理想的な物理理論としての電磁気学(3)
ラグランジュ密度を用いて微分方程式を出す方法とその利点をまとめていきます.
以下の記事の続きです.
tetobourbaki.hatenablog.com
今回はコッティンガム,グリーンウッドの『素粒子標準模型入門』を参考にしています.
連続系のラグランジュ形式
普通の解析力学ではラグランジュ形式で常微分方程式を導くことができた.連続系の場合で使われる,ラグランジュ密度を用いて偏微分方程式を導く方法を私は知らなかったので,まずは具体例でそれを見ていく.
両端を固定した弦を考える.張力によるポテンシャルエネルギーは
であり,弦の運動エネルギーは
と書ける.よって,ラグランジアンは
となる.すると作用は
であるが,
とおけば,
と書ける.この をラグランジュ密度と呼ぶ.
ラグランジュ密度は に依存しているので, と書く.作用 の変分を計算すると,
であるが, に注意して,さらに任意の で かつ任意の で を仮定すると,部分積分により,
となる.よって,任意の任意の変分 で を課するとオイラー方程式
を得る.今のラグランジアンでは方程式
を得る.これは波動方程式である.
ローレンツ共変な場の理論
前回の記事で導入した4次元変数 を考える.ラグランジアンは
となる.積分は時空間全体をとる.さて,作用 はローレンツ不変になっているのが自然であろう.微分形式 はローレンツ不変であることが分かるので, はスカラーであるべきであり,もっというとスカラーに依存した関数であると考えるのが自然である.
今回はスカラー場 を用いて書けるラグランジアン密度
を考える.特にこの場合は が座標 に直接は依存していないことが重要である.変分を取って,無限遠方で を課すると部分積分により,
よって,任意の変分 で とすると,場の方程式
を得る.
作用の変分の条件から得られる以下の方程式を場の方程式と呼ぶ.
電磁場に戻る前に,もう少し一般論を考える.エネルギー保存は時間 の平行移動による対称性から導出されるのであった.また,運動量の保存は空間の平行移動による対称性から導出されるのであった.今の記法を用いれば微小な平行移動は
と書くことができる.このときのラグランジュ密度の変分を二つの方法で計算する.場の方程式を用いれば,
今の変分の取り方から
なので,
である.一方, は に直接は依存していないことに注意して,記号の乱用ではあるが, と書くことにすると,今の変分の取り方では
と書ける.よって,平行移動の任意の変分で の計算の仕方が等しいという条件から
を得る.ここで現れるテンソル
はエネルギー・運動量テンソルと呼ばれるものである.
得られた式のうち, の場合は
はエネルギー保存を意味する.実際,エネルギーの流速が遠方で と仮定するとガウスの発散定理により,
となる.同様に, が遠方で と仮定すれば,運動量保存
を得る.