読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

記号の世界ゟ

このブログでは, 数学書などの書評を書きます。また、受験などの勉強法をまとめます。

初等関数で書けないとは、どういうことか

 e^{x^2}の不定積分は計算できない、
もっというと、初等関数では原始関数が書くことができないと言われます。
今回は"初等関数で書ける"ことの厳密な定義を述べます。
f:id:tetobourbaki:20170108183918p:plain

微分体の復習

さっと微分体や微分体の拡大について復習します。
まず、 Kを体とします。簡単のため、標数は0としておきます。
Kが_微分体_であるとは、写像\partial : K \to Kが存在して、
 (a.) 線型性、つまり、 \partial(a+b) = \partial (a)+ \partial (b) ,\, a ,\, b \in K;
 (b,) Leibnitz則、つまり、 \partial(ab) = \partial (a) b + a \partial (b) ,\, a ,\, b \in K
の二つの性質が成り立つことを言います。
簡単に a^{\prime} = \partial (a) と書くことにしましょう。
 C_K := \mathrm{Ker} (\partial )は体になることが知られています。
 C_KKの定数体と呼びます。


有理関数体K = \mathbb{C} (X)は普通の意味の微分微分体になります。
定数体はもちろん\mathbb{C}です。
微分体ではその元の代数的な関係のみを見ており、関数ということを忘れています。
これは長所であり短所でもあります。
微分体では商の微分公式など、様々な公式が成り立ちますが、合成関数の微分公式は素朴には成り立ちません。
というよりも、まず合成関数が素朴には定義できません。
ここの扱いが、今回の記事のポイントになっています。


次に、微分体の拡大について説明します。
体の拡大 K \subset Lが存在し、K,\, Lが共に微分体であり、なおかつ、L微分Kへの制限がK微分と一致するときに、
 K \subset L微分体の拡大と言います。
K微分体、LKの単拡大L = K (a)の場合を考えて見ましょう。
まだ、a微分が定まっていないため、L微分体ではありません。
非常に強力な微分体の性質として、
 ・a \in LK上で代数的なら、K \subset L微分体の拡大となるように、L微分体の構造が一意に定まる。
 ・a \in LK上で超越的なら、任意の元 b \in Lに対して、\partial (a) = bとなる微分体の拡大K\subset Lとなるように、L微分体の構造が一意に定まる。
というものがあります。
この性質は、微分体の拡大を考えるときに常に頭に置いておくべきものです。

"初等関数で書ける"の直感的な意味

少し話が変わって、不定積分が初等関数で書けるということの意味を考えてみましょう。
初等関数とは高校で勉強する関数のこととします。
具体的には、多項式、有理式、三角関数、指数関数、対数関数が高校で勉強する関数です。
また、これらを四則演算することで表される関数や、初等関数を係数とする代数方程式の解、関数の合成も初等関数と呼ぶことにしましょう。
あと、初等関数の微分も初等関数とします。
よって、\sin^2 ( e^{x^2}) \sqrt{\log(x)-x}などは初等関数です。


すぐに分かることですが、\displaystyle \sin x = \frac{e^{ix}- e^{-ix}}{2i}などを考えれば、
初めの段階で三角関数を初等関数に入れる必要はありません。
つまり、初等関数とは、有理関数体\mathbb{C} (X)から始めて、
(i) 四則演算、(ii)微分 (iii)代数方程式を解く、(iv)指数関数に代入する、(v)対数関数に代入する、(vi)合成をとる、を繰り返し行うことで得られる関数である
と定義することができます。
これが古典的な意味での初等関数です。


さて、初等関数で"不定積分が"書けるという意味を考えましょう。
例えば、"ある不定積分\log(\sin(x) + \sqrt{x})と書ける"とはどういうことでしょうか?
\sqrt{x} \log(x)は実数の範囲では、正の実数で定義される関数だと考えることが多いでしょう。
複素数の関数と考えても、原点が特異点であり多価関数です。
つまり、素朴な意味では関数ではないですし、毎回定義域や分岐を考えるのでしょうか?

F(x)f(x)の原始関数であるとは、単にF^{\prime} (x) = f(x)であることでした。
つまり、積分をするときには、微分がどうなるかしかそもそも考えていません。
つまり、関数であることは問題外だったわけです。
上で挙げた例でも、
 {\displaystyle
 \left\{ \log(\sin(x) + \sqrt{x}) \right\}^{\prime} = \frac{1}{\sin(x) + \sqrt{x}} \left\{ \cos (x) + \frac{1}{2 \sqrt{x}} \right\}
}
と計算できるため、関数としてどうであろうと、 \displaystyle \log(\sin(x) + \sqrt{x})  \displaystyle \frac{1}{\sin(x) + \sqrt{x}} \left\{ \cos (x) + \frac{1}{2 \sqrt{x}} \right\}の原始関数であると分かるわけです。

