本記事では以下の定理を示す.
これは方程式が可約のとき,方程式が解けることを意味する.特殊な場合として,可約な場合の超幾何方程式も解ける.もっと言えば,超幾何方程式に帰着させてこの定理は証明される.証明を追えば,解の求め方も知ることができる.
参考文献は
[1] 河野実彦,微分方程式と数式処理
[2] 福原,大橋,初等関数で表せるRiemannのP函数の決定について
[3] Kimura, On Riemann's Equations which are Solvable by Quadratures
である.木村の定理やSchwartzによる代数解のリストについて書いた文章はネットにも結構あるが,それよりも簡単な場合の可約な場合についての解説がなかなかないと思ったのでまとめておく.
一つ注意として,文献 [1] [2] は初等関数と積分を用いて表されるものを単に初等関数と呼んでいるが,初等関数のクラスでは積分は許さないことが多い.実際, が初等関数で書けないことは有名であるが,初等関数に積分を許すと,これが意味をなさないことになる.
基礎知識
有理関数を係数に持つ 階の線形微分方程式を考える.特に, 点を確定特異点に持つフックス型の微分方程式を考える.簡単のため,特異点の一つは とする.ここで用いた用語の解説は省略するが,(1) 特異点ごとに特性指数と呼ばれる つの数が定まる (2) 特異点が つの場合それらの確定特異点で方程式が完全に決定する,の つを受け入れていただければ,後の議論は理解できる.
例えば, の特性指数を , の特性指数を , の特性指数を とすれば,微分方程式は
となる.(確定特異点と特性指数の定義が分かれば簡単に計算ができる.)決定された方程式を見れば分かるように,各特異点の特性指数の順序は交換しても良い.(例えば, と を変えてもよい.)特性指数で方程式が決まるので,この方程式の解の集合を
と表す.これをRiemannの 関数と呼ぶ.ただし,特性指数の和は必ず になる,つまり となるので全てを自由に取れるわけではない.独立変数の変換 により,
となる.つまり,特異点は に固定してよい.さらに, と従属変数の変換をすれば,
と変換することができる.(普通に変数変換すれば分かる.)つまり, のそれぞれの特性指数の つを にすることができる.特性指数の和が になることに注意すれば,微分方程式を決定する本質的な特性指数の個数は つである.ここで,変換 により,特性指数の差 も不変になっていることに注意せよ.ここで用いた独立変数と従属変数の変換を用い,定数を書き換えると,考えている全ての方程式は以下の 関数に帰着される.
これが満たす方程式が超幾何方程式と呼ばれる以下の方程式である.
可約性
階の有理係数の線形微分方程式において, でない解 が 階の有理係数の方程式 の解になっているとき,方程式は可約であるという.今考えているような つの確定特異点を持つ 階の方程式に対しては以下の同値性が知られている.
を解に持つ方程式を考える.また,特性指数の差を とおく.このとき,以下が同値,
(1) 方程式は可約である.
(2) 以下の つの数
のいずれかが奇数.
(3) 以下の つの数
のいずれかが整数.
条件(3)で つの数を見なければいけないのは,特性指数の順番を変えても方程式は変わらないことに由来する.このことは特性指数の差で言えば,正負を変えても方程式は変わらないことを意味し,(2) も つの数を見なければいけないことになる.
証明.(2) ならば (3) であること.奇数となる組みに対し, の式を加えれば (3) が示せる.
(3) ならば (2) であること.整数となるペアに対し, を引けば (2) が示せる.
(1)との同値性はそのうち示す.
定理の証明
補題を証明した後,示したかった定理を示す.
証明.定数をおき直して,超幾何方程式の定数の取り方
に対して証明する.このときの方程式は
である.これを微分すると,
となる.よって,
となる.
証明. の満たす方程式は
である.書き換えると
となる.積分すると
となるので、
であり,積分すると
となる.
証明.変数変換 により特異点を と になるので,
となる.よって,
が解ければよい.仮定により, としてよい.よって,
となり,補題により 回微分すれば,
となるから,これを積分することで, は初等関数の積分で書くことができる.以上より,
と書くことができる.
最後に注意として, の 回積分の全てが ではないことに注意する.実際, 回積分すると積分定数が合計 個出てきてしまい,それらが一次独立であれば が 階の微分方程式の解であることに矛盾する.ここで言っているのはあくまで が少なくとも の 回積分として書けるということだけである.