物理学の様々な分野を勉強する上で,電磁気学は理論のお手本として提示されることが多い.つまり,成功した理論である電磁気学との類推で新しい理論の方針を決めるという場面が非常に多い.そのため,電磁気学のどこを見て成功している理論と呼んでいるのかを理解していなければ,その他の分野を勉強する上で指針がなくなってしまう.そこで,他の分野へのお手本として電磁気学を捉えるという目標で,電磁気学を整理していく.
マクスウェル方程式
電磁気学で扱われるすべての現象は以下のマクスウェル方程式から導くことができる.本記事ではマクスウェル方程式の物理的な意味の説明は省略し,この方程式自体を考察するところから始めていく.
マクスウェル方程式だけでは,条件は不十分で,適切な問題設定を与えなければならない.特に,と および と の関係を表す条件が与えられなければ,方程式は解きようがない.状況の一つとして,例えば等方一様媒質においては以下の関係が成り立つのであった.
このような条件があれば,あとは および境界条件を与えることで方程式の解を考えることができる.
ポテンシャル
マクスウェル方程式は4つの変数 に関する方程式であるが,ポテンシャルと呼ばれる変数を用いれば便利である.これを導入するために以下のベクトル解析の定理を用いる.
このポアンカレの補題を用いよう.
マクスウェル方程式(2) より、 となる が取れる.さらにこの式とマクスウェル方程式 (4) により
なので,ポアンカレの補題により
となる が取れる.つまり, を用いて
と表すことができる.この を磁束密度 に対するベクトルポテンシャル, をスカラーポテンシャルと呼ぶ.
がポテンシャルであるとは,
を満たすことをいう.
ゲージ変換
ポテンシャル を導入したが,ここで,
となる を取ると,
となる.つまり, もポテンシャルになるのである.あるいはポテンシャルには 分の不定性があると言ってもいい.
このように, を に変化させることをゲージ変換といい,この変換で が変わらないことはゲージ不変性と呼ばれる.
ところで,
なので, となる関数 が存在する.さらに
なので, にのみ依存する関数 で
と書ける.ここで, を改めて と書くことにすると
が成り立つ.つまり,ゲージ変換とはある関数 を用いて
と変換することに他ならないことがわかった.
ある関数 を用いて
とポテンシャルを変換すること.
ゲージ変換によりポテンシャルが良い性質を満たすように変換することができるが,そのようにしてポテンシャルを一つの形に決めることをゲージを固定するという.
ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式
最後にゲージ変換の応用を述べる.マクスウェル方程式 (1) と (3) をまだ使っていなかった.等方一様媒質と仮定すれば
なので,これとポテンシャルを用いてマクスウェル方程式を書き換える.
それにはベクトル解析の公式を用いる.
さて,この公式とポテンシャルを用いれば,ちょっと計算すれば,マクスウェル方程式(1)は
となる.また,マクスウェル方程式(3)は
となる.
マクスウェル方程式(2)と(4)はポテンシャルの定義から自動的に成立するので,ポテンシャル を用いればマクスウェル方程式は
となる.
最後にゲージ変換により,ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式を簡単化することを考えよう.