記号の世界ゟ

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位相性と正則性

位相空間を一般化した収束空間はもちろん位相空間とは限りません.では,位相的であるという性質は何を意味するのでしょうか.実は,正則性の条件の類似であることが知られています.今回はこのことを紹介します.この記事では基本的に以下の記事の知識を仮定します.
tetobourbaki.hatenablog.com

収束空間と位相性(復習)

まず,収束空間の定義を復習する.

定義1(収束空間)

集合  X収束空間であるとは,各点  x \in X に対して、フィルターの集合  \lambda (x) が定まっており以下が成り立つことをいう:

(i) 任意の  x \in X に対して, \langle x \rangle \in \lambda (x) が成り立つ.

(ii) フィルター  \mathcal{F} \in \lambda (x)  \mathcal{F} \subset \mathcal{G} が成り立つなら  \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ;

(iii) フィルター  \mathcal{F}, \mathcal{G} \mathcal{F}, \mathcal{G} \in \lambda (x) ならば,フィルター  \mathcal{F} \cap \mathcal{G} \in \lambda (x) が成り立つ.

 \mathcal{F} \in \lambda (x) のとき, \mathcal{F} x収束するといい  \mathcal{F} \to x と表す.

(注意)以下の議論では(iii)を弱めた

 \quad (iii) ^\prime フィルター  \mathcal{F} \mathcal{F} \in \lambda (x) ならば,フィルター  \mathcal{F} \cap \langle x \rangle \in \lambda (x) が成り立つ.

でも十分である.

以下で重要になる近傍フィルター,閉包作用素,開核作用素を確認する.
近傍フィルター

 \quad \mathcal{V} (x) := \{ A \subset X \mid \mathcal{F} \to x ならば  A \in \mathcal{F} \}

閉包作用素

 \quad \mathrm{Cl} (A) := \{ x \in X \mid \mathcal{F} \mathcal{F} \to x かつ  A \in \mathcal{F} となるものが存在する \}

開核作用素
 \quad \mathrm{I} (A) := \{ x \in X \mid \mathcal{F} \to x ならば  A \in \mathcal{F} \}

ちなみに,

 \quad \mathcal{V} (x) = \{ A \subset X \mid x \in \mathrm{I} (A) \}

と書けることは重要である.

次に,収束空間が位相的であるための条件を確認しよう.

命題2(位相空間

収束空間が位相的であるためには以下の二つの条件が成り立つことである:

(i) 前位相的である,つまり,近傍フィルター  \mathcal{V} (x) x に収束する.

(ii) 任意の  x A \in \mathcal{V} (x) に対して,ある  B \in \mathcal{V} (x) が存在して全ての  y \in B A \in \mathcal{V} (y) が成り立つ.

正則空間

これまでの記事では分離公理について触れてこなかった.収束空間で正則性を定義するには閉包を用いる.

補題
フィルター  \mathcal{F} に対して,
 
\quad \mathrm{Cl} (\mathcal{F}) := \{ \mathrm{Cl} (A) \subset X \mid A \in \mathcal{F} \}
とすると, \mathrm{Cl} (\mathcal{F}) はフィルター基である.これをフィルター  \mathcal{F} の閉包と呼ぶ.

簡単なので証明は省略する.一般に, \langle \mathrm{Cl} (\mathcal{F} ) \rangle \subset \mathcal{F} なので,フィルターの閉包を取ると粗くなる.正則性とは,収束するフィルターの閉包をとって粗くしても,やはり収束するということである.


定義4(正則)

位相空間  X正則であるとは,全てのフィルター  \mathcal{F} に対して  \mathcal{F} \to x ならば \mathrm{Cl} ( \mathcal{F} ) \to x となることである.

さて,正則性は位相空間においてよく知られた定義と一致することが知られている.その他にもほとんど普通に想像する正則性と一致することが知られているがこの記事では省略する.

位相性と正則性の対比

さて,位相的であることを正則の定義に類似した形で与えよう.そのために,天下り的であるがフィルターの閉包から着想を得た以下の作用素を考えよう.

定義5(近傍化フィルター)

フィルター  \mathcal{F} に対して,
 
\quad \mathrm{V} (\mathcal{F} ) := \{ A \subset X \mid \mathrm{I} (A) \in \mathcal{F} \}
を フィルター  \mathcal{F}近傍化フィルターと呼ぶ*1

近傍化フィルターが実際にフィルターであることや  \mathrm{V} (\mathcal{F}) \subset \mathcal{F} が成り立つのことはすぐに分かる.これを用いると,正則性と全く同様の形式で位相性を特徴付けることができる.

