなさんの中には、やなどの和の公式、いわゆるΣの公式に悩まされた…

「正則関数」という用語を使うの止めたい

「正則関数」の何がおかしいか 複素関数論を勉強して少し経ってから、正則関数という用語がおかしい、もっと言うと誤訳であることに気がつきました。ついでに言うと、有理型関数というのもあまり良くない用語でしょう。これらについて、どこがおかしいかを述…

関数論の古くて新しい視点 アンリ・カルタン「複素関数論」

タイトル Elementary Theory of Analytic Functions of One or Several Complex Variables 著者 Henri Cartan 出版社 Dover 私が複素関数の面白さに目覚めた本 ブルバキのメンバーのアンリ・カルタンによる複素関数論の本です。 特徴としては、 形式ベキ級数…