"初等関数で書ける"ことの微分体による定式化

さて、微分体によって、初等関数で書けることを定式化しましょう。
 K微分体とします。
まず、指数関数への代入と対数関数への代入を考えます。
a \in Kに対して、e^a \in Kであることの意味を考えます。
\displaystyle
(e^a)^{\prime} = e^a a^{\prime}
であることを期待するので、
\displaystyle
\frac{b^{\prime}}{b} = a^{\prime}
となるときに、 b aの指数といい e^{a}と書くことにします。
任意の定数 c \in C_Kに対して、\displaystyle \frac{(c e^{a}))^{\prime }}{ce^{a}} = a^{\prime}
となるので, ce^a aの指数です。
つまり、 e^{a}という表現には定数倍だけ不定性があるのですが、原始関数を求めるという目的の下では問題はありません。
むしろ、これが自然であるとも考えられます。
同様に、
 \displaystyle
b^{\prime} = \frac{a^{\prime}}{a}
となるときに、ba対数といい \log aと書くことにします。
指数の場合と同様の問題点はあります。


前節の(i)-(vi)ふまえて定式化したいのですが、(i)は体であること、(ii)は微分体であること、(iii)は代数的であることで定義できます。
上のことと合わせることで、(i)-(v)については容易に定式化できます。
微分体の拡大K \subset Lが初等拡大であるとは、拡大の列
\displaystyle
K = K_0 \subset K_1 \subset \dots \subset K_N = L
が存在し、 各拡大が単拡大 K_{i+1} = K_i (a_i) ,\, a_i \in K_iでそれぞれ以下のいずれかの場合になっていることをいう:
 (a)  a_iK_i上代数的;
 (b)  a_iK_iの元の指数;
 (c)  a_iK_iの元の対数
特に、K = \mathbb{C} (X)のとき、ある初等拡大K \subset LLの元を初等関数という。
これで、(i)-(v)については定式化できました。


微分体は関数としては扱っていないので、問題は(vi)の合成をとる操作です。
しかし、実は微分体の意味での初等関数と古典的な意味での初等関数は同じです。
つまり、初等関数と初等関数の合成(に対応する元)は初等関数になっています。
最後にこれを示しましょう。

少しトリッキーな議論をします。
例えば、\displaystyle (e^{g}) \circ f = e^{g\circ f} なので、 gfの合成が定義されていれば、e^gfの合成は定義できます。
このような議論をするために必要な式を列挙すると、
\displaystyle
\begin{align}
(g_1 \pm g_2) \circ f &= (g_1 \circ f) \pm (g_2 \circ f)\\
(g_1 \cdot g_2) \circ f &= (g_1 \circ g_2) \cdot (g_2 \circ f) \\ 
(g_1 / g_2) \circ f &= (g_1 \circ g_2) /(g_2 \circ f) \\ 
g^{\prime} \circ f &= \frac{( g\circ f )^{\prime}}{f^{\prime}}\\
 (e^{g}) \circ f &= e^{g\circ f}\\
 (\log g) \circ f &= \log (g \circ f)\\
 (g_1 \circ g_2) \circ f &= g_1 \circ (g_2 \circ f)
\end{align}
となります。
また、 gが代数的で、 g^n + a_1 g^{n-1} + \dots + a_n = 0となるとき、

(g \circ f) ^n + a_1 (g\circ f) ^{n-1} + \dots + a_n = 0
より、g\circ fも代数的。
つまり、代数的元との合成は代数的な元であることが分かる。
以上の公式を用いると、g\circ fが定義できるかを考えるためには、gをどのような操作で作ったか辿っていき、最初の段階でfとの合成関数が定義できていれば、g\circ fが定義できることが分かりました。
さて、最初は有理関数体から始めたわけですが、有理関数自体も定数\mathbb{C}と不定元Xの四則演算で書けていることに注意しましょう。
よって、初等関数は定数と不定元から(i)-(vi)の操作で作られるわけなので、定数体と不定元がfと合成が定義できていれば全ての議論が終わります。
定数c \in \mathbb{C}に対しては c \circ f = c、不定元に対しては X \circ f = fと通常通りに定義できる(合成が初等関数である)ので、任意の初等関数同士の合成も初等関数であることが分かりました。

まとめ

初等関数で書けることは、初等拡大に入っていることと言い換えることができると分かりました。
微分体とは言え、ガロア理論で方程式を議論するのと近い雰囲気が漂ってきましたね。
残念ながら、微分ガロア群を使わずともLiouvilleの定理は証明できるので、そうします。
実は初等拡大と微分ガロア群は関係するみたいなのですが、僕が完全にはフォローできていません。

今回は結構頑張って書いたので疲れました。
Liouvilleの定理の証明も近いうちに書きますね。

参考文献
A. G. Khovanskii, On solvability and unsolvability of equations in explicit form

読者募集中です!! 気に入ってくださった方はクリック{・λ・}

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