主定理6

収束空間  X に対して, X が位相的であることと,全てのフィルター  \mathcal{F} に対して  \mathcal{F} \to x ならば  \mathrm{V} (\mathcal{F} ) \to x が成り立つことは同値.

主定理を証明するために,いくつかの性質を見ていく.唐突に出てきた近傍化フィルターではあるが,これを用いればいろんな性質を表すことができる.

補題
収束空間において, \mathrm{V} (\langle x \rangle) = \mathcal{V} (x) である.

証明. A \in \mathrm{V} ( \langle x \rangle )  \Leftrightarrow \mathrm{I} (A) \in \langle x \rangle \Leftrightarrow x \in \mathrm{I} (A)
\Leftrightarrow A \in  \mathcal{V} (x) \quad \square

この補題が,近傍化フィルターという用語の由来である.

次に,近傍の開核が近傍であるという位相空間の性質に注目しよう.これは, A \in \mathcal{V} (x) ならば, \mathrm{I} (A) \in \mathcal{V} (x) ということであるが,これは以下のように近傍化フィルターを用いて書き換えることができる.

補題
収束空間において以下の性質は同値:

(i)  A \in \mathcal{V} (x) ならば, \mathrm{I} (A) \in \mathcal{V} (x) ;

(ii)  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x)

証明.一般に \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \subset \mathcal{V} (x) は成り立つので,(ii) は  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \supset \mathcal{V} (x) である.同値性の証明は定義通りの言い換えであるので機械的に示せる. \square

上の二つの補題が近傍化フィルターの役割を表している.さらに,上の事実で位相的であることを特徴付けることはほとんど終わっている.まず,前位相的であることは  \mathcal{V} (x) \to x であるが,これは  \mathrm{V} (\langle x \rangle) \to x である.最後に次の単純な結果がギャップを完全に埋める.

補題

収束空間において,補題8の(ii)  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) が成り立つならば,命題2の(ii) が成り立つ.

(証明)任意の  A \in \mathrm{V} (x) をとると,仮定により  \mathrm{I} (A) \in \mathrm{V} (x) である.そこで, W = \mathrm{I} (A) とすると, y \in W に対して, y \in \mathrm{I} (A) なので  A \in \mathcal{V} (y) である.よって命題2の(ii)が成り立つことが分かった. \square

補題 10
収束空間  X において以下は同値:

(i)  X は位相的;

(ii)  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x かつ  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x);

(iii)  \mathcal{F} \to x ならば  \mathrm{V} (\mathcal{F} ) \to x

(証明)
(i)  \rightarrow (ii)について.位相的なら前位相的なので  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) = \mathcal{V} (x) \to x.また,位相空間において補題8の条件が成り立つことは知られているので  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) が成り立つ.

(ii)  \rightarrow (i)について.  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的.補題9より命題2の(ii)が成立するので,命題2により, X位相空間

(ii)  \rightarrow (iii)について.  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的である. \mathrm{F} \to x とすると  \mathcal{V} (x) \subset \mathcal{F} なので  \mathrm{I} (\mathcal{V} (x)) \subset \mathrm{I}(\mathcal{F}) である. \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) = \mathcal{V} (x) なので, \mathcal{V} (x) \subset \mathrm{I} (\mathcal{F}) となり \mathrm{V}(\mathcal{F}) \to x である.

(iii)  \rightarrow (ii)について.収束空間の定義から, \langle x \rangle \to x なので,  \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x である.また,これから  \mathcal{V} (x) = \mathrm{V} (\langle x \rangle ) \to x なので前位相的であり  \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \to x となるので, \mathrm{V} (\mathcal{V} (x)) \supset \mathcal{V} (x) となる. \square

この補題により主定理が示せた.

まとめと参考文献

今回の記事で位相的であることと正則であることが同じ形式で特徴付けることができると分かった.一般的には"Compression operator"と呼ばれるものを用いた"diagonal"性により位相的であることと正則であることを関連づけることが多い.歴史的にはこの方法が先であるものの,そういうやり方はちょっと複雑なので今回の記事では

Scott, Wilde and Kent, "p-Topological and p-regular: dual notions in convergent theory"

の方法を参考にした.例えば,

Brock and Kent,"Probabilistic convergence spaces and regularity"

では,収束空間,正則収束空間,位相空間のなす圏をそれぞれCONV,RCONV,TOPとしたとき

It is well known that both RCONV and TOP are bireflective subcategories of CONV, since the properties "regular" and "topological" are both preserved under formulation of initial structures.

であると述べている.これが最も興味のあるところなのであるが,残念ながら圏論が苦手なこともありまだ理解するには至ってない.

*1:原論文に忠実になるなら,「フィルターの近傍フィルター」と呼ぶべきではあるが,近傍フィルターとややこしいので近傍"化"フィルターと呼ぶことにする